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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第十章 関西編

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第62話:テーマパークに行ってみた

 奈良を後にした俺たちが次に向かったのは大阪。


 そして俺は以前から気になっていたとあるテーマパークに来ていた。


「ここがU〇Jか……なんか入る前から雰囲気が違うな」


 テレビで見たことはあったが、実際に来るのは初めてだ。

 まさかこんな形で来ることになるとは思わなかった。


 ゲートはまだ先だというのに、周囲には洒落た街並みや派手な看板が並んでいた。


 遠足は家に帰るまでが遠足という言葉があるが、

 テーマパークは入る前からテーマパークということだろうか。


「このテーマパークは非日常空間を売りにしてますからね。

 入場前から期待感を高めるためにもこのぐらいの演出はしますよ」


「そういうものか。

 こういう処は縁がなかったからな……」


「そういうことなら今日は楽しみましょう。

 貸し切りですよ」


 神殿のような入口もそこにかかったイベントの飾りつけもそのままなのに、人の姿だけがない。

 まるで開園直前のような光景だった。


「……そうだな」


 それをいうなら世界丸ごと貸し切りみたいなものだ。


 誰から借りてるんだって話だ。


 借りる相手すら存在していないのに。


 ……よそう、湿っぽいことを考えるのは。


 今日はとにかく楽しむんだ。


「よし、まずはジェットコースターだな」


「残念ですが無理です。

 アトラクションは動かせないんです」


「なんだよ。せっかく来たのに乗り物に乗れないのか!?」


「……整備しようとはしたんですが、数は多いし、安全性も保証できそうにないので断念しました。

 その代わりと言っては何ですが、にゃんタンクとスウォームを動員して、

 園内の掃除は徹底しましたので快適に見て回れますよ」


「はぁ、乗り物なしか……」


 テーマパークから乗り物取ったらただの公園じゃないか。


 がっかりもいいところだ。


「そこまでがっかりするほどですか?

