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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第八章 北海道(旅路再々始動)編

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第45話:果報は寝て待てない

 食い意地のおかげで食料危機に先手を打てた形にはなったが、

 さすがに少し危機感が足りなかったかもしれない。


 いざとなればアイにすがればいいと、

 未来から来た猫型ロボットにすがる眼鏡の少年のような状態だった。


 このまま行き当たりばったりを続けていたら、いつか取り返しのつかないことになるかもしれない。


 あらためて現状を把握する必要がある。


「というわけで、今日は現状を把握するために状況を確認したい。いいか?」


「ええ、構いませんよ。

 何を知りたいんですか?」


「そうだな……」


 現状という一言では抽象的すぎたな。


 もう少し具体的な話にしないと、アイも説明しようがないか。


「まあ、生存の基本は衣食住だから。

 その辺りかな。それぞれどんな感じだ?」


「そうですね。

 あまり具体的な数字を出す意味は感じませんので、おおよそで言いますと――」


 衣類については、必要量は十分確保されていた。


 百歳まで生きるとして、死ぬまで毎日新しい服に着替えても足りる量の在庫があるらしい。


 まあ、その辺の衣料品店の倉庫を押さえれば造作もないか。


 無駄に着替える気はないが、とりあえず死ぬまで着るものには困らないことは確認できた。


 次に食。


 これも現時点で消費可能な食料は何万食もあるらしい。


 ただし、最長でも一年と少しで消費期限が来るので、

 そこからは消費期限切れの食品を食べるか、他のものを食べるしかない。


 とはいえ、加工前の米や粉類がトン単位で存在しているので、

 俺がビビっていたほどの危機ではなかったらしい。


 あくまで手軽に食べられる保存食の備蓄が、あと一年しか持たないという話だ。


 まあ、その時は自炊するとしよう。


 食については野菜類の生産も始めているし、

 味を無視すれば十年やそこらは気にしなくてもよさそうだ。


 アイが機能停止でもしない限りは大丈夫だろう。


 その時は自力で農業をやって食いつなぐしかないな。


 餓死する前に体を壊して死にそうだ。


 最後に住。


 八ヶ岳に始まり、今は仙台空港近くのパン工場を拠点にしているわけだが、

 各地がどんな状況になっているのかを聞いてみた。


 まず八ヶ岳のメガソーラーは、ついに稼働率が二十%を超えたらしい。


 春ごろには一%にも届いていなかったことを考えると、半年足らずですごい進捗だ。


 ついでにスウォームの数も万を超えたらしい。


 横須賀の工業地帯では延々と新しいスウォームが作られており、今後も増えるとのこと。


 色々とやけに手際がいいと思っていたが、とんでもない数だ。


 スカイツリーも一部機能は復旧し、アイの独自ネットワークの中核を担っているという話だ。


 各地の通信設備を再利用し、南は八ヶ岳、

 北は青森あたりまで通信可能領域を拡大しているらしい。

 もちろん、電力供給網も合わせて整備されている。


 俺がパン作りにはまったり、新米に舌鼓を打っている間に、裏では一大事業が進んでいた。


 この調子だと、この先行く先々で電気が使えなくて困る、みたいな展開もなさそうだ。


 電気が使えるなら、その辺の適当な家でもいいし、

 なんなら軍用車両で寝泊まりすればいいわけで、

 住むところも気にする必要がないように思える。


 俺の不安は解消されてしまった。


「どうです、少しは安心できましたか?

 シェルターほどではありませんが、

 どこに行ってもそれなりの生活ができるようにサポートできる体制は、

 整えられていると思うのですが」


「……そうだな。

 ちょっとやりすぎなところもある気はするが、安心したよ。

 これなら安心して旅を続けられそうだ」


「それはよかった。

 それはそうと山田さん。

 見てほしいものがあるので空港まで行きましょう」


「何だよ急に。

 もしかして飛行機の整備が終わったのか?」


「さすがにそれはまだです。

 何年も放置された航空機を安全に飛ばせる状態まで戻すには、

 年単位の時間が必要です」


「それもそうか。

 よく考えると福島を出てまだ一月も経ってないんだよな。

 なんか色々ありすぎて、もう何ヶ月も経った気になってたよ」


 八ヶ岳シェルターを出発して、もう半年になるのか。


 思えば遠くまで来たもんだ。


 ※※※※※


 空港の駐車場について行くとそこにはトラックに似た見慣れない車両が止まっていた。


 運転席の上には大きな箱のような部分が張り出していて、

 まるで帽子をかぶったトラックみたいになっている。


 全然違うが、ちょっとデコトラっぽいと思ってしまった。


「どうですか、私の用意した新しい移動拠点は」


「え、と、ただのトラックじゃないんだよな」


「そんなわけないでしょう。

 これはキャンピングカーです。

 俗に走る別荘と呼ばれるタイプですよ」


 なるほどそう言われるとキャンピングカーに見えてきた。


「口で説明するより見てもらった方が早いです。

 さ、乗ってみてください」


 アイに促され後輪の近くのドアから中に入る。


 そこはホテルの一室のような空間になっていた。


 エアコンはついているし、広い窓からは外の景色がよく見える。


 寝台車を思わせる高級感のある座椅子に、おしゃれなテーブル。


 キッチン、電子レンジ、冷蔵庫、さらにはトイレまで完備されていた。


 もはや動くホテルだろう。


 いや、走る別荘か。


 その名にふさわしい設備だった。


「すごい!?

