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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第七章 終末夏休み編

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第37話:これじゃ勝っても喜べない

 UFOキャッチャー勝負はアイの先行で始まった。


 まさに機械的な動きで十回連続で景品をGETしたアイだったが、

 別段それを誇る様子もなく自然体だった。


 アイからすればアームを動かして物を移動させるなんてのは、

 人がコップを手に取り水を飲むのと変わらないのだろう。


 一方、俺にそんな余裕はなかった。


 ミスが許されない状況で、ガラスに顔を押し付けるようにしてアームの位置を確認した。


 アームの中心と景品の重心が一直線になったところでボタンを離す。


 アームが下がっていき景品をがっちりと掴む。


 そしてそのまま落とし口まで運びきった。


 景品GETだ。


 これで十個目。


「……十対十。

 引き分けだな」


「そうですね。

 いい勝負でした。

 山田さんもなかなかのアームさばきでしたね」


 UFOキャッチャー勝負は引き分けだった。


 だが驚きはない。


 こうなることは読めていた。


 なぜなら始める前にアイがUFOキャッチャーを整備すると言い始めたからだ。


 景品の位置が不規則ではフェアじゃないと言い、乱雑に積まれていた景品をきれいに並べやがった。


 これでは俺の狙っていた雪崩戦法は使えない。


 このままではまともに勝負をする羽目になるとひやひやしながら見ていた。


 さらにアームも「これではしっかり掴めませんね」と調整を始めた。


 先端に滑り止めをつけられ取りこぼさなくなったアームは、もはや業務用クレーンだった。


 結果は前述の通りだ。


 UFOキャッチャーは景品を穴に落とす作業になってしまった。


 負けはしなかったが、勝つこともできないという不本意な結果だ。


 このままでは終われない。


 何かないか。


 そう思いゲーム機が並ぶ空港ロビーを見渡す。


 スロットはどうか?

 同じ設定でやった場合、運勝負になるので勝率は五分だ。

 いや、目押しなんかで取りこぼしが多い俺の方が不利か。

 あいつはミスったりしない。


「スロットはなしだな……。

 麻雀も運要素が強い。

 格ゲーは勝ち目がない――」


 はっきり言ってアイに勝つイメージが見えなかった。


 反射神経や読み合い、操作の正確性で戦ったら負ける。


 それはこれまでの戦いから明らかだった。


 俺が勝つにはやはり搦め手しかない。


 そしてUFOキャッチャーの時のように対策されないゲームでないとダメだ。


 選択肢を一つ一つ確認していく。


 消去法で残ったのはクイズゲームだった。


 普通に考えて知識量で劣る俺がアイに勝てるはずもない。


 だが雑学分野ならアイが知らない問題が出る可能性がある。


 他のジャンルにはない不具合ともいえる仕様がこのクイズゲームにはあった。


 俺はそこに一縷の希望を見出した。


「私に知識で勝負を挑むなど無謀もいいところです。

 私に有利過ぎますのでハンデをつけましょうか?

