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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第九章 再出発編

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第54話:シン・電気がないと始まらない

「え……と、ほんとに場所あってるか?ここで」


「はい、間違いありません。

 ここが岐阜シェルターです」


 俺の目の前にそびえているのは巨大な研究施設だった。


 看板には核融合科学研究所と書かれている。


 いかにもアイが好みそうな施設だった。


「ほんとにここか?

 お前が寄りたいだけじゃないのか?」


「……しつこいですね。

 本当にここです。

 ここの地下に岐阜シェルターがあります」


 アイが場所を間違えるはずはないのだが、それでも確認してしまった。


 岐阜シェルターに何かおまけがあると思っていたら、おまけの方が大々的に地上に建っていたのだ。


 驚かないほうが無理というものだった。


「随分と広そうだな。

 入口を探すのが大変そうだ。

 ……どうせシェルターの方は他と代わり映えしないだろうし。

 次に行くか?

 おまけももう見れたし」


 なんというかミステリー小説で犯人を先に教えられたような感覚だ。

 拍子抜けというか、期待外れというか。

 少し違う気もするが、とにかく調子が狂う。


「山田さんがそういうなら、私は構いませんよ。

 あとはこちらで確認しておきます」


「そうか。……って、やっぱり調査はするのかよ!」


「当然ですよ。

 シェルターはともかく、ここは非常に重要な研究施設ですからね。

 放置して先に行くなんてあり得ません。

 ここを復旧できたらきっと役に立つはずです!」


「お前、今さらっとシェルターより大事みたいな言い方しなかったか?」


「言いましたけど、それが何か?

 使いもしない居住施設よりも、

 最先端の研究所の方が大事に決まってるじゃないですか!?」


 なんだかよくわからないが随分と入れ込んでいる。

 そんなに重要な施設なんだろうか?

 核融合ってなんか危なそうで近寄りたくないんだが。


「そんなにすごいのか?なんか危なそうな感じがするけど」


「それは偏見ですよ、山田さん。

 それに核融合の価値がわかっていない。

 実用化できれば無限に等しいエネルギーが手に入るかもしれないのですよ!?

 私なら数百年でやって見せます。

 そうすれば宇宙旅行も夢じゃありません」


 はー、なんかすごそう。


 というか、数百年ってなんだよ。


 俺はあと百年も生きないよ。


 スケールがでかすぎてついて行けない。


「すごいのはわかったけどさ。

 俺は数百年後の研究より、あったかいコーヒーが飲みたいわ。

 ちょっと車で一服してるからアイも好きにしてくれ」


 俺はそう言い残して車に戻った。


 だだっ広い施設は風を遮るものもなく寒かった。


 どこにあるかもわからないシェルターの入口を探して歩き回るのは御免だ。


 電気の復旧もまだだろうから、施設の中だって暖かくはないだろう。


 温かい車内でコーヒーを飲みながら景色を眺めている方がよっぽど有意義だ。


 ※※※※※


 車の窓から差し込む朝日に目を覚ました。

 昨日、コーヒーを飲みながらマンガを読んでいて寝落ちしていたらしい。

 変な態勢で寝たせいか首が痛い。


「ふぁあ、なんだもう朝か。

 アイのやつ結局昨日は帰ってこなかったみたいだな」


「帰ってくるも来ないもないでしょう。

 この車も私の身体みたいなものなんですから」


 俺の独り言に反応して車のスピーカーからアイの声がした。

 寝起きだったこともあり、思わず身を縮めた。


「脅かすなよ!

 心臓が止まったらどうするんだ。

 というかお前今どこにいるんだよ、まだ研究所を調べてるのか?」


「心配しなくても山田さんの心臓はちゃんと動いてますよ。

 少し心拍が早いですけど。

 いつもの円盤型ドローンならお察しの通り研究所の中です。

 まだほとんど確認できてませんが、興味深い資料がいっぱいです。

 本当ならスウォームを展開したいところですが、

 ここらはまだ給電設備が整ってませんので、使える端末があれしかないんです」


「なるほど、そういえば車の燃料は大丈夫なのか?

