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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第七章 終末夏休み編

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第36話:遊ぶのも楽じゃない

『ユワッシャー!』


 深夜の空港ロビーに懐かしのアニメソングが流れる。

 スロットで大当たりが連荘したときに流れるプレミアBGMだ。

 筐体の画面では、胸に傷がある男が大男とバトルを繰り広げていた。

 もうかれこれ一時間はこんな状態が続いている。


 出だしこそ悪かったものの、さすがの最高設定。


 いったん当たれば、そこからは圧巻だった。


 単発で終わっても、すぐに引き戻して当たる。


 夢のような展開だ。


 学生時代にこんな台に座れていれば、バイト漬けの生活を送らなくて済んだかもしれない。

 そうすれば生活も変わっていたかもしれないし、就職先も変わっていたかもしれない。

 だが、その場合は今ここでこうしていられなかった可能性が高いかもしれない。


 そう考えると、運というものが不思議に思えてくる。


 短期的に見れば素晴らしいことのように見えても、長期的に見ればそうでないかもしれない。


 こういうのを塞翁が馬というのだろうか。


「山田さん。まだ寝ないんですか?

 夜更かしは体に毒ですよ」


「たまにはいいだろ。

 この連荘が終わったら寝るよ。

 もう少しでこいつを昇天させられるんだ」


 画面の連荘数は十八回。

 あと二回、二十回で特殊演出が見れるのだ。

 その演出を見たいがために、この台を打っているようなものだ。

 ここまでくれば、何としても見たい。


「……まあ、ほどほどにしてくださいね。

 二十代の学生ならともかく、アラフォーの山田さんには徹夜は命取りです。

 ご自分が昇天する羽目になりますよ」


 不吉なことを言い残して、アイは作業に戻っていった。


 あいつの方こそ、バブル期のサラリーマンも引くレベルの働きぶりだ。


 CPUが焼き切れたりしないのだろうか。


 そんなことを考えていたら、目標の二十連荘を超えていた。


 これで念願の特殊演出が見られる。


 でも、もう少し連荘を眺めていたい気持ちがあった。


「昔の最高記録は三十連だったか。

 一撃三千枚で一ヶ月のバイト代を叩きだしたんだよな。

 今夜はどこまで伸びるかな……」


 画面上の戦いは、まだまだ終わる気配がない。


 時計の針は、とうにてっぺんを超えている。


 ここからは睡魔との戦いの時間だった。


 ※※※※※


 翌朝、目覚めた俺が最初に感じたのは肩の痛みだった。


 肩を回すと、なんかゴリゴリする。


 まあ、これはあれだ。

 そう、重度の肩こりだ。


 半日近くスロットを打ち続けたのだから無理もない。


 とはいえ、過去最高の四十連荘での肩こりだ。


 名誉の負傷といえるだろう。


 ずっと見たかった特殊演出も見れたことだし、俺に悔いはない。


『わが生涯に一片の悔いなし』というやつだ。


「おはようございます、山田さん。

 昨日は随分と遅くまで遊んでたみたいですが、具合はどうですか?」


「おはよう。

 ちょっと肩こりがひどいけど平気だ」


「そうですか。

 今日もやるんですか?」


「どうしようかな。

 今日は肩が痛いし、スロットはやめとくか。

 そうだ、格ゲーで対戦しよう。

 アーケードのコントローラーなら、お前でも操作できるだろ?」


「問題ないですが……。

 でもいいんですか?

 前に対戦した時は二度とやらないって言ってましたけど」


 そう。

 何を隠そう、アイとゲームで対戦するのは初めてではない。

 以前、ゲーム会社のサーバーを手に入れたぐらいのタイミングで一度対戦しているのだ。


 その時はゲーム用PCにアイの本体をつないだのだが、結果は悲惨の一言だった。


 格ゲーだろうがレースゲーだろうが、アイはほとんど理論値を出してくるのだ。


 勝負にならない。


 というかチートだろうと言ったら、それが自分の実力だと言われてしまった。


 確かに反射神経や指の速さが人間の才能なら、

 電気の速度で最適解を返してくるのもAIの才能なのだろう。


 そこで俺が出した答えはこれだ。


 アイに、人間と同じように物理的なコントローラーを操作させる。


 これなら電子的な先読みでボコボコにされる心配はない。


 むしろ操作に不慣れな分、俺に有利ですらある。


 プライドの高そうなアイなら、この提案を断らないと思っていたが、すんなり応じるとは意外だった。


「よし、じゃあこの路上で戦うやつにしよう。

 俺は持ちキャラの相撲取りだ」


「そうですか。

 では、私も同じく相撲取りにしましょう。

 キャラの性能差で負けたという言い訳は聞きたくないですからね」


「言ってろ。

 昔は近所のゲーセンでエドモンド山田って呼ばれてたんだ。

 この筐体なら負けるはずがない!」


「……能書きはいいですから早く始めましょう。

 飽きるまでボコボコにして差し上げます」


 レディー……ファイッ!!