 十問勝負で山田さんに+5点差し上げます。

 それならいい勝負になるでしょう」


「言ったな。

 見せてやるよ。人間の底力って奴を!」


「クイズに底力とかないと思うんですが……まあ始めますか」


 こうして俺の最期の戦いが幕を開けた。


 ※※※※※


「……八対七か。俺の勝ちだな」


 勝ったとは言ったが、十問中三問しか正解できなかった。

 アイは逆に三問しか間違えなかった。


 本当にギリギリの勝利だ。


 レトロクイズゲーのくせにやけに難しかった。


 だが、まあ勝ったのでよしとしよう。


「馬鹿な!これはバグです。

 このクイズの答えは間違っている!」


 負けたアイは自分の敗北を認められないようだった。


 無理もない。


 自信満々でハンデを提案しておきながら、あっさり負けてしまったのだ。


 初めての敗北は辛いことだろう。


 だが負けて立ち上がることでより強くなれるのだ。


 この辛さをばねにして成長してほしいものだ。


「……なんだか満足げににやにやされているところ恐縮ですが、この負けは認められません。

 システムのエラーです。不備を修正して再戦すべきです!」


「悔しいのは分かるがこれが現実だ。

 お前は負けたんだよ、アイ。

 辛いのは分かるがゲームに文句をつけるのはダメだ」


 俺はアイの傷心に寄り添うべく、なるべく言葉を選んで励ます。

 誰しも負けるのは辛いものだ。

 だがこれを乗り越えて――


「いい加減、そのしたり顔をやめて説明しないと電気止めますよ」


「すみません、調子に乗りました。

 説明するので電気止めないでください。

 暑いのはこりごりなんだ!」


 なんという暴虐なAIだろう。

 何かあればすぐに電気を止めてこちらを圧迫しようとしてくる。

 そんなだからクイズに負けるのだ。


 とはいえ、このままだと本気で電気を止めかねない。

 こいつはやるといったら必ずやる。

 そういう凄みがある。


 というか、シェルターに置き去りにされたトラウマが刺激される。

 からかうのはやめてさっさとネタばらししよう。


「簡単な話だ。

 このクイズゲームの答えは、作られた当時のままなんだよ。


 例えば、『日本で一番高い建物は東京タワーである。〇か×か』

 お前は×にしたが、昔は〇だった。

 冥王星だって昔は惑星扱いだっただろ。


 つまりこのゲームの時間は当時で止まったままなんだ。

 そこをお前は“今の常識”で答えた。

 俺は“当時の常識”で答えた。


 それが答えだ」


「くっ、私がこんなつまらない見落としをするなんて……」


 辛勝だった。


 それに同じクイズゲーでもレトロゲーだったのが功を奏した。

 最近のは問題や答えもネット経由でアップデートされちゃうから、こういうからめ手は使えない。


 古いものにも、よさはあったわけだ。


「まあ、これからは古いものにも目を向けるんだな。

 じゃないとこうして足元をすくわれることになる」


 俺は決めセリフを残してクールにロビーを後にする。


 さっさとこの場を離れないと負けず嫌いなアイに再戦させられてしまう。


 ロビーから外に出ると空には雲一つなかった。

 青い空に滑走路の開放的な景色。

 まさに夏という感じだった。


 荒れていた滑走路はきれいに均され、伸び放題になっていた雑草も刈り取られていた。

 どうやら俺が遊んでいる間にも空港の補給基地化は進んでいたらしい。


 別の場所では大量のスウォームとにゃんタンクが、資材を運んだり足場を組んだりしている。

 通信塔でも建てる気だろうか。


 あれらを操作しているのもアイであることを考えれば、クイズで勝ったところで勝ち誇れない。


「とはいえ、勝ちは勝ちだ。

 人類としての面目躍如だな」


 アイの有能さは認めるが、負けっぱなしではいられない。


 対等な関係でいるためにもそこは譲れない一線だった。


 しばらく建設現場を眺めていたがのどが渇いたのでロビーに戻るとドアが開け放たれていた。


 チリン、チリン――


 吹き抜ける風に風鈴が揺れている。


「いつの間にこんなものを……。

 っていうかエアコンが止まってる!?

 アイ!何やってんだ!」


「あ、山田さん。

 ちょうどいいところに。

 どうですか?私なりに古き良き、昭和の環境を再現してみたのですが?

 生憎、扇風機は新しめなものしか用意できなかったんですが」


 周りを見れば受付やゲーム機の脇に、首振り扇風機が置かれている。

 事務所かどこかから集めてきたらしくテプラで部屋名が貼ってある。

 使用感がすごい。


 どうやら俺の古いものにも目を向けろという言葉をそのまま受け取ったらしい。


「お前、あれはこういうことじゃないだろ。

 もっと、こう、温故知新的な話で――」


「しかし、電気の節約になるし、夏らしさがあっていいですね。

 人間はこの風鈴のノイズや暑さに夏を感じるんですよね?

 理解不能ですが、古いものの良さは分かりました」


 電気の節約と暑さなら、前者が勝つようだ。


 どうやら俺は間違った教訓を口にしてしまったらしい。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

面白かったら、ブックマークや評価をいただけると、執筆の励みになります。


【お詫びとお知らせ】

投稿管理のミスで、

第21話:謎解きは掃除のあとで と 第23話:隠された真実はたいていろくでもない レボリューションズ、第30話:焦らされるのは好きじゃない と 第32話:ゴールド・エクスペリエンスの間に、本来入れるべきエピソードを飛ばして投稿してしまっておりました。


第22話:結末は思ったよりもあっけない

第31話:喜べないお宝

を挿入いたしました。



ここまで読まれて「あれ?」と思われていた読者の皆様、大変失礼いたしました。

お手数ですが、一度バックしていただき、

新しく挿入された

第22話:結末は思ったよりもあっけない

第31話:喜べないお宝

をお読みいただけますと幸いです。

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