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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第七章 終末夏休み編

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第38話:勝敗の行方は……忘れた

 空港のロビーには冷たい空気が戻っていた。


「昭和だからって空港にエアコンがなかったわけじゃないぞ。

 むしろ、空港のような最先端な場所ではエアコンは完備されてたんだ」


「そうでしたか。

 お恥ずかしながら当時の生活様式に関する資料が少なく、

 山田さんの言動を参考にしてみたのですが、失敗だったようですね」


 考えてみればアイの知識の出発点は、俺が読んでいたマンガや研究施設のデータだった。


 他にも色々な資料を集めているのだろうが、

『古いものにも良さがある』

 という俺の発言を真に受けた結果がこれなのだろう。


 俺はそこを指摘することで、なんとか快適なロビーを取り戻すことに成功した。


 古き良き時代に思いをはせるのもいいがエアコンのない生活には戻れないのだ。


 チリン、チリン――


 エアコンの風に揺られ、涼しげな音色が響く。


 風鈴は悪くないインテリアなので残すことにした。


 昭和の空港に風鈴があったかなんて知らないが、夏といえば風鈴だ。


 少なくとも俺の中ではそうだった。


 ※※※※※


 ロビーをゲーセン化してから一週間が過ぎた。


 目が覚めたらとっくに昼になっていた。


 昔は目覚ましをかけなくても朝は六時に起きていたものだが、最近はめっきり起きれなくなっている。

 昼夜逆転生活というほどではないが生活リズムが乱れているせいだろう。


 のろのろとロビーに敷いた布団から起きだした俺は、トイレに向かい手洗い場で顔を洗う。


 わずかに冷たい水道の水で意識が覚醒してくる。


 顔を洗ってロビーに戻ると布団が片付けられ、受付に朝食兼昼食が用意されていた。

 いつも食べているミリ飯と水だ。


 変わりばえのしないメニューだが俺は食にこだわりがない方なので気にならない。

 むしろ、あれこれ考えなくて済むので助かっている。


 こういう食事をしているとポストアポカリプスな世界なんだという実感が少し湧いてきたりもする。

 だがそれも食べ終わればすぐにどこかに飛んで行ってしまう。

 多分、差し迫った脅威が存在しないのが原因だろう。


 ゾンビとか宇宙人が襲ってくる状況ならともかく、何の危険もない現状では危機感も抱けない。


 水や食料についても備蓄は山ほどある。足りなくなったとしても、その頃にはアイが何とかしている気がした。


 映画なんかでこういうシチュエーションだと農場を作ったりするんだろうが、俺は必要性を感じていない。


 そんなことよりも日々をどう過ごすのかということの方が重要だ。


 そのために空港のロビーをゲーセン化したりしている。


 のだが――


「……さすがに飽きてきたな」


 最初こそアイと対戦したりもしたが、クイズゲーで勝ちを拾ってからは誘っていない。


 なぜなら勝てないからだ。


 格ゲーなんかは言うまでもないが、クイズにしても出題内容によっては普通に負けていた。

 というかハンデを五ももらっておいて辛勝だったのがすべてを物語っている。


 こういう時、映画の主人公ならどうするだろうか。


 よくあるのが発想の転換という展開だ。


 困った時や上手くいかないときはチェス盤をひっくり返して考えるのだ。


「……勝とうとするんじゃなくて、負けても楽しめればいいのか」


 別に何が懸かっているわけでもないのだがそれでも負けると悔しい。


 たまに負けるとかならともかく一方的にやられるのでは楽しみようがないのだ。


 相手のプレーを称え、自分のプレーを楽しむ。


 言うのは簡単だが俺には無理だ。


 だから最初から勝敗が気にならない遊びを探すしかない。


 ※※※※※


 俺が目をつけたのはカラオケだ。


 アーケードゲームを探して旅館を巡っていた時に見かけたのを思い出したのだ。


 試しに適当な曲を流してみると一緒に持ってきたテレビに歌詞付きの映像が映った。


 カラオケの映像はどの曲でも観光地や海辺ばかり映る。


 一体誰向けなんだろうか。


「また妙なものを増やしましたね。

 山田さん。」


「妙なものとは何だ。

 せっかく一緒に楽しめる遊びを思いついたのに」


「……お気遣いありがとうございます。

 それで、これをどうするんですか?」


 カラオケを知らないとは思えなかったが、一応説明することにした。

 こいつの知識は偏ってるから、知らない可能性もある。


「その中から自分の好きな曲を選んで歌うんだ。

 歌い終わったら採点されるからそれで勝負だ」


 タブレットを見せながらルールを説明すると、アイは困惑したような反応を見せた。


「構いませんがどれを選べばいいんです?