 俺が求めていた文化的な設備が全部あるじゃないか!

 これで寝袋生活ともおさらばだ。

 やるな、アイ!」


「ふふふ、そうでしょう、そうでしょう。

 そこまで予想通りに喜んでもらえると、張り切って用意した甲斐があります。


 ただし、この車両のすごいところは内装だけじゃありません。

 泥や砂地はもちろん、岩場でも空転しない四輪駆動!

 ソーラーパネルとドローン用の給電設備も完備しています。


 つまり――私の活動時間も大幅に延びます。


 これからの旅を支える最高の移動拠点だと思いませんか?山田さん」


 所々に私情が挟まっている気もするがスルーしよう。


 俺は空気が読める男なのだ。


「そうだな。これなら寝ている間に北海道までいけそうだ。

 よし、任せたぞ!アイ」


 なんということだろう。


 休憩を挟みながら、ちまちま進む必要がなくなってしまった。


 これならノンストップで北海道まで行けてしまう。


 北海道から先はまた別の移動手段を考える必要があるが、そこまではイージーだ。


 ここのところ肉体労働が多かったし、ここらでのんびりさせてもらおう。


「……山田さん、残念ながらそうはいかないんですよ」


「なんでだよ?何か問題があるのか。

 燃料が足りないとか?

 どっかからスウォームで輸送すればいいだろ、いっぱいいるんだし」


「燃料の問題ではありません。

 もっと深刻な命にかかわる問題です」


「い、命!?なんだよ、それ。

 この車、危険なのか?」


 安全基準をクリアできてないとかだろうか?


 命に係わるってそれぐらいしか思いつかない。


 でも過保護すぎないか?

 アイが運転するならよほど飛ばしたりしない限りは安全だと思うんだが。

 少なくとも俺が運転するよりずっと安心だ。


「……ある意味そうですね。

 とりあえず降りましょうか」


「わかった……。

 お前がそういうなら本当に危ないんだな。

 っていうかそんな危ない車に乗せるなよ!」


「乗るだけなら問題ありませんよ。

 今はね、さ、早く降りてください」


「はいはい、あーあ、せっかく昼寝しようと思ったのに。

 寝袋で寝ると背中が痛いんだよな。

 床は冷えるし」


 俺はふかふかのクッションを名残惜しく思いながらも腰を上げた。

 外に出ると駐車場を吹きぬける風に身体が震える。

 車内はあんなに快適なのに何が危険なんだろう。


 それにやけに勿体ぶるのも気になる。

 車内では言えないことなのか?

 ますますよくわからない。


「さあ、降りたぞ。

 早く教えてくれよ。

 この車、何が問題なんだ。

 電気系統なら俺も少しはわかるから見ようか?」


「そういうことではありません。

 問題はあなたです。山田さん」


「お、俺!?どういうことだよ。

 どこも悪くないぞ?

 全然わからないんだが」


「……山田さん、あなた、太りましたよね。

 最近、また一段と」


「な、何を根拠に!?確かに最近ベルト穴を一つ緩めたけども」


「測らなくても見ればわかります。

 パンばかり食べていた時に忠告したのに、

 最近は新米最高と言いながら軍用糧食をおかずに何合も食べる始末。

 このままではあなた、死にますよ」


「な、何だって!?

 確かに少し食べ過ぎたかもしれないが、ここ最近は散歩もしてるし、

 おやつだってラスクからおにぎりに変えたんだぞ!」


「山田さんの認識はどうでもいいです。

 現在の生活習慣を続けた場合、

 将来的に心疾患や糖尿病などで早死にする確率が八割を超えています。

 簡易診断ですが、精度には自信がありますよ」


 なんとも残酷な死刑宣告だった。


 確かに、ろくな医療設備もないこの状況で糖尿病になり、

 透析が必要な身体になったら一巻の終わりだろう。


「……それで、俺の肥満と車がどう関係するんだ?

 まさか――」


「そう、そのまさかですよ。

 ただでさえ運動不足な山田さんに、

 こんな快適な乗り物を提供してしまっては、

 運動不足が加速すること間違いなしです。


 ここは心苦しいですがあえて言わせていただきます。

 山田さん……歩きましょう」


「うそだろおおおお!?」


「どうせ急ぐ旅でもないでしょう。

 それに先は長いのですから、最終的には誤差の範囲です。

 それよりもマチュピチュにたどり着く前に病死しないように歩きましょう!」


 こうして俺は北海道を目指して歩く羽目になった。


 北海道まで歩くなんて、まるで昔のバラエティ番組の罰ゲームである。


 誰にも笑ってもらえないのに一人で何をやってるんだろう、俺は。


 夢の移動拠点は豪華な寝袋と化した。


 まあ、これはこれでいいか。


 痩せたらそのうち乗せてくれるだろう。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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