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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第七章 終末夏休み編

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第35話:賭博放浪記ヤマダ

 結果から言うとコンテナガチャは大爆死だった。


 よく考えれば海外のコンテナオークションのノリで期待してしていた俺がアホだ。


 空輸するだけあって鮮度が重要となるものが多かったのだ。

 三年も経てばどんな新鮮な食材や素材も見る影もない。

 精密部品はアイにとってはお宝だろうが俺は心を惹かれない。


 そもそもの話、欲しいものがあるなら専門店に取りに行けば手に入るのだ。

 なければ工場に行くという手もある。


 工場は当然稼働していないだろうが、

 アイに頼み込んで復旧させれば大抵のものは作ってくれるはずだ。


 まあ、それも材料があればの話ではあるが、

 期待できないコンテナにがっかりし続けるよりはましだろう。


 そう考えるとコンテナにこだわる理由は、

 開封時のワクワクにしかないわけだが、

 それも空港の記録というネタバレにより消滅した。


 もはや残されたのは記録と照合するために開けるという作業だけだった。


「俺の希望はこれで終わりか……」


 最後に残ったコンテナを開ける。


 目録では精密機器となっていた。


 コンテナの中には段ボールがびっしり積まれている。

 段ボールの一つを開けてみると、中にはリンゴのマークが印刷された白い箱が詰まっていた。

 タブレットやスマホ、そして周辺機器だ。


「……昔なら大喜びするところなんだけどな」


 今となっては連絡を取り合う相手はいない。

 写真や動画を撮って世界に発信したところで誰もいいねしてくれない。

 使い道を探すほうが難しい代物だ。


 そんなわけで、俺は喜べなかった。


 今まで開けてきたコンテナの中では当たりの部類だとしても、使い道がなさすぎる。


 これなら古いゲーム機の方がいくらか心躍るというものだ。


 あれならネットがなくても楽しめる。


 筐体と電気さえあればやり放題だ。


「……空港のロビーをゲーセンにするってのはどうだ。

 田舎のゲーセンを探せば懐かしのゲームが残ってるんじゃないか?」


 電気は復旧待ちだ。

 今は使えない。


 しかし、アイの言葉通りなら明後日には復旧するだろう。


 なら、それまで他の準備をすればいい。


 やることは山ほどある。


 楽しむためには雰囲気も大事なので環境づくりが大切だ。


 空港のロビーに所狭しと並べられた筐体を想像するとわくわくした。


 筐体の設置場所を確保する必要があるな。

 ロビーの待合スペースの椅子を撤去しよう。


 重い座席を動かすのは重労働だがやむを得ない。

 俺は遊びに関しては妥協しない男なのだ。


 肝心のコンテンツはどうしようか。


 アーケードゲームは確定だが、あとはどうしよう。


 UFOキャッチャーなんか面白いかもしれない。

 景品は別にいらないけど、GETする楽しみがある。


 プリクラは……ついでに持ってくるか。

 インクやプリント用紙が劣化してそうだが、それは在庫を探せば何とかなるかもしれない。

 アイとツーショットをとるのも面白いかもな。

 せいぜい派手にデコってやろう。


 パチスロも外せないな、あれはいいものだ。

 自分で設定をいじれるなら一撃万枚オーバーも夢ではない。

 想像するだけで脳が覚醒しそうだ。


 他には――。


 ……記憶に残っているのはそれぐらいだ。


 社会人になってからは足が遠のいてしまったので、他に何があるのか見当もつかない。


「……せっかくだから、ゲーセンにあるゲームを丸ごともってくるか。

 まずはゲーセンを探すところからだな。

 近くにあるといいんだが」


 差し当っての課題は筐体の捜索だ。


 ものを見つけないことには始まらない。


 こうして俺の空港ロビーゲーセン化計画が始まった。


 ※※※※※


 残念ながら空港の周辺にはゲーセンはなかった。


 まあ、予想通りだ。


 来るときも思ったが、ここは繁華街からは程遠い山あいの空港だ。

