↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第十章 関西編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
67/79

第65話:釣りは釣れると楽しい

昼過ぎ。


ようやく掃除を終えた俺は念願の釣りを開始した。


人生二度目の釣りだ。


前の時と同じように近くの釣具店から持ち出した一番高級な釣竿を握りしめて、

ひたすら待つ……必要はなかった。


仕掛けを投げ入れて、一息もしないうちに浮きが沈んだ。


一瞬、何が起きたかわからなかった。


去年は半日やっても何も起きなかったのに。


「え? もう?」


そう思った瞬間、竿が引き込まれた。


「おわっ、いきなり来たぞ!

 どうすりゃいいんだ、これ。

 

 巻けばいいのか?

 ぐっ、すごい力だ!

 やばい、糸が切れそうだ。

 

 アイ、助けてくれ!!」


釣竿が手のひらに食い込んで痛かった。


竿が弓のようにしなり、今にも折れそうだ。


「山田さーん、頑張ってくださーい!」


アイの声は遠く、助けに来る気配はない。


「ちょ、マジでこれは無理だ!

 頼む!助けてくれ!」


「残念ながらそこまで行くのは無理です、一人で頑張ってください!」


「くそっ、このはくじょーものー!!」


考えてみれば当たり前なのだが、俺は失念していた。


狭くてにゃんタンクが入ってこれない。


風が強くてドローンが飛べない。


それは掃除だろうが、釣りだろうが変わらない。


何をするにしろ、俺は一人でやるしかないのだ。


俺がアイに悪態をついている間も魚の勢いは止まらない。


釣り針から逃れようと、めちゃくちゃに引っ張ってくる。


「ぐっ、魚のくせになんて力だ。

 おかしいだろうが」


テレビとかだと「この引きは○○ですね」なんて悠長にコメントしながら釣り上げていた。

俺にはそんな余裕はまるでない。

我ながら情けないが、釣竿を握る手が既にぷるぷるしている。


水面の下を走る影を見れば大きさはそこまで異常なサイズではない。


イルカやサメがかかったわけではないのだ。


それでも釣竿を持っていかれないように握っているのがやっとだった。


「山田さん、焦らないで!竿の強さを信じるんです!」


アイの言葉にハッとした。


そうだ。


俺が持っている釣竿は店で一番高い奴だ。


値段は正義。


ん十万円もする釣竿の強度を信じて俺は歯を食いしばり、力任せに竿を引き上げた。


ザバーーッ!


「うおっ!?」


水面から飛び出した魚は俺の頭上を越え、そのまま背後の地面へと叩きつけられた。


「……よっしゃ、獲ったぞーー!!」


地面に叩きつけられた魚は針をつけたまま暴れていた。


「くそっ、暴れるんじゃない!

 身体が砂利まみれになるじゃないか……」


悪戦苦闘しながら針を外して、水を張ったクーラーボックスに入れる。


……掃除をしておいてよかった。


危うく初めての釣果がゴミまみれになるところだった。


去年は浮きを眺めているだけで終わった。


それもまた一興などと格好をつけたものの内心はがっかりしていた。


それが今年はどうだ。


開始早々、釣り上げた。


しかもアイの助けを借りずに一人でだ。


たった一匹。


されど一匹。


釣竿を握りしめていた手がじんじんして痛かったが、

それ以上に喜びが勝っていた。


※※※※※


俺が釣り上げたのは真鯛だった。


記念すべき最初の一匹ということでサイズを測ってみたのだが――


「……なんかちっちゃくね?」


三十一センチ。


釣り上げた時は銀色に光って見えたが、あらためて見ると体色はピンクだった。


光の加減で鱗が虹色に輝いていた。


スーパーの切り身でしか見たことがなかったが、生きた鯛は思った以上に綺麗だった。


なんというかこれぞ真鯛という感じだ。


高級魚と言われるのも納得だった。


ただ、水中にいた時はもっと大きく見えたのだが、引き上げるとなんか思ったほどでもなかった。


逃した魚は大きいというが、釣った魚は小さかった。


「まあ、多少小さくても鯛は鯛だし、いいか」


「……初心者なら十分すぎる成果だと思いますよ。

 正直、竿だけ持っていかれる未来を予想していました」


「なんだと!俺を信じてたんじゃないのか!」


「あんなへっぴり腰でおたおたしておいて何を言ってるんですか。

 というか去年は一匹も釣れなかったじゃないですか。

 それを五分もかけずに真鯛を釣り上げたんですからもっと喜ぶべきでは?」


「それはそうなんだが、体感的には小さめのマグロがかかったような感じだったんだよな。

 一メートルぐらいの。

 だからちょっと拍子抜けしたというか……」


「山田さんはちょっと常識を勉強したほうがいいです。

 一メートルのマグロがかかってたら、山田さんなんて海に引きずり込まれてますよ。

 運がよくても釣竿を持っていかれてます」


「……それは大袈裟だろう。

 マグロの一本釣りとかテレビで見たことがあるぞ。

 あれは人の身長ぐらいの大きさだったかな。

 それでも釣り上げてたんだから一メートルのマグロなんて大したことないだろ」


「……その映像をもう一度よく見直したほうがいいです。

 装備が全然違うはずです。

 一メートルのマグロなんて、百キロ近くある個体だっているんですよ。

 こんなその辺の店で売ってるような釣竿で、百キロ近いマグロに対抗できるわけないじゃないですか」


「釣りって奥が深いんだな……」


クーラーボックスの中の真鯛は抗議するように口をパクパクさせている。


あんなに暴れていたのに、今は大人しいものだ。


「なあ、今日の晩飯はこいつでご馳走を作ってくれよ。

 例のキッチンカーでさ」


「お任せください。

 釣りのサポートができなかった分、腕によりをかけて作らせていただきます。

 ご希望はありますか?」


刺身もいいが、塩焼きもいいな。


煮つけにしてもよさそうだ。


「……色々あって決めきれないな。

 任せるから色々作ってくれよ」


「承知しました。

 ですが、これだけでは素材が足りません。

 せめてもう一匹釣ってきていただけますか?」


「それもそうだな。

 大きく見えても食べられるところはそんなに多くないか。

 わかったちょっと行ってくる」


……色々食べるためには一匹では足りない。


もっと釣ってこなければ。


「お気をつけて。

 危なくなったら呼んでくださいね。

 近くにUSOを待機させてますので、海に落ちても助けに行けますから」


「ああ、ありがとう。

 行ってくるよ」


俺はアイに真鯛の調理を託し、再び桟橋に向かった。


今度は何が釣れるだろうか。

真鯛が釣れるなら他の魚もいるはずだ。

ブリでもヒラメでもカサゴでもいい。

せっかくなら色々釣って食べ比べてみたい。


釣れ過ぎたらどうしよう?

まだ一匹釣っただけなのに気が早いか?

でも、さっきの感じだと今回は十匹ぐらいいけそうな気がする。


リリースするのは惜しいな……せっかくだから冷凍しておきたい。


味噌の保管用に作ってもらった冷凍倉庫が使えるんじゃないか?


あとで聞いてみるか。


釣竿を構えて浮きを投げる。


今度はいきなりアタリは来なかった。


まあいい、時間はいくらでもある。気長にやろう。


アタリを待ちながら釣れた後のことを想像する。


日はまだ当分沈みそうにない。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

面白かったら、ブックマークや評価をいただけると、執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。