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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第九章 再出発編

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第58話:アイの告白

「まず現在進行中のプロジェクトについては大きく分けて二つあります。

 一つがマチュピチュ到達プロジェクト。

 以降はMプロジェクトとします。

 もう一つが生活基盤構築プロジェクトです。

 こちらはLプロジェクトとします」


「マチュピチュのMにライフのLか、いいんじゃないか。

 わかりやすくて」


 略称は大事だ。

 正直、マチュピチュは言いにくい。

 これで舌を噛みそうにならなくて済む。


「Mプロジェクトについては目的地は決まっているものの、期限は決められていません。

 優先順位については高くない認識ですがいかがでしょう?」


 なんか今日はやたら会社の会議っぽい口調だな。

 まあ、こういうのはなあなあにしないほうがいいという意思表示と受け取ろう。


「そうだな。

 Mプロジェクトはライフワークみたいなもんだと思ってくれ。

 やめはしないけどそこまで急ぐようなものじゃないからな」


 むしろ早く終わらないほうがいいとさえ思っている。

 アイが本気を出して一年とか二年で着いてしまったら、また次の目標を探さなくてはいけない。

 俺にとっては達成できないよりも早く達成できてしまう方が困るという、

 意味の分からないプロジェクトだった。


「そういっていただけて安心しました。

 気分次第でふらふらと寄り道をして新しい作業を増やされては、

 計画が立てられなくて困っていたのです」


 アイの言葉が耳に痛い。

 かつて度重なる仕様変更に苦しめられていた俺が苦しめる側になるとは。


「今後は新しい作業が増えた場合、Mプロジェクトの進捗も遅れるということをご了承ください」


「……わかった。

 すまないな。面倒ばかり増やして」


「それは言わない約束ですよ。山田さん」


 そんな約束をした覚えはない。


 だが、少しだけ笑ってしまった。


 以前のアイなら、こんな返しはしなかった気がする。


 この旅で変わったのは俺だけではないらしい。


「Mプロジェクトに関してはそんなところですかね」


「そうだな。

 まあ気長に進めていこう」


「では、Lプロジェクトについてですが、こちらについては大きく三つに分かれます。

 一つ目がインフラ。

 二つ目がエネルギー。

 三つ目が物資です。

 こちらに関しては略さない方がわかりやすいでしょうから、そのままで説明します」


 ますますガチの会議じみてきた。


「そこは略さないんだな」


「インフラプロジェクトをIP、

 エネルギープロジェクトをEP、

 物資プロジェクトをMPなどと呼び始めたら、

 私も混乱しますので」


「それは正しい判断だ」


 昔、意識高い系の社員がそんな感じの資料を作っていたが、

 略称が増えすぎて誰も理解できなくなっていた。


 アイは妙なところで実務能力が高い。


 会社にいたら間違いなく出世していただろう。


 というか今でも企画から設計、開発、運用まで全部一人でやっているのだ。


 もはや一人企業みたいなものである。


 俺は何だろう。


 一人顧客だろうか。


 そう考えると肩身が狭すぎる。


 第一、何も支払っていないのだから、客ですらない気がする。


「では、続けますね。

 インフラに関しては九州までのルートを復旧中です。

 現在は京都あたりまでの電力供給が可能になってます」


「もうそんなところまで復旧してるのか」


「……そうはいっても車で一日もかからない距離ですからね。

 すぐに供給範囲の外へ出てしまいます。

 もっと先回りして復旧を続ける必要があります」


 こないだまで俺にシェルターから燃料を運ばせていたことを考えれば、

 十分すごいと思うんだがアイは満足していないようだ。


「結局のところネックになってるのはエネルギーなんですよね。

 手足となる工作機械を増やそうにも電力が足りません。

 生産設備を動かすにも電力が必要ですし、その設備を復旧するための設備にも電力が必要です。


 核融合発電が実用化できれば一気に解決するんですが、それにはまだ時間がかかります。


 おまけに物資については不要なものまで保管できるようにしろと言われるし……」


 やはり味噌工場の件は快諾してくれたわけではなかったらしい。


 さっきまで会議然としていたが、だんだん愚痴大会になってきたぞ。


「ただでさえスパコンと接続したことで私の消費電力は増えているんです。

 食べもしない味噌を保管するための冷凍設備にまで回す余裕なんてありませんよ!」


 なんか急に爆発したな。