 ゲーセンどころかコンビニもない。


 そもそも周囲に遊べる場所がないから、遊べる場所を作ろうとしていたのだということを思い出す。


 しかし、諦める気にはなれない。


 一度決めたからにはやり遂げなければならない。


 ゲーセンがないから作れません、じゃ終われない。


 俺は捜索範囲を広げることにした。


 といっても物理的な距離を伸ばしただけではない。


 捜索対象に旅館を加えたのだ。


 何故、旅館と思う人もいるかもしれないが、旅館には浴場付近になぜかゲームコーナーがあるのだ。

 あと卓球台。


 少なくとも社内旅行で連れていかれた旅館にはもれなくあった。

 社長に接待卓球をやらされたのは苦い思い出だ。


 ないところもあるだろう。

 だが、あるところの方が多いはずだ。


 空港付近にはゲーセンはなくとも宿泊施設は多い。


 数は少なくとも色んなところからかき集めれば、空港ロビーを埋め尽くすぐらいの量は集まるかもしれない。


「わざわざそんなものを集めなくても、家庭用ゲーム機でいいのでは」とアイは言っていた。


 ゲームで遊びたいだけなら苦労して筐体を探す必要はない。


 まあ、その通りだ。


 レトロなゲーム機ならアキバあたりで探してもらって空輸してもらえば半日もあれば届くだろう。


 なんなら、そちらの方が自分の好きなゲームを選ぶことも可能だ。


 だが、それではダメなのだ。


 そもそも俺はゲーム自体よりもそれを楽しむ空間を作り上げることに楽しさを見出している。


 それを手軽だからと家庭用ゲーム機で妥協するのは違う。


 市販の自由研究セットを使えば手軽に立派なものが作れるだろう。

 でも、それじゃ面白くない。


 俺は俺にしか作れない空間を作りたいのだ。


 八ヶ岳シェルターではできなかった挑戦を。


 もう一度、この空港で成し遂げたかった。


 ※※※※※


 二日後、電気が復旧した。


 筐体を探し回り、ロビーの椅子をどかし、掃除をしていたら二日はあっという間だった。


 蒸し風呂と化していた広々とした空間に冷気が漂う。


 これぞ空港のロビーといった快適さだ。


 一方でその様相は一変していた。


 整然と並べられていた長椅子は姿を消し、その代わりに懐かしの筐体が並んでいた。

 90年代に流行った格闘ゲームを中心に、麻雀やクイズといったお約束の筐体も並んでいる。

 平成初期にタイムスリップしたようなラインナップだ。

 ゲーセンじゃなくて旅館をはしごしたのは正解だったかもしれない。


 背もたれのない丸い座面の椅子もそろっている。

 ロビーにあった長椅子の方が座り心地はいいが、これも雰囲気作りだ。


 受付カウンター付近にはUFOキャッチャーが設置されている。

 中には見たことないアニメのフィギュアが入っている。

 取り出さずにそのまま運んだので、めちゃくちゃに積まれているが取りやすくてよさげだ。


 それとパチスロ機。

 これは壁面に並べた。

 あまり数がなくて十台しか集まらなかったが、賑やかしには十分だ。

 色とりどりの筐体パネルが見ているだけで楽しい。


 プリクラはなかったが許容範囲だ。

 写真ならスマホで十分だしな。

 あとでアイと記念写真でも撮ろう。


「さて、まずは何を試すかな。

 そうだまずはスロットを打つか。

 まずは最高設定にしないとな……」


 俺は筐体を開け、設定キーを差し込んで最高設定の6に変更する。

 5のほうが波が荒くて一撃の破壊力は上という説もあるが、

 俺は安定の6信者だ。


 バタンと筐体を閉め、椅子に座る。

 ディスプレイには荒野を歩き続ける一人の男が映っていた。


「懐かしいなあ。

 大学生時代に一番お世話になったんだよな。この台。

 規制が緩いころだったから万枚オーバーもざらだったし」


 感慨にふけりながら、メダル入れからメダルをひとつかみして投入する。

 電子音と共にメダルの保留数がカウントアップしていく。


 ベットボタンを押し、レバーを倒す。


 ロビーに懐かしいBGMが響き渡った。


 ジャラララ―ン……ヒュー……。


「何もなしか……まあ、これからよ。これから。

 なんたって6だからな。6。

 人生の目標が一つ叶ったな、これは」


 並んだ3つのボタンを真ん中、左、右と押してリールを止める。

 絵柄は揃わず、演出もしょぼい。

