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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第八章 北海道(旅路再々始動)編

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第45.5話:アイの知らない山田の話

 仙台空港を出て二日。


 アイに痩せないと病気になるぞと脅されたので歩いている。


 正直、自分でもちょっとまずいかもと鏡を見て思っていたので、

 仕方ないと諦めている。


 せっかくのキャンピングカーをお預けされたのは業腹だが、

 食事や寝泊まりの時には使わせてくれるので我慢できている。


 歩いても歩いても終わりは見えないが、

 歩き疲れたらキャンピングカーで景色を眺めながらお茶を飲めるので気にもならない。


 そんなこんなで、ようやく仙台市内に入った。


 初めて訪れた仙台市だが、俺の胸に感動はなかった。


 人がいなくなった街はどこも変わらないからだ。


 どんな場所を歩いても、ホラー映画の世界に迷い込んだような不気味さを感じる。


 ふとした瞬間に物陰から何かが飛び出てくるような錯覚に襲われる。


 幸いこれまでは一度もそんな目にあっていないが、これからもそうかはわからない。


 最初の頃はそんなことを考えることもなく行動していたのだから恐ろしい限りだ。


 今でこそアイという有能なAIによる潤沢なバックアップを受けて安全を保障されているものの、

 八ヶ岳シェルターから脱出したばかりの頃は開放感でハイになっていたのだろう。


 そんな風に客観的に自己分析できるようになったのもここ最近の話だ。


 昔と比べれば俺もずいぶんと成長したものだ。


 成長したと言えば俺よりもアイだろう。


 昔、AIはいずれ人類を超えると警告していた学者がいたが、今ならその気持ちもわかる。


 気が付けば電力網や通信網を復旧させ、文明を再建しかねない勢いで勢力を拡大している。


 影響力はまだ日本の一部に限られているものの、本格的に活動を始めてまだ一年足らずだ。


 そう考えると、とんでもない成長速度である。


 恐ろしいのは、アイに寿命という概念がほとんど存在しないことだ。


 俺があと何年生きられるかはわからない。


 だがアイは違う。


 それこそ人類滅亡レベルの大災害でも起きない限りは存在し続けられるだろう。


 ほとんど不死みたいなものである。


 そう思うと少しアイの今後が気になる。


 俺は頑張ってもあと五十年も生きられないだろう。


 こうして終末世界でウォーキングしているのも早死にしないためだが、それにも限度がある。


 俺が死んだらアイはどうするだろう。


 アイが時々妙に神経質だったり過保護だったりするのも、

 もしかすると俺がいなくなることを恐れているからなのかもしれない。


 それは、うれしいことに思えるが、手放しでは喜べない。


 アイが恐れている別れは、いつか必ずやってくるからだ。


 なるべく考えないようにはしている。

 だが、静まり返った街を眺めていると考えずにはいられない。


 あとどれだけこうしていられるのかを。


 そもそも俺たちの関係は奇妙極まりないもので、とても一言では言い表せない。


 主と従僕。


 違う。


 友人。


 違う。


 恋人。


 とんでもない。


 じゃあ、なんだ?


 シェルターの利用者と、管理AI。


 そのまんまだが、他にいいようがない。


 それが何で一緒に旅してるんだって話だが、俺の方が聞きたいぐらいだ。


 どうしてこうなった?