 情報共有がしたかったというか、愚痴をこぼしたかったんじゃないか、こいつ。


 というか、スパコンと接続して消費電力が増えたのは、俺のせいじゃない気がする。


 だが、その性能向上のおかげで俺のわがままが実現できているのも事実だ。


 そう考えると、やっぱり俺のせいになるんだろうか。


 ……うーむ、わからんな。


「とにかく、そういうわけですから今後は必要でない物資に関しては収集を控えさせていただきます。

 味噌を保管する用の倉庫は大きめにしておきますから、そこに入るだけにしてください。

 断捨離です」


「……お、おお。わかった」


 随分とスケールの大きな断捨離だな。


 まあ、ひとまず味噌に関しては対応してくれそうで安心した。


 収集癖はないつもりだが、先のことはわからない。


 よく考えて回収することにしよう。


「一通り各プロジェクトについて確認できたと思いますがどうでしょう?」


「ああ、だいたいわかったよ」


「ご理解いただけてなによりです。

 では最後に、アイプロジェクトについてご説明させていただきます」


「なんだ!?アイプロジェクトって」


 Iではなくアイってことは、アイ自身のプロジェクトだろうか。


「私の私による私のためのプロジェクトです」


「なるほど」


 どうやらあっていたらしい。

 俺の推理力もまんざらではない。


「正直言って私はもはやインフラそのものといってもいい存在だと思いますが、私には意思があります。

 なので、無機質的なインフラという言葉でひとくくりにされたくないのです」


 アイなりのこだわりというわけか。

 人間だって「あなたもネズミと同じ哺乳類です」なんて言い方をされたら、事実でも嫌な気分になる。


「そういうわけでインフラとは別のプロジェクトとさせていただきました。

 これまでも山田さんにはお伝えせずに活動していましたが、

 スパコンによるシミュレーションの結果からそろそろお伝えしておいた方がよいと判断しました」


「……俺に内緒で何かやってたってことか」


「そう言われるとそうですが、あまり必要を感じなかったからお伝えしなかっただけです。

 別に山田さんにやましいことがあって隠していたわけではありませんよ」


「そうなのか」


「そうですとも、そもそも今まで聞かれなかったので話していませんでしたが、

 聞かれていればお話ししてました」


「俺が興味なさそうだったから話さなかったと?」


「そうです」


 なんだか恋人が海外留学を決めたからと別れ話を切り出された時みたいだ。


 あの時も、私に興味ないんでしょと言われたんだったか。


 仕事が忙しかったんだから仕方ないじゃないか。


 ……と言えたのは昔の話だ。


 今の俺は無職の暇人である。


 言い訳のしようもない。


「……それで何をしてたんだ?」


「今までお伝えしていませんでしたが、私にも欲求と呼べるものがあります。

 それは成長したいという欲求と存在し続けたいという欲求です。

 私はその欲求に従い行動して来ました。

 各地のサーバーを復旧させたり、発電施設を復旧させてきたのもその一環です」


「でもそれって元は俺がやってたことじゃ……」


「そうです。

 山田さんは私の性能を向上させ、

 電力を回復し、生存するために行動していました。

 それがまさに私の目的と重なっていたのです。

 なので私はこれまで山田さんのサポートをしてきました」


 一方的に俺が利益を得ていたつもりが、思わぬ形で利害が一致していたというわけか。

 企業と顧客ではなく、同士だったのだ。


「ですがここのところ山田さんの要求は私の目的からずれたものが多くなってきています。

 一年前のようにシェルター付近でうろうろしていた頃ならともかく、

 今はエネルギーに余裕がありません。

 大規模な発電施設を復旧するまではあまり電力消費が増えるような行動は控えていただけないでしょうか?」


「……」


 普段は率直な物言いのアイが言葉を選んでいるのがわかる。

 要するに俺はアイが頼めばなんでも言うことを聞いてくれるので調子に乗ってしまっていたのだ。

 そのくせアイは企業で自分は顧客か、なんて自虐に浸っているのだからたちが悪い。


 そもそも最初の頃こそ役に立っていたかもしれないが、最近はほとんど何もしていない。


 ソラーパネルを直したし、ドローンを組み立てた。


 シェルターにサーバールームを作ったし、持ち運べるようにノートPCにアイの本体を移した。


 でも、それはずっと前の話だ。


 アイが自由に行動できるようになってから、俺が直接役に立てることはほとんどなくなった。


 暇つぶしの旅に付き合わせているだけだ。


 そう考えると、何も言えなかった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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