 それでも自分の手で設定した最高設定という事実だけで高揚していた。


 廻るリールと延々と歩き続ける子連れの男を眺めながら、同じ動作を繰り返す。


 ………。


 ………………。


 ………………………。


 打ち始めて一時間ぐらいは経っただろう、ようやく最初のチャンスが訪れた。


 よし、チェリーを引いた。

 ここから三十二回がチャンスだ。

 ここでもう一度チェリーを引ければ大当たり間違いなしだ。


 万感の思いを込めレバーを倒す。

 リールは廻り、スロットのディスプレイは騒がしくなってきた。


「……山田さん」


 アイが何か言っている気がするが、それどころではない。


 稲光が走る薄暗い荒野を時折振り返りながら歩く男。


 時折、馬の足跡を見つけたり、強そうな雑魚敵も登場するようになってきた。


 十二、十一、十……。


 チャンスゾーンの残りは無常に減っていく。


 当たりの確定演出はまだ来ない。


「これはもう当たるだろう……。

 いや、当てる!」


 ピキューン。


 バーン。


 俺の願いもむなしく画面は元の殺風景な荒野に戻ってしまった。

 画面内の男は相変わらず無表情に歩き続けている。

 俺とは正反対のクールさだ。


「くそっ、おかしいだろ。

 今の流れは絶対当たるはずだったのに。

 これ、本当に設定六か!?六なら当たる流れだろ!」


「山田さん!返事しないと電源落としますよ!」


「……なんだよ。今いいところなんだから邪魔しないでくれよ。

 何か用か?」


「……電気、使いすぎです。

 なんですかこのバカげた設定温度は。

 ロビーを冷蔵庫にする気ですか。


 それに使わないのに何十台もゲーム機を稼働させておくのは無駄です。

 使う時に付ければいいでしょう。

 復旧したとはいってもまだ一部なんですから考えて使ってください」


「えー、でもゲーセンってそういうもんだしな。

 やろうと思ったときにすぐできないのは嫌だし。


 せっかく復旧したんだからこれぐらい使わせてくれよ。

 それに、この広いロビーをキンキンに冷やすにはこれぐらいしないと……」


「……そんなに冷えたいなら冷凍睡眠装置を作って冷凍保存してあげましょうか。

 氷河期が来たら起こしてあげます」


 さすがに冗談だと思うが本気だったら怖すぎる。


 俺は渋々使っていない筐体の電源をオフにして、空調の設定温度を少し上げた。


 ものの数分でスロット台の発する熱が感じられる空気になった。


「これでいいだろ。

 続きを打たせてくれよ」


「これなら、まあいいでしょう。

 本格的にメガソーラーが復旧したら好きにしていいですから、それまではこれでお願いします」


「わかった、わかった。

 しばらくはこれで遊んでるから放っておいてくれ」


「……変りばえのしない映像を見ながら、同じ動作を繰り返して何が面白いのか。

 理解不能です」


 全国のスロットファンを敵に回すようなことを言い捨ててアイは作業に戻っていった。


 そんなことは言われるまでもなく理解しているが、理屈ではないのだ。


「さっきチェリー引いたばかりだからな。

 いい波が来てるはずだ。

 次は絶対当てる!」


 俺はメダルを投入し、レバーを引く。


 当たりは……


 まだ来ない。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

面白かったら、ブックマークや評価をいただけると、執筆の励みになります。


【お詫びとお知らせ】

投稿管理のミスで、

第21話:謎解きは掃除のあとで と 第23話:隠された真実はたいていろくでもない レボリューションズ、第30話:焦らされるのは好きじゃない と 第32話:ゴールド・エクスペリエンスの間に、本来入れるべきエピソードを飛ばして投稿してしまっておりました。


第22話:結末は思ったよりもあっけない

第31話:喜べないお宝

を挿入いたしました。



ここまで読まれて「あれ?」と思われていた読者の皆様、大変失礼いたしました。

お手数ですが、一度バックしていただき、

新しく挿入された

第22話:結末は思ったよりもあっけない

第31話:喜べないお宝

をお読みいただけますと幸いです。

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