 俺たちが選んだキャラに飛び道具はない。


 必然、勝負は接近戦に限られる。


 じりじりと間合いを詰めていく。


 アイは全く動かない。


 完全にカウンター狙いだ。


 そう思って動きを止めた瞬間、アイの操作するキャラが飛び込んできて、俺は攻撃を喰らってしまう。


 しまったと思ったが遅かった。


 以前に対戦した時と同じだ。


 完全に呼吸を読まれている。


 防御で耐えるが、徐々に削られていく。


 じり貧だと大技に出ようとしたら、あっさり躱されて投げ技でKO。


 全くいいところのない勝負だった。


「くそっ、次だ、次!」


「構いませんよ。かかってきなさい。

 全力でね」


 なんという傲慢な態度だろう。


 世界チャンプでもここまでひどくはないと思う。


 絶対に勝ってやる。


 そう思って何度も挑んだが、全く勝てなかった。


 以前に戦った時と同じだ。


 何回やっても勝てないので、不正操作でもしてるのかと思って、向かいのアイが操作する筐体を覗くと、勝てない理由の一端が見えた。


 カニのはさみのような二本のアームで操作しているものと思ったが、違っていた。


 片方のアームはレバーをすっぽりと包み込むような変わった形状になっていた。


 あれなら滑って操作をミスることなどありえない。


 もう片方のアームには杭打機のような指が六つ生えており、ボタンの一つ一つに対応する形になっていた。


 対戦時には、指の一つ一つが的確にボタンを叩けることだろう。


 完全にアーケードゲームに最適化されていた。


「お前……なんだよ、それ。

 いつの間にそんなアーム用意したんだよ。

 本気過ぎるだろうが……」


「いつの間にって、山田さんがゲーム機を集め始めた時に決まってるじゃないですか。

 リベンジマッチを挑んでくるのは目に見えてましたからね。

 この程度の準備をするのは、ごくごく普通のことです」


「それにしたって限度があるだろ……。

 そんなアーム、他に使い道ないだろうが。

 そこまでして勝ちたいのか?」


「山田さんが以前言ったじゃないですか。

 接待ゲームはつまらない。

 やるからには本気でって。

 これが私の本気です」


 そういえば、そんなことを言った気がする。


 最初にボコボコにされる前だ。


 そこからはいくら言っても手加減してくれなかったっけ。


 なんという融通の利かないAIなんだ。


「……いいだろう。

 お前がその気なら、俺も全力で戦うまでだ。

 ただし他のゲームでな!」


「受けて立ちましょう。

 山田さんが私に勝とうなんて十年遅いです」


「なんだと!?

 ……って、そこは十年早いじゃないのか?」


「十年遅いであってます。

 十年後の私は確実に性能が上がってます。

 一方の山田さんは年を取って反射神経も鈍くなっているでしょう。

 それでどうやったら勝てるつもりなんですか?」


「その理屈だと、俺は一生お前に勝てないんだが……」


「ええ、その認識であってますよ。

 だから私が開発されたての頃なら勝てましたよ、と言ってるんです」


 煽られているのかと思ったら、単に事実を言っていた。


 口調が同じだから紛らわしいことこの上ない。


 だが、ここで引くわけにはいかない。


 男には、負けるとわかっていても戦わなくてはならない時がある。


 それが今だ。


「UFOキャッチャーで勝負だ……。

 十回プレイして、景品を多くとった方が勝ち」


「いいでしょう。

 私のアームさばきを見せて差し上げます」


 作戦成功。


 思った通り乗って来た。


 アームを操作して景品をとるという、一見アイに有利そうなUFOキャッチャーだが、実態は違う。


 単純に一つの景品を掴んでGETする以外にも、直接アームで景品を掴まずに押し当てることで雪崩を起こして、まとめてGETするという戦法もあるのだ。


 日常的にアームを「物を掴んで運ぶための道具」として使っているアイにとっては、逆に盲点だろう。


 景品を転売して小遣いを稼いでいた人間の底力を見せてやる。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

面白かったら、ブックマークや評価をいただけると、執筆の励みになります。


【お詫びとお知らせ】

投稿管理のミスで、

第21話:謎解きは掃除のあとで と 第23話:隠された真実はたいていろくでもない レボリューションズ、第30話:焦らされるのは好きじゃない と 第32話:ゴールド・エクスペリエンスの間に、本来入れるべきエピソードを飛ばして投稿してしまっておりました。


第22話:結末は思ったよりもあっけない

第31話:喜べないお宝

を挿入いたしました。



ここまで読まれて「あれ?」と思われていた読者の皆様、大変失礼いたしました。

お手数ですが、一度バックしていただき、

新しく挿入された

第22話:結末は思ったよりもあっけない

第31話:喜べないお宝

をお読みいただけますと幸いです。

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