 好きな曲と言われても歌なんてわかりません」


「タイトルで決めたらどうだ?

 その方が面白そうだ。

 俺は持ち歌でいく。

 さすがにこれならいい勝負になると思うんだよな」


「なんだか随分私に不利な気がしますが……。

 いいでしょう。最先端AIの実力というもの見せて差し上げます!」


 そういえばこいつは歌えるんだろうか?


 喋るのと歌うのは似ているようで違う。


 歌詞を読み上げても歌にはならない。


 逆に音に合わせて声を出せば言葉でなくても歌になる。


 それが歌というものだ。


 これまではアイの有能さばかりを見せつけられてきたが、歌は未知数だ。


 初めてでどれだけ歌えるのか興味がわいてきた。


 アイが選んだのは、ひたすら回り続ける人の人生を歌ったボカロ曲だった。


「ぶはっ、お前、いきなり変わったのを選ぶな。

 ウケ狙いか?」


「……ご忠告通りタイトルで選んだんですよ。

 今の私の心境をよく表している素晴らしいタイトルです。

 山田さん相手に実行したいです」


「ちょ、お前アームを振り回しながら近づいてくるな!

 そんなことより歌えよ!始まるぞ」


「……仕方ありませんね。

 今は見逃してあげます。

 では――」


 音楽が流れ、テレビの画面に両手を広げて回り続けるアニメキャラが表示される。


 ……妙に曲と映像が噛み合っている。


 こんな凝ったカラオケ映像もあるんだな。


 一メートルから始まり、三メートル、五十メートルと回る半径はどんどん大きくなっていく。


 生きていくにつれて世界が広がっていくことを表現しているように思えた。


 歌詞だけ読むと妙な内容なのだが、

 合間に挟まる心情の部分はふざけた曲名とは裏腹に心に響くものがあった。


 ボカロの曲をアイが歌っているのもツボだった。


 最初はネタ曲だと思って笑いながら聞いていた。


 だが、聞いているうちに笑えなくなってきた。


 自分でも理由はよくわからない。


 急激に成長していくアイの歌声に感情を揺さぶられたのか。


 それとも、歌詞の中に自分の人生を重ねてしまったのか。


 ただ涙が止まらなかった。


「よかったよ、アイ。

 ピンク髪のボカロみたいだった」


「そうですか。

 その例えはよく分かりませんが、

 褒め言葉として受け取っておきます。


 自分では上手く歌えたか分かりませんが、

 そう言っていただけると嬉しいです。


 バックグラウンドで練習しておきましょう。


 さあ、次は山田さんの番ですよ」


「よし、じゃあ、俺は『ペットをチョップしたら未来にタイムスリップした』にしようかな」


「……それは歌のタイトルなんですか?」


「何を言う!昔のネットでは有名な曲だぞ!俺の十八番だ。

 忘年会では鉄板で大爆笑をとれるんだ!」


「理解不能です。

 歌というのは複雑怪奇ですね」


 アイには歌という文化は早すぎたのかもしれない。

 デカルチャーという奴だろうか。


 それはそれとして久々のカラオケは楽しかった。


 自分で歌うのはスカッとするし、アイの歌声は聞いていて楽しい。


 あっという間にボカロ並みに上手くなったのはさすが高性能AIというところだ。


「ところで、これまでの採点はどうなってるんですか?

 点数を競うという話だったと思いますが」


「あ、ああ、忘れてた。

 ……まあいいじゃないか。

 普通に歌おう」


「そうですね。

 そんな旧式の機械に採点されるのも癪ですし」


 どこまでも負けず嫌いなAIと人間の競演は、深夜にまで及んだ。


 翌日、俺だけ喉が枯れて声が出なかったことは言うまでもない。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

面白かったら、ブックマークや評価をいただけると、執筆の励みになります。


【お詫びとお知らせ】

投稿管理のミスで、

第21話:謎解きは掃除のあとで と 第23話:隠された真実はたいていろくでもない レボリューションズ、第30話:焦らされるのは好きじゃない と 第32話:ゴールド・エクスペリエンスの間に、本来入れるべきエピソードを飛ばして投稿してしまっておりました。


第22話:結末は思ったよりもあっけない

第31話:喜べないお宝

を挿入いたしました。



ここまで読まれて「あれ?」と思われていた読者の皆様、大変失礼いたしました。

お手数ですが、一度バックしていただき、

新しく挿入された

第22話:結末は思ったよりもあっけない

第31話:喜べないお宝

をお読みいただけますと幸いです。

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