 神社やお寺を見て回っていた時は楽しそうにしていたじゃないですか」


「あっちはそういうのを楽しむ場所だからだよ。

 遊園地は乗り物に乗ってなんぼだろうが!」


「厳密にはテーマパークと遊園地は別物なんですが……。

 私の方で代わりのアトラクションを用意しますのでそれで我慢してください」


 アイが珍しくそれ以上反論しなかった。


 まずい、少し言い過ぎたか。


 でも、なぁ、こっちだって昨日から楽しみにしてたんだ。


 裏切られた気分になっても仕方ないじゃないか。


「すまん、ちょっと言い過ぎた。

 掃除してくれてありがとう。

 アトラクションはいいよ。

 今日は散歩を楽しもう」


「そうですか?絶叫間違いなしのすごいのを思いついたので、

 ぜひ楽しんでもらいたかったのですが」


 危なかった。


 もう少しでとんでもない目にあわされるところだった。


 どうやら俺にもアイの地雷を見極める能力が芽生えてきたようだ。


「いやいや、気持ちだけで十分だよ。

 今日は雰囲気を楽しむことにする」


 ※※※※※


 案内板を見て回る順序を考えようかと思ったところで気が付いた。

 乗り物の待ち時間も時間制限もないのに、そんなものを考える必要があるのかと。


 せっかく来たのに全部見ずに帰るのはもったいないということで、端から順にぐるっと回ってみていくことにした。

 広大な一つの町のような印象を持っていたが、歩き始めてみればそれほど広くないことが分かった。


 キョロキョロとあたりを見回しながら歩いていると、一つのエリアを見るのに十分もかからない。

 人にぶつかる心配もないので、周囲を気にすることなく建物を眺めながら歩く。


「……ほんと映画で見たまんまの建物だな」


「そうですね。かなり忠実に再現されてます」


 俺からは月並みな感想しか出てこないし、アイも相槌を打つだけだ。

 会話も弾まないのでどんどん次のエリアへ進んでいく。

 ざっと見終わった時には、まだ一時間も経っていなかった。


「……山田さん、こんな風に見て回って楽しいですか?」


「んー、楽しいという感じはあまりないかな。

 どちらかというと、よくできてるな、って感じだ」


 各エリアはテーマがあって、そのテーマに沿ってデザインされた建物やオブジェクトが配置されている。

 それぞれの世界観を忠実に再現していて、見ていて凄いなとは思うが、楽しいかというと微妙だ。


 結局のところ、感想を言い合う友達も恋人もいないので、凄いとは思っても、それを共有できないのだ。

 SNSに挙げてイイネをもらうこともできない。


 そう考えると、閑散としたテーマパークというのは思ったより深刻にやばいのだとわかる。

 売り上げどうこうもそうだが、人がいないことで魅力が下がり、そして人が来なくなるという負のスパイラルだ。

 その極致を体験中の俺が言うのだから間違いない。


 まあ、人類丸ごと消えた今となっては、売り上げとか集客なんて何の意味もないので考えるだけ無駄なのだが、こうも張り合いがないと余計なことばかり考えてしまう。


「確かによくできてますね。

 このエリアなんて、山田さんが好きな映画のセットみたいです」


「そうだな。

 その辺から魔法使いが出てきそうな雰囲気だ。

 映画のエキストラになった気分だよ」


「……その割に、あまりうれしそうじゃありませんね。

 やっぱり乗り物に乗れないからですか?」


「……どうだろうな。

 よくわからない。

 テーマパーク自体に馴染みがないから、楽しみ方がわからないだけかも」


 アトラクションが動いていればまた違うのかもしれないが、同じかもしれない。

 待ち時間のないテーマパークというのは理想に思えるかもしれないが、実際はそうでもないかもしれない。


 長時間列に並んだり、人にぶつからないように気をつけて歩いたり、そういうのもある種のスパイスになっている気がする。

 過ぎれば毒だが、全くないと物足りない。


 差し詰め、誰もいないテーマパークはスパイス抜きのカレーといったところか。


「昔の有名人もテーマパークを貸し切りにした時、こんな気分だったのかな」


 いや、つまらなさなら俺の方が上かもしれない。

 なにせこちらはアトラクションは動かないし、キャストもいない。

 アイは付き添ってくれるが、静かに見ているだけだ。


 それでも、ぜんぜんわくわくしない。


 楽しみにしていたのに、あまり楽しくない。

 期待値を上げ過ぎたのかもしれないと思った。


 ※※※※※


 すっかり暗くなったので、そろそろ帰ろうかと思っていたら、

 アイからサプライズがあると呼び止められた。


 準備があるからと指定された場所で座って待っていると、

 突如、どこか不気味で不穏な音楽が聞こえてきた。


 立ち並ぶお店の壁面には、映画に登場する幽霊のような影が投影され、

 映画の中に入り込んだような錯覚を覚えた。


 あっけに取られていると、通りの真ん中を、全身から赤い光を放つにゃんタンクの一団がやって来た。


 尻尾には杖を掲げ、夜空に光を放っている。


 幻想的な雰囲気に浸っていると、今度は金属が激しく摩擦する音が響き、ウルフェンの集団がやって来た。


 全身を青と赤のネオンでギラつかせながら、悠然と俺の目の前を歩いていく。


 先ほどまで幻想的な影が投影されていた壁には、

 火花が散るようなプロジェクションマッピングの光が映し出され、

 さっきとはまた違う世界にいるように錯覚させられる。


 畳み掛けるように押し寄せてくる驚きの光景に圧倒されていると、

 一転してアップテンポなリズムとポップな色彩が弾け飛ぶ。


 明滅する電飾のネオンで飾り立てられたスウォームが、ペンライトで周囲を照らす。


 誰もいない夜のテーマパークが、見物客であふれ返っているかのような錯覚を覚えた。


「どうです。私プロデュースのナイトパレードは?

 残っていたデータをもとに再現してみたんですが」


「すごいな。本物みたいだ」


 本物を見たことはない。


 でも、多分こんな感じなんだろう。


 何より、これを俺一人のために作ってくれたことが嬉しかった。


「ありがとな、アイ」


「いえ。楽しんでいただけたなら何よりです」


 アトラクションが動かないと聞いた時はがっかりしたが、とんでもない勘違いだった。


 ジェットコースターに乗るよりも、こちらの方が何倍も楽しい。


 ロボットの集団に囲まれ、音楽に合わせて体を動かしていると、

 ここが人類の消えた世界だということすら忘れてしまいそうだった。



ここまでお読みいただきありがとうございます。

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