第64話:たまにはゴミ拾いも悪くない
アイが作ってくれたたこ焼きは非常に美味しかった。
だが、一つ気になることがあった。
タコはどこから調達したのか。
粉はともかくタコは今の環境では簡単には手に入らない。
それに、あのタコは冷凍食品とは思えないほど新鮮だった。
まさか本当に海で獲ってきたわけじゃないだろう。
「なあ、あのタコってどこから持ってきたんだ?冷凍じゃないだろ?」
「ああ、あれなら大阪湾で獲ってきましたよ。
丁度、釣り船代わりになるものがありましたので」
まさかと思って聞いてみたら、そのまさかだった。
アイは海からタコを調達していた。
しかも、そのためにわざわざ船まで出していたらしい。
「釣り船の代わり?
また何か変な……いや、すごいものを作ったのか?」
「違います。
横須賀から移動させただけです。
山田さんも乗ったことのある例のあれですよ」
「全然、思いつかないんだが……。
移動拠点じゃないよな?」
「あれは取り回しが悪すぎて、ここまで持ってくるのは断念しました。
下手したら沈没しますから。
あれで北海道に行かなかったのは英断でしたね」
「おお、そうか……」
どうやら昔一生懸命に作った移動拠点は今も横須賀の海に浮かんだままらしい。
そしてしれっと海路で北海道目指してたらやばかったことを告げられた。
まあ、今さらだな。
でも、やめておいてよかった。
過去の俺の決断に感謝だ。
「なんでしたら見に行きますか?
せっかく運んできたので」
「……そうしようかな。
そんな風に言われると気になるし」
こうも焦らされては気になって仕方ない。
他に予定もないしちょうどいい暇つぶしだ。
そんなわけで見に行くことにした。
俺が忘れてしまった何かを。
※※※※※
道頓堀から車を走らせること十数分。
アイに案内されてやってきたのは淀川の河川敷だった。
川面が日光を反射する中、川の中腹に見覚えのある白い塊が頭をのぞかせていた。
「……USO?横須賀にあった潜水艇か!?」
「正解です。ようやく思い出していただけたようですね」
横須賀に置いてきたはずのUSOが、なぜか淀川に浮かんでいる。
……いや、なぜかじゃない。
アイが運んだんだった。
ここのところアイのサプライズが多すぎる。
「横須賀からここまで来るのは大変でしたけど無事にたどり着きました。
そろそろMプロジェクトのためにも海路の移動手段があったほうがいいですからね。
少しずつ準備を進めているんですよ。
お土産にタコも獲れましたし、一石二鳥です」
事も無げに言うが、横須賀から大阪まで潜水艇を回してタコを獲ってくるのは、どう考えてもやり過ぎだった。
発想のスケールが違う。
だが、そのおかげで美味いたこ焼きが食べられたのも事実だ。
文句を言うのも違う気がした。
それにそんなことよりも気になることがある。
「……というかタコがいるってことは魚もいるのか?
海の魚は消えてない?」
以前、湘南で釣りをした時は一匹も釣れなかった。
てっきり海の魚も消えているものと思い込んでいたが違ったのか?
「たくさんいましたよ。
獲る人間がいなくなったおかげで、増えているんじゃないですかね」
「そうか……」
あの時は俺の腕が悪かっただけか。
いい釣竿を使ったんだが。
まてよ……今ならあの時のリベンジができるんじゃないか?
「なあ、この辺で釣りができるところはあるかな?
