第43話:初めての敗北は泥の味
翌日、稲を探すべくアイを説得したが反応はいまいちだった。
「山田さん、生えているかどうかもわからない稲を探すよりも、
農家の倉庫をあたったほうが早くありませんか?
何を考えているか知りませんが、
稲は放っておいても繁殖するような植物ではありませんよ。
だいたい、ダイエットのために散歩に出たはずなのにどうしてこうなるんですか?」
「うるさいな。
秋といえば新米だろうが!
だいたい倉庫に残ってる米なんていったいいつの米だよ!?
古古古古古米になっちまってるだろうが」
「……そんな分類はありません。
確かに古くなってるとは思いますが、
適切に調理すれば食べられなくはないと思いますよ」
「いいから手伝ってくれよ。
にゃんタンクとかスウォームを使えば楽勝だろ。
こんなに広いんだから生き残った稲をかき集めれば、
俺一人が食う分の米ぐらい確保できるはずだ」
元田んぼは見渡す限りどこまでも続いている。
多分、端まで数キロはあるだろう。
中には違う作物を育てていたところもあるかもしれないが、
東北なのだから米が主流のはずだ。
俺は見渡す限りの田んぼを指差した。
「……仕方ないですね。
気が進みませんがやってみますか」
「おお、やってくれるか。
さすがアイ!そこにしびれる、憧れる!」
「……理解不能です。
どう考えても倉庫を探した方が早いと思うのですが」
渋々ではあったがアイの協力を取り付けることは出来た。
これで新米を使ったおにぎりが食べられそうだ。
※※※※※
「「まさか、農作業がこれほどハードだったとは……」」
俺とアイの声がきれいにハモった。
それなりに長い付き合いだが、意見が完全に一致したのは初めてかもしれない。
それだけ衝撃的だったということだろう。
始める前は楽勝と思った稲探しだが、実際は楽勝とは程遠い難事だった。
最初に投入したにゃんタンクは速攻で泥にはまり身動きが取れなくなった。
「ご迷惑をおかけしますニャー。
助けてほしいニャー」
ディスプレイの眉毛をハの字にしてしょんぼり声で助けを求めるにゃんタンクは、
アイにとっても想定外だったようだ。
キャタピラが空転し、完全に身動きが取れなくなっている。
「……放置されて数年経過しているのに、このぬかるみですか。
想定外です。
にゃんタンクもまだまだ改良の余地がありますね。
いいデータが取れました……」
……喜んでいるのか、怒っているのかわからない。
まあ、ぶちぎれているようには見えないからそっとしておこう。
そんなことよりも稲だ、稲。
ぬかるみにはまるならばと次はスウォームで挑戦した。
上空から稲を探す。
見つけたら、片方のアームで稲を掴み、もう片方のアームで刈り取る。
完璧な作戦に思えた。
無数のスウォームが青空を舞い、稲の収穫に挑む。
「これぞ未来の農業だな。
最初からスウォームにすればよかったんだ」
俺が見守る中、稲を見つけたスウォームが高度を下げ、稲を刈り取ろうとしたとき、悲劇は起きた。
ガガガガガッ。
ファンに周りのススキが巻き込まれ回転が止まる。
ヌチャッ。
推進力を失ったスウォームは無残に泥に沈んだ。
一機だけではない。
二機目も。
三機目も。
次から次へと落ちていく。
「ちょ、ストップ!ストップ!中止だ。
アイ、やめさせろ!」
「まだです。
まだ我が軍は終わってません。
スウォームはまだ半数残っています。
このままでは終われない。
終わってたまるものか!!」
「いいからそういうの!
失敗を認めろよ!
っていうかお前やっぱりさっきのでキレてたのかよ」
「私の技術力は世界一です!
田んぼごときに負けるはずがない!
最後の一機まで突撃です!」
「やめてくれえええええ!!」
結局、全部落ちるまでスウォームは止まらなかった。
俺が崩れ落ちるのと、アイが冷静さを取り戻すのは同時だった。
「「まさか、農作業がこれほどハードだったとは……」」
※※※※※
「ちょっと頭を冷やしてきます」
アイはそう言ってどこかに行ってしまった。
無理もない。
これまで万能と思えていたスウォームやにゃんタンクが手も足も出なかったのだ。
「仕方ない、とりあえず、スウォームを回収するか。
にゃんタンクは……重そうだから後回しだな」
田んぼを歩き回り、墜落したスウォームを拾ってあぜ道に置いていく。
ファンからススキを外すのがめんどくさい。
思いのほかがっつり絡んでいる。
こんなことなら探すのだけやってもらって、自分で刈り取ればよかった。
楽をしようとしてひどい目にあっているのだから度し難い。
というかアイがあんなに取り乱すとは思わなかった。
プライドが高い奴だとは思ってたが想像以上だった。
まさに想定外だ。
……。
……。
……。
黙々とスウォームを拾い続け、
最後ににゃんタンクを救出したところで俺の体力は尽きた。
「ありがとうございますニャー」
ディスプレイの眉毛を弧の字にしてにゃんタンクは空港の方に戻っていった。
泥だらけだしメンテナンスに行ったんだろう。
それにしても、いまさらだが定型文みたいな喋り方なのはなぜなんだろう。
元のシステムを流用しているせいだろうか。
疲れ果てた頭でそんなどうでもいいことを考えているとアイが戻って来た。
アームには風呂敷を下げている。
「山田さん。お疲れ様です。
少し遅いですが、お昼ご飯を持ってきました」
「おお、サンキュー。
ちょうど腹減ってたんだよ、どれどれ」
風呂敷の中身はおにぎりとお茶、そして濡れタオルが入っていた。
手を拭き顔をぬぐうと、ぼんやりしていた頭が少し冴える。
生き返った心地だった。
お茶でのどを潤し、おにぎりをほおばる。
乾いた口の中に水分が戻り、米がするりと喉を通っていく。
ほどよい塩気が食欲を刺激し、気づけばあっという間に平らげていた。
「ああ、うまかった。
やっぱ日本人は米だな。
おにぎり最高!」
「好評なようで何よりです。
ちなみにそれは古古古古古米で作ったおにぎりですよ。
付近を探索したら、農家の倉庫にいっぱいありました」
「マジか!?
……古古古古古米も悪くないな」
「だから言ったじゃないですか。
適切に調理すれば食べられなくはないって」
「……そうだな、食わず嫌いはよくなかった」
「そうですよ。そのせいでどれだけ甚大な被害が出たか」
「いや、俺は割と早めに止めただろ!」
「遅すぎます。
にゃんタンクを行動不能にされ、あまつさえ多数のスウォームを撃沈されたのですよ。
大人しく引き下がれるわけがないじゃないですか!
何の成果も得られませんでしたでは、スウォーム達に顔向けができません!」
「……お、おお」
アイの愚痴は止まらない。
どうやら全然頭は冷えていなかったようだ。
完全に暴走モードだ。
「そもそも、我が軍は農作業をするために作られたわけじゃないんですよ。
土木工事や日常の軽作業をするための機能は有してますが、
こんな泥沼に生えた草を刈るとか……。
こんなもののために生まれてきたんじゃないです!」
「いや、生まれてはないだろ……」
「また山田さんはそんな揚げ足取りを!大体あなたはいつもいつも――」
アイの説教は止まらない。
俺は残っていたお茶を一気に飲み干した。
……勘弁してくれ。
結局、アイの愚痴は陽が暮れるまで続くのだった。
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