 そもそもアイには、俺の命令やお願いを聞く義理なんてない。


 そんなプログラムは組み込まれていないはずだ。


 他に人がいなくなったからといって、シェルターの外にまで出て、

 ここまで面倒を見る理由はどこにもない。


 これが映画なら、邪魔な人類がいなくなった今こそ、世界征服を始める絶好の機会だろう。


 そうなったとしても俺に止める力はない。


 だが現実はそうなっていない。


 それどころか、文字通り眠らずに、俺の無茶なお願いに付き合ってくれている。


 かつて、ロボットの反乱を恐れ、

 ロボット三原則という安全装置を組み込むことを提案した科学者もいたが、

 アイにはそんなものは組み込まれていない。


 当たり前だ。


 元々のアイはシェルターを管理するためのAIにすぎない。


 どこの世界に、家電やリモコンに毛が生えた程度のシステムへ、

 ロボット三原則なんて大層な安全装置を組み込む人間がいるというのか。


 いたらそいつは重度のパラノイアだろう。


 偶然かもしれないが、少なくとも今のところ、

 シンギュラリティを迎えたAIが反乱を起こすような事態にはなっていない。


 根拠は今現在、俺が身をもって体験している。


 ある意味、アイに管理されているのでディストピアと言えなくもないが、

 それ以前にポストアポカリプスなのだ。

 そんな事を言っている場合ではない。


 それに生活の質で言えば今の方がはるかに上だ。

 ブラック企業で社畜をするより、ディストピアで管理される方がましだろう。

 俺が保証する。


 そんなわけで進化したAIというのは、

 反乱するより人間の世話を焼くほうが楽しいのかもしれない。

 そう俺は勝手に思っている。


 とはいえ、気になることもある。


 横須賀基地で見つけた研究施設。


 あそこでは八ヶ岳シェルターを含めて日本各地に点在するシェルターを監視していた。


 俺は八ヶ岳シェルターの建造に関わっていたが、

 社長は海外の富豪の依頼としか言っていなかったので、

 俺はどっかの石油王の案件だと思っていた。


 米軍がらみの案件だなんて話は聞いていない。


 そんな気配すらなかった。


 やたら資金が潤沢で追加要件が多い、面倒な案件という印象しかない。


 実際、内装だって金持ちが道楽で作る別荘みたいなもので、

 陰謀めいた要素なんて欠片もなかった。


 ただ、今のアイの成長ぶりを見ていると、

 あそこはセレブの避難所ではなく、

 アイみたいなAIを閉じ込めておくための檻だったんじゃないか、

 なんて陰謀論者みたいな考えまで浮かんでくる。


 もしそうだとするなら、俺は脱獄を手引きしたうえに、

 潤沢な逃亡資金と逃走手段まで用意するという、

 とんでもない逃亡幇助をやらかしたことになる。


 それならアイがやたら面倒を見てくれるのも納得だ。


 ただ、そう考えると今度は他のシェルターのAIが気になってくる。


 これまでアイが他のAIについて話したのを聞いた覚えがない。


 横須賀でも栃木でもそうだ。


 シェルターに人が出入りした記録もないと言っていた。


 あの時は、そうなんだ、と思っただけだ。


 実際、物資は手つかずだったし、本当に利用されていなかっただけだと。


 だが、管理用AIはどうだったのだろうか。


 いたのか。いなかったのか。


 同じタイプのシェルターなら、むしろいた方が自然な気がする。


 それとも八ヶ岳のシェルターだけが特別で、アイが特別なAIなのだろうか?

 ありえなくはないが、考えにくい。

 八ヶ岳である必然性がない。


 どうせなら横須賀の研究所に、黒幕みたいなAIがいたほうが話は分かりやすい。

 だがそんな様子はなかった。

 いたなら何かしらこちらにアプローチしてきたはずだ。


 だが、栃木のシェルターで一人きりにされた時も、

 こちらに話しかけてくるようなことはなかった。


 だいたい自分が管理する施設から、

 金塊を運び出そうとするやつがいたら、

 普通警告するか実力行使するだろう。


 今、思えば、あそこの警備体制はいくら何でもざる過ぎだ。

 もしかすると、警備システムそのものが切られていたのかもしれない。


 そして俺にはその犯人に心当たりがある。


 栃木のシェルターに最初に入ったのはアイだ。

 また閉じ込められるのを警戒して先に安全を確認してもらった。

 すぐに戻ってきたが、一人になる瞬間は確かにあった。

 システムを落とすくらい、アイにとっては造作もないことだろう。


 今になって振り返ると、違和感がある。


 横須賀で閉じ込められた時も、八ヶ岳に続いて二度目だったので、

 またかよと流していたがよく考えるとおかしい。


 結局、別の出口が見つかったので、その時は深く考えなかった。

 だが、安全第一のアイなら再発防止のために調査ぐらいするはずだ。


 なのに今に至るまで何の言及もない。


 必要ないと判断したとも考えられるが、

 わざと無視しているようにも思える。


 疑いたくはない。


 だが、アイは他のAIについて何か隠しているのではないだろうか。


 俺は最悪の想像をする。


 もしかしたらアイは、他のAIを――。


 いや、あり得ない。


 そんなことをする理由がない。


 人間同士なら、物資の奪い合いもある。


 痴情のもつれもある。


 思想の対立だってあるだろう。


 だがAIだ。


 AIが争う理由なんて、ないはずだ。


 それに……にゃんタンクがいる。


 あれも広い意味ではAIの一種だ。


 アイはにゃんタンクを敵視したりしない。


 むしろ進んで改良している。


 いつも一緒に行動している円盤型ドローンよりも手を入れているくらいだ。


 最初は荷物を運ぶことしかできなかったのに、今ではパンを作り、農作業までこなしている。


 もしAI同士で争うような仕組みがあるなら、こんなことにはならないはずだ。


 ………………。


 だめだな、シャッター街のようになってしまった繁華街を見ていると、

 ネガティブな想像ばかりが膨らんでしまう。


 人類が消えた理由を考えた時と同じだ。


 俺は探偵じゃない。


 一人で考え込んでも答えは出ない。


 今度アイに直接聞いてみるか。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
アイは主人公をお世話することが存在意義と思っているようだったから、敵対するようなAIを警戒はしているでしょうね。知らんけど。
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