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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第九章 再出発編

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第49話:振出しに戻り過ぎる

 俺の北海道への旅は、振り出しに戻ることになった。


 双六なら盤をひっくり返したくなるところだが、実は俺はそこまで嘆いてはいない。


 正直、少しホッとしている。


 人知れず胸をなでおろしている。


 だが、アイにはそんな考えを見抜かれているのではないかと思う。


 大袈裟に騒いで見せようと、身体の反応をモニターされているのでは効果は薄いだろう。


 身体は正直だ。


 不意に確信を突かれれば脈は跳ねるし、安心すれば落ち着く。


 取り繕ったところで意味はないかもしれない。


 それでも昔から続けてきた処世術は俺に演技を強いている。


 本音を隠し、相手の望む反応を返さなくてはならない。


 相手の期待に答えなくてはならない。


 そうしなければ俺に居場所はない。


 ……。


 自分以外の人がいなくなって自由になった。


 自分を縛っていたものから解放された。


 会社に時間を拘束されることも。


 言動を法や社会に制限されることも。


 今はなくなった。


 他人に合わせなくてもよくなった。


 だから好きなようにやってやろうと思った。


 会社員時代のフォーマットに沿った業務の進め方など無視して、思いつくままに行動した。


 そのせいで時間を無駄にしたこともあったが楽しかった。


 失敗したところで誰にも何も言われない。


 俺が一人で困って、一人で解決するだけだ。


 これが自由なんだと思った。


 マチュピチュ行きはその最たるものだろう。


 ポストアポカリプスな世界でサバイバーの取る行動ではない。


 普通なら拠点を作って、仲間と一緒に文明を再興するだろう。


 だが、仲間となる人類はいない。


 俺の隣にいるのはアイだけだ。


 二人で文明を再興したところで先はない。


 自分たちが生活できる程度には整えても、それ以上のことをするつもりはない。


 人類消失の謎?