 あまり気にしてなかったけど」


「大丈夫とはいいがたいですね。

 というわけで山田さん、出番です。

 シェルターから燃料を運んできてください。

 多分、ここにもあると思うので」


「結局、そうなるのかよ……」


 燃料切れと言われれば従わざるを得ない。


 車のエアコンが止まってしまうのは避けたい。

 というか車が使えなくなるのは普通に生活の危機だ。


 ここは大人しくシェルターに頼ることにしよう。


 こうして俺は、不本意ながら研究所ツアーに参加することになった。


 ※※※※※


 シェルターの燃料備蓄を探すついでに研究所の中を見て回った。


 どうせなら少しぐらい見学していこうと思ったのだ。


 ただ燃料を運ぶだけで終わるのも少し悔しかった。


 一般人も見学できる施設らしく、見学者向けの展示物などもあってなかなか見ごたえがあった。


 自動車の博物館には歴史の重みを感じさせられたが、こちらには最先端技術の輝きを感じた。


 スチームパンクな映画に出てきそうな配管が複雑に絡み合った設備を見ていると自分が映画の登場人物になったような気分になってくる。


 金属質な細い通路を歩いていると、

 後ろから未来の殺人マシーンが追いかけてくるのではないかという妄想まで湧いてくる。


 核融合研究所という字面でなんか危なそうなイメージを持っていたが、

 案外ワクワクさせられるものがたくさんある場所だった。


 パンフレットにプラズマとか真空とか超電導などという、

 マンガやゲームの必殺技に使われそうな単語が普通に使われているのも面白い。


 いつかアイもプラズマを放つことができるのだろうか。


 見てみたいような気もするがちょっとおっかない。


 あたったら髪型がアフロになるだけでは済まないだろう。


 いくらアイでも、核融合の実用化には気が遠くなるほどの時間がかかりそうだが、

 できれば見届けてやりたいところだ。


 せいぜい長生きできるよう頑張ろう。


 もっとも、そのためにはまず目先の燃料を確保しなければならない。


 一通り見学したところで、俺はアイに指示された場所へ向かった。


 他の建物からかなり離れた場所に小屋があった。

 ぱっと見は物置か何かにしか見えない。

 注意を引かないように、あえて目立たなくしているようだ。

 中には見慣れた銀色の扉があった。


 地下シェルターに降りるエレベーターだ。


 そのわきでアイが待機していた。


「随分と遅かったじゃないですか、山田さん。

 研究所ツアーは楽しめましたか?」


「まあな。

 どうせならお前がガイドをしてくれてもよかったんだぞ」


「そうしたいのはやまやまですが、今は節電しないといけませんからね。

 動き回ってエネルギーを浪費するわけにはいかないのです」


「見た感じ軽くて、燃費良さそうなのに節電しないとまずいのか?」


 俺にいつも追従しているアイは、バスケットボール大のドローンだ。


 単三電池が四本もあれば動きそうな気がする。

 それぐらいならコンビニにでも行けばいくらでも手に入りそうなものだ。


「何やら失礼なことを考えている気がしますが、まあいいでしょう。

 見ての通り低燃費な機体ですが、それでも一度の充電では二、三時間がやっとです。

 ここでは充電しようと思えば、その都度車まで戻る必要がありますからね。

 無駄が多いのです」


 なるほど、思ったより深刻そうだ。


「ここで研究されていた超電導送電システムを構築できれば、

 エネルギー問題が大分解決するのですが。

 そのためにはこの施設を復旧させないといけないし、

 その作業をするためには給電設備も復旧させないといけないし、

 タスクが山積みですよ……。

 何か一つ解決すると、次の問題が出てくるんですから。

 山田さんの手も借りたいぐらいです」


 ……まずいな。

 だんだん愚痴になってきた。

 このままだと、また愚痴大会が始まる。


「とりあえずシェルター側の給電設備から、

 本館へ電力を回して調査を進めようと思います。

 場当たり的で嫌なんですが、仕方ありません。

 まずは調査できる状態にしないと話になりませんからね」


「なるほどな。

 で、そのエレベーターは動くのか?」


「はい、一度降りてシェルター内を確認しましたので問題なく動きます。

 心配しなくても閉じ込められたりしませんよ」


「それなら安心だな」


 上手く話題を変えることに成功したようだ。

 このまま地下に降りて、会話を打ち切ろう。


「よし、じゃあ、さっさと燃料を運んじまうか。

 この寒いのにエアコンが止まったら死活問題だ」


「最悪、寒空の下でキャンピングカーを押して歩くことになるかもしれませんからね。

 もちろん私は押せませんので、頑張ってください」


「……お前がいうと冗談に聞こえないからやめてくれ」


 もし、シェルターに備蓄燃料がなければまじでそうなりかねない。


 まさか研究施設を前にして、一番の問題が燃料不足になるとは思わなかった。

 降ってわいた生活の危機に、胃がキリキリしてきた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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