そんなに魚がいるなら試してみたい」
「ありますよ。
大阪湾にはいくつか釣り公園がありますが、
ここからそう遠くないところにも一つあります」
「そうか。じゃあ、そこに行こう」
「承知しました。
これから行きますか?」
「そうだな。今からだと中途半端な時間になるか。
今日は近くまで行って、明日の朝から釣りをしよう」
「承知しました。
では今日は近くの釣具店で道具をそろえますか」
「いいね!楽しくなってきた」
あの頃とは違って今はアイの十全なサポートがある。
爆釣間違いなしだ。
調理方法を考えておかないとな。
※※※※※
アイの魚はたくさんいるという言葉を信じた俺は近場の釣り公園に向かった。
釣具屋で装備一式をそろえて意気揚々と桟橋に乗り込んだ。
だが、そんな俺の目には予想外の光景が広がった。
海岸沿いに伸びた桟橋には、かつての釣り人達の持ち物が散乱していた。
……簡単に言うとゴミだらけだった。
「……なんか汚くね?」
おそらく人類が消えた時に、釣りをしていた人たちが残していったものだろう。
等間隔で残されたクーラーボックスが、かつてここが人気の釣りスポットだったことを物語っている。
衣服や鞄なんかは人と一緒に消えているのに、釣竿なんかは残っているのが気になるところだが、
もっとも、そんな謎は今さらだ。
意図したことではないのはわかっているが、今からここで釣りをしようと思っていた俺にとっては、
大量の遺留物があることの方が問題だ。
まさに出鼻をくじかれた格好だ。
「……掃除してから釣るか」
「そうしましょう」
アイが即答した。
「また来るかもしれませんからね」
「そうだな」
また来た時に同じ気分を味わうのはごめんだ。
日本中を掃除して回るつもりはないが、気が向いた時ぐらい、目についたところを掃除してもいいだろう。
それにスウォームやにゃんタンクがいれば掃除なんてあっという間だ。
一時間もあれば終わるだろう。
その後は心置きなく釣りだ。
※※※※※
一つ拾っては父のため。
二つ拾っては母のため。
三つ拾ってはふるさとの……。
なんだっけ?
忘れてしまった。
まあ、いいや。
そんなことより、もう一時間はゴミ拾いをしているのに全然終わらない。
手すりに絡まった釣り糸を外すのは面倒だし、ルアーやおもりは拾っても拾っても出てくる。
……いや、減ってはいるのだ。
振り返れば掃除した場所はちゃんときれいになっている。
だが、全体の半分も終わっていない。
というか、どうしてこうなった?
なぜ俺は一人でゴミ拾いをしているんだ。
スウォームやにゃんタンクはどうした?
おまけにアイも車に戻ったきりだ。
……理由はわかっている。
通路の狭さと風の強さだ。
台風というわけじゃないだろうが、やたら風が強い。
春の嵐というやつだろうか。
雲は出ているが、雨が降りそうな感じでもない。
……天気のことはよくわからない。
頼りにしていたロボット軍団は出動できないらしい。
仕方なく、俺が一人でやることになった。
アイの口ぶりからして、みんなで頑張ろう的な展開だと思っていたら、完全にはしごを外された形だ。
少し冷たい海風がビュービューと吹き抜け、白波が立った海面では波が激しく柵を打ち付けている。
風の勢いでゴミ袋が飛んでいきそうになるのを慌てて手で押さえる。
「これはドローンが活動できる状況じゃないな……」
ただでさえ潮風は機体に悪影響だろう。
海に落ちたり、墜落の恐れがある状況でゴミ拾いなどさせるわけにはいかない。
「仕方ない。もうひと頑張りするか」
俺はカチカチと火ばさみを鳴らしながらゴミを拾っていく。
……こうしてると一年前を思い出す。
あの時は湘南でゴミ拾いをして海水浴をしたんだったか。
まだスウォームもにゃんタンクもいなかったし、アイは市販のドローンだった。
今とは雲泥の差だ。
そのはずなのに、何故か相変わらず一人でゴミ拾いをしているのだからおかしな話だ。
雑多なゴミを袋に詰めては、にゃんタンクが待機する場所まで運ぶ。
いつの間にか、そこにはゴミ収集車が待機していた。
にゃんタンクは集めたゴミを荷台へ放り込むと、
また元の位置へ戻っていく。
そして俺が次の袋を持ってくるのを黙って待っていた。
なんで俺だけがゴミ拾いをしているんだと思っていたが、
どうやら違ったらしい。
……全てを一人でやっていたあの頃とは違う。
「まあ、たまにはこういうのもいいか」
若干、俺の負担が大きいのが気になるが、状況が状況だけに致し方ない。
本気でやるならアイもそれなりに体制を整えるだろうが、今回のこれは俺の旅の目的ですらなく、
単なる気まぐれにすぎないのだ。
そんなところでまでアイに頼っていては俺は本当に何もせずに見ているだけの観客になってしまう。
それは俺が望んでいる関係とは違う気がした。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
面白かったら、ブックマークや評価をいただけると、執筆の励みになります。