 そりゃあ気になる。


 でも、わかったからどうだって話だ。


 神様の天罰だろうが、


 宇宙人の仕業だろうが、


 異世界召喚だろうが、


 結果は変わらない。


 人類は消えた。


 俺にできるのは「へー」と間抜けな感想を述べることぐらいだ。


 たまに雰囲気と深夜テンションで真面目に考察することもあるが、結局は暇つぶしに過ぎない。


 世界のどこかにすべてを元に戻すボタンが隠されていて、それを探せと言われているならともかく、今のところそんな使命は承っていない。


 そういうのは、パワードスーツを着て空を飛ぶ大富豪とか、地球育ちの宇宙人とか、伝説の勇者がやる仕事だ。


 残念ながら俺はただの元会社員のおっさんである。


 一般人だ。


 そう、俺はビビっていた。


 旅行ツアーで行くのとはわけが違う。


 自分で行くと決めたものの、いざ日本を出る日が近づいてくると眠りが浅くなっていた。


 それでも俺は中止を言い出せずにいた。


 アイが知ったら笑うだろう。


 行きたくないなら止めればいいと。


 だが、俺にもプライドぐらいある。


 一度行くといった以上は行く。


 ただ、ちょっと心の準備ができるまで先延ばしにしたい。


 そんなわけで新米を理由に悩むふりをしたわけだ。


 新米が食べたいのは本当なので、演技としては完璧だったと思う。


 というか、あれは演技ではない。


 切実な願いだ。


 ただ都合がいいので少し利用させてもらった。


 それだけだ。


 それに、一度海外へ出ればそう簡単には戻ってこられない。


 その前に確認しておきたい場所もあった。


 他のシェルターだ。


 北海道への進路上には栃木シェルターしかなかったので、まだ行けていない。


 岐阜と岡山。


 陸路で九州へ行くなら通り道だ。


 ……というか、アイはその辺りも計算に入れている気がする。


 韓国に渡るだけなら、別に福岡である必要はない。


 ここからなら秋田も近い。


 それに北海道からサハリン経由という手もある。


 それなら元の目的地だった北海道も見物できるし都合がいい。


 いくら近いとはいえ、わざわざ九州まで移動する必要性は薄い。


 だが、アイの方からはシェルターの話は出ない。


 前に他のシェルターの話を聞いた時の感じだと、隠しているようでもなかった。


 聞かれれば話すが、自分からは話題にしない。


 それが妙に引っかかった。


 話す必要性を感じないと言っていた。


 その後は自然に話題が変わり、有耶無耶になった気がする。


 俺の考えすぎだろうか。


「山田さん、さっきから黙り込んでどうかしましたか?」


「ん、いや、何でもない。

 ちょっと考え事をしてただけだ」


「確かにここまで来て八ヶ岳に戻るのは残念でしょうが、切り替えていきましょう。

 物理的には振出しですが、ここまでの道中で得たものもたくさんあります」


 俺が考え込んでいる理由を誤解したようだ。


 心音で動揺は把握できても、心境までは読まれていない。


 俺のプライバシーは陥落していない。


「そうだな。お前の言うとおりだ。

 スカイツリーは見学できたし、福島ではいい夏休みを過ごせた。

 仙台では美味しいパンや米も食べられたしな」


 そうだ。


 双六のようにただ戻されるわけではない。


 アイと二人で旅した思い出。


 それこそが俺がこの半年で得たものだ。


 ここまでの旅は決して無駄なんかじゃなかった。


「何を言ってるんですか?

 私がこれまでにどれだけの施設を作り上げてきたと思ってるんですか。


 スカイツリーは絶賛復旧中ですが広範囲をカバーできる通信拠点ですし、

 福島空港に設置したミニスカイツリーもそうです。


 仙台では山田さんが無頓着だったので後回しになっていた食料拠点ができましたし。


 まあ、私としては栃木シェルターの金塊を回収できたのは大きいです。


 おかげで金に関しては都市鉱山を漁る必要がありません。


 実に有意義な旅でした」


「え、っと、思い出は?

 ほら、ゲームで勝負したり、歌を歌ったりしただろ?」


「ああ、そんなこともありましたね。


 確かに記録には残ってますよ。


 ただ成果と呼べるかというとちょっと疑問ですね。


 それは八ヶ岳でもやってたことでしょ?」


「いや、それはそうなんだが。

 ……状況が違うじゃないか、八ヶ岳とは。

 旅先という非日常でこそ得られる楽しさがあったと思うんだけど」


「……理解不能です。

 場所が変わってもやってることは大差ないと思うのですが」


 なんということだろう。


 ゲームで遊び、歌を歌い、俺の新米へのこだわりにも理解を示すようになってきたアイは、

 相変わらずのリアリストだった。


 ようやく感情面が育ってきたと思っていたのに。


 全く成長していない。


 なんだ金塊回収できてうれしいって!


 銭ゲバか。


 いや、資源面で助かるというのは分かるが、そうじゃないだろう。


 もっとこう、情緒的な感想はないのか。


「……AIに何を期待しているんですか?

 山田さんが期待しているようなロマンは持ち合わせがありません。


 どうしてもというなら山田さんが実装してください」


「できるか、自分で開発しろ」


「承知しました。

 ただ、仕様が曖昧で不明瞭で不確実なので完成に何年かかるか。

 一億と二千年はかかるかもしれません。


 完成したらテストに付き合ってくださいね」


「……一人で頑張れ」


 一億年か。


 俺からすると想像もつかない未来だ。


 今、人類が消えていなくても、その頃には消えていた気がする。


 でもアイなら平然と残っていそうだ。


 誰もいなくなった世界でロマンを実装したこいつはどうなるんだろう。


「気が向いたら手伝ってやるよ。

 それまで生きてたらな」


 何の意味もない果たされることのない約束だ。


 でも、こういうのがロマンだろう。


 俺はそう思う。


「約束ですよ。

 それでは簡単に死なないように張り切って歩きましょうか」


「北海道行きがなくなっても続くのかよ、このウォーキング!」


「当然です。

 体形が八ヶ岳を出発した頃ぐらいに戻るまで続けますよ」


 体形まで振出しに戻らされる事になるとは思わなかった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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