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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第七章 終末夏休み編

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第39話:夏の終わり

 ゲームをしたりカラオケをしたりと遊んでいるうちに随分と陽も短くなってきた。


 少し前までは陽が落ちてからも熱気の残る地面に辟易としていたが、

 今はそれが心地いい位になっている。


 ふと滑走路を眺めると、片隅にバカでかい塔が立っていた。


 以前は昼夜を問わず行き交っていたスウォームやにゃんタンクの姿はもうない。


 工事をしているのは目にしていたが、気づけば離れた場所からでも見上げるほどに大きくなっていた。


 格子状に伸びる外観はどことなくスカイツリーに似ている。


 ライトアップされ闇夜にくっきりと浮かぶ姿は、まさにミニスカイツリーだ。


 ここに北海道に向かうための補給基地を作るとアイは言っていたが、どうやら通信機能も備えているようだ。


「補給基地って言ってたけど、ずいぶんと本格的だな。

 これならかなり遠くまで電波を飛ばせそうだ」


「スカイツリーには及びませんが、半径一〇〇キロ圏内のドローン制御には問題ありません。

 これまでは復旧させた既存の通信塔をいくつも経由していましたので、

 通信が不安定になることもありましたが、それもこれまでです」


 俺が遊んでる間にとんでもない大工事をしていたようだ。


 だが感心する一方で少し気になることが出てきた。


 これから先に進むたびにこうした施設を作りながらいけないのだろうか。


 なんだかんだで、この補給基地の建設だけでも一月近くかかっている。


 このペースではマチュピチュにつくまでにどれだけの時間がかかるのか。


 せめて自分の足で歩けるうちにはたどり着きたいのだが……。


 想像しただけで気が遠くなった。


「心配しなくても大丈夫ですよ。

 こうしている間にも各地の工場や通信設備の復旧は着々と進んでいます。

 それこそ山田さんが眠っている間もずっとです」


 俺の表情から察したのか、アイがフォローしてくれた。

 うすうすというかそうだろうとは思っていたが、本当に二十四時間体制で働いていたらしい。

 社畜時代を思い出し、胸がギュッとなった。


「すごいな。

 それなら安心だ」


 正直少しぐらい休んでくれていいのにと思う。

 別に急ぐ旅でもないし、なんなら寄り道ばかりしているのだから。


「十年もあれば南米までたどり着けますよ」


「いや、長ぇよ。

 半分ぐらいにならないのか?」


「空路を使えば数日ですが、安全性に信頼のおける航空機が手に入らないと難しいですね。

 一から製造していたら何年もかかりますし。

 シェルターに引き返して飛行機ができるの待ちますか?」


 こういうのを究極の選択というんだろうか。


 安全な陸路と海路で十年かけて進むか。


 飛行機が完成するまで何年も待ち、一気に南米まで飛ぶか。


 安全面についてはアイが監修するならどちらも心配いらないだろう。


 問題は、時間をどう使うかだけだ。


 そう考えれば答えはすぐに出る。


「愚問だな。

 何年も待ってるだけなんて退屈で死んじまう。

 少しずつでも先に進んだほうがいいに決まってる」


「山田さんならそういうと思ってました。

 そのつもりで準備を進めてるので期待しててください」


「おお、頼むわ」


「飛行機の方も並行して進めておくので、帰りはひとっとびですよ。

 進捗次第では先について待ってるかもしれませんね。

 ふふふ、競争ですね」


「お、おお、程ほどにな」


 なんというか、徹夜続きの社畜が妙なハイテンションになった時のような雰囲気だった。

 燃え尽きて無気力症候群になってしまわないか心配だ。


 AIにもストレスがあるかはわからないが、何か気晴らしを考えたほうがいいかもしれない。


 ※※※※※


 何かいいものはないかと空港の中をあらためて家探しした結果、面白いものを見つけた。

 時期も時間もぴったりの代物だった。


「なあ、花火でもしないか」


「そんなものどこにあるんですか?」


「放棄品箱にあったんだ」


「……よく見つけましたね。

 大丈夫なんですか、それ?」


「多分、大丈夫だろ。

 未開封のやつだし」


 誰が持ち込んだかはわからないが、花火は抱えきれないほどあった。


 手持ち花火セットを集めるとコンビニの花火コーナーみたいになった。


 夏休みシーズンだったこともあるのだろう。


 持ち込みも預け入れもできないことを知らない人が、それだけいたということだろうか。


 刃物と違って危険物という印象が薄いのかもしれない。


 個包装にされたいろんな種類の花火はそのままでも見ていてワクワクしてくる。

 パッケージいっぱいに書かれた煽り文句は早く遊べと訴えてくる。

 買った本人はさぞ残念だっただろう。


 まあ、おかげで贅沢な花火大会ができそうだ。

 こちらとしてはありがたいかぎりである。


 さあやるかと同じく放棄品箱に入っていたライターで火をつけようとしたらアイから待ったがかかった。


「何を考えているんですか!?

 水も砂も用意せずに花火をしようなんて!

 使い終わった花火を入れるバケツもないじゃないですか。

 見切り発車もいいところです」


 なんか、めっちゃ怒られた。


 久しぶりすぎて色々忘れていた。


 俺的には言われてみればその通りだし、次から気をつけようぐらいの話なんだが、

 アイにとっては許容できない危険行為なんだろう。


 時々こういうことがある。

 俺はどこか危機感がないのだ。


 やはり安全面に関してはアイに任せておけば安心だ。


 俺が一人で納得しているとにゃんタンクたちが水と砂の入ったバケツを運んできてくれた。

 猫型配膳ロボにキャタピラを付けたようなふざけた見た目なのに、作業だけはやたらと手際がいい。


 空には水場から伸びたホースを構えるスウォームも待機していた。


 万全の構えだ。


「たかが花火にここまでするのかよ」


「安全第一です。

 火事が起きても消防車は来ないんですよ」


 ぐうの音も出ない正論だった。


 というか言われるまで消防車の存在を忘れていた。


 社畜からヒモにジョブチェンジして以来、俺の脳の退化っぷりがやばい。

 気をつけないとシートベルトもしなくなりそうだ。


「さて、それじゃ、始めるとするか。

 どれにしようかな……この長いのにするか」


 袋に七十秒と書かれた長い花火を取りだし火をつける。


 ボッという特徴的な音と共に火花が噴き出す。


 花火の先から立ち上る煙の臭いがどこか懐かしかった。


 青……赤……緑。


 次々に色を変える火花を眺めていると、七十秒はあっという間だった。


「……もう終わったか。

 まあいい、次だ次」


 今度はナイアガラと書かれた花火にした。


 謳い文句にふさわしい滝のような火花が噴き出す。


 一瞬、ビビって手を放しそうになってしまった。


 花火セットはこういう脅かしてくるやつがあるから楽しい。


 その後もいろんな花火を試していく。


 ジェット噴射みたいに火が噴き出すやつ。


 バチバチと放射状に広がるやつ。


「子供のころ以来だけどいいな、こういうの」


「溶接の火花と大差ないと思いますが。

 こういうのがお好きなら工場の手伝いをされてはいかがですか?」


「いや、全然違うから。

 見ろ、これ何か七色に変わるんだぞ」


「時間差で炎色反応が発生するように調整されているのは分かりますが

 それを見せられても、でっていう感じなんですよね」


 ……なんて残念なAIなんだ。


 こいつには風流というものが理解できないのか。


 いや、待てよ、あれならもしかすると――。


 そう思い俺は、主張の激しい花火しかないセットの中からおとなしめな包装を取り出した。


 そう、花火の締めといえばこれ、線香花火だ。


「妙な名前ですね。

 これがすごいんですか?」


「まあ、やってみろよ」


 アイに一本手渡し、自分の花火から火を移す。


 なんてことない行為だがこういうのも胸が熱くなる。


 友達ともっとくっつけろだの、まだ点かないだのとワイワイ言っていたのを思い出す。


 アイは何も言わずにじっとしている。


 こいつは何を考えているんだろうか。


 線香花火はぱちぱちと少しの間火花を散らした後、徐々に勢いを弱めていく。


「……もう終わりですね。

 他のに比べると地味ですけど、これがいいんですか?

 ……あ!?」


 火花を吐き出し終えた線香花火は力尽きるようにポトリと火の玉が落ちた。


 わかっていても最後は少し切ない。


「どうだ、驚いたか?」


「……確かに意外性はありましたね。

 もう一本いいですか?」


「おお、たくさんあるからどんどんやってくれ」


「一本でいいです」


 それからアイは二本目の線香花火をじっと眺めていた。


 何を思ったかはわからないが、気に入ってくれたようで何よりだ。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

面白かったら、ブックマークや評価をいただけると、執筆の励みになります。


【お詫びとお知らせ】

投稿管理のミスで、

第21話:謎解きは掃除のあとで と 第23話:隠された真実はたいていろくでもない レボリューションズ、第30話:焦らされるのは好きじゃない と 第32話:ゴールド・エクスペリエンスの間に、本来入れるべきエピソードを飛ばして投稿してしまっておりました。


第22話:結末は思ったよりもあっけない

第31話:喜べないお宝

を挿入いたしました。



ここまで読まれて「あれ?」と思われていた読者の皆様、大変失礼いたしました。

お手数ですが、一度バックしていただき、

新しく挿入された

第22話:結末は思ったよりもあっけない

第31話:喜べないお宝

をお読みいただけますと幸いです。

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― 新着の感想 ―
数日前にこちらを見つけ、一気に読ませて頂きました 崩壊後の世界を一人と一台?であるく 不思議なほのぼの感と寂しさが、独特の読み口 とても楽しく読ませて頂いております 続きも楽しみです ご無理のない範囲…
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