第34話:電気がないと始まらない リターンズ
空港を改装するぞと意気込んだものの、俺は早々にロビーの長椅子でだらけていた。
「あー、あちーなー、おい……」
空調が止まった空港のロビーはサウナと大差ないレベルだった。
それでも日差しの強い外よりはましだ。
外はコンクリートの照り返しで、フライパンのような暑さになっている。
控えめに言って地獄だった。
滑走路上の飛行機のタイヤが溶け出さないのが不思議なぐらいだ。
車の中でエアコンを効かせて涼もうとしたら、アイに「燃料を無駄にするな」と怒られてしまった。
近くのメガソーラーを復旧するまで待てと言うので、比較的ましなロビーに避難しているというわけだ。
正直、暇つぶしにリフォームやDIYでもと思ったが、出鼻をくじかれてしまった形だ。
何をするにしても電気がないと始まらない。
移動先で困らないようにと作った海上の充電拠点は、横須賀でお留守番だ。
あれはあちらでアイが有効活用していることだろう。
やはり陸路ではなく海路を選べばよかったかと、いまさらながらに後悔し始めていた。
「山田さん。水を持ってきましたよ
水分を補給してください」
「おお、ありがとう。
……微妙にぬるいな。
冷えたのはないのか?」
「暑いからと言って冷たい飲み物を飲むと身体によくないです。
人肌に調整しておきました」
「……ありがとう。助かるよ。
できれば早くエアコンつけて欲しいんだけど、まだかかりそうか?」
「あと二日ほどですかね。
山田さんが手伝ってくれれば半日は短縮できますけど」
「う、いや、俺は空港のリフォーム計画を練らないといけないから、手伝うのは難しいな。
全然急がないからお前のペースで進めてくれ」
「承知しました。
暑さで回路が焼ききれそうですけど山田さんのためにも急ぎますね。
それでは」
アイはそう言い残して行ってしまった。
なんとか灼熱地獄での労働は避けられたが、復旧は少し遠のいてしまった。
とはいえ半日の短縮のために命を危険にさらす必要はない。
快適とはいいがたくとも、風の通るロビーの方がはるかに居心地がいい。
あと二日ここで耐えながら構想を練るとしよう。
遊ぶのはそれからだ。
※※※※※
夕方になるとようやく少しはましになったが依然として暑かった。
日中に熱せられたコンクリートは夜になっても冷めることなく熱を放っていた。
翌朝には冷えているかもしれないが、一日の大半は暑い。
そんなわけで、暑くてろくな考えが浮かばなかった。
ロビーを冷やせるだけ冷やして冷蔵庫みたいにする。
滑走路脇の土部分を掘ってプールにする。
でかい氷を積み上げて家を作る。
そんなろくでもないアイディアばかりだった。
というかどうにかして涼む方向にしか頭が働かないのだ。
「……は?寝言は寝ているときだけにしてください」
ダメもとでアイに言ったら鼻で笑われた。
AIに鼻なんてないんだけどな。
……。
建物の中にいても何も思いつかなくなったので、気晴らしに散歩することにした。
日が落ちて暗くなった空港はちょっと不気味だった。
本来なら周囲を照らしてくれていただろう滑走路のライトは消えたままだ。
久しぶりに懐中電灯を片手に歩く。
メガソーラーのある辺りではスウォームやにゃんタンクが忙しなく動き回っていた。
パネルを磨き、配線をいじっている。
あの自由自在に動く尻尾型のアームであれば下に潜り込む必要がないらしい。
金塊の運搬用だとばかり思っていたから意外だった。
昼間も工事の音は聞こえていたから、文字通りの二十四時間労働だ。
人類が消えた世界でもブラック労働は不滅らしい。
だがその恩恵に預かる身としては簡単に休んでくれとは言えない。
少々後ろめたいが本当にいまさらだった。
なんとなく気まずい気持ちになったので反対方向に歩くと倉庫のような場所があった。
銀色のコンテナがたくさん並んでいる。
コンテナオークションを思い出した。
中を見ようと扉に触れてみると熱くて手をはねのけてしまった。
夜でこれなら日中なら目玉焼きが焼けそうだ。
表面を洗って屋根でバーべーキューをするとかどうだろう?
普通に鉄板を使った方が清潔だし、手軽だ。
どうも、いい考えが浮かばない。
こういうアイディア出しには自信があったのだが完全にスランプだ。
思い返すと、俺の考える遊びはモノがあふれている状態が前提だった気がする。
たくさんある何かを贅沢に無駄にする的な発想だ。
だから、ここみたいに利用できるものが限られた場所では何もうかばなくなってしまう。
庶民だったはずが、いつの間にか発想だけ大富豪になってしまっていたらしい。
何とも皮肉な話だ。
大富豪のためにシェルターを作っていた俺が、そのシェルターで人類の消えた世界を生きている。
挙句の果てに発想まで大富豪に近づいているのだから滑稽だ。
「たくさんあるものか……ここにあるのは広い敷地と、この大量のコンテナぐらいだな」
これでどうしろというのか。
コンテナで積木でもすればいいのだろうか。
……だめだな、アイに怒鳴られるのが落ちだ。
しかも大して面白くもない。
今日は本当にダメダメだ。
「明日、アイに相談するか。
そんなに暇なら手伝えって言われそうだけど……」
まあいい、今日はもう寝よう。
こういう日もある。
※※※※※
「そんなに暇なら物資の整理を手伝ってください。
開けていないコンテナが山ほどありますから、確認してほしいです」
案の定、手伝いを頼まれた。
「それは……そうだな。
わかった。手伝うよ」
どうやって断ろうかと考えかけたが引き受けることにした。
中身の分からないコンテナを開けるのはガチャみたいで面白そうだ。
「本当ですか!?絶対理由をつけて断ると思ったのに。
今日は夕立が降るかもしれませんね。
作業工程を見直さないと」
「……それはひどくない?
せっかく手伝うって言ってるのに」
「失礼しました。
あまりにも予想外だったもので、つい。
ありがとうございます。山田さん。
AIのヒモで終わる人間ではなかったんですね。
少し見直しました」
「AIのヒモって……」
あながち間違っていないので否定しづらい。
というか衣食住どころか移動や娯楽の面でも世話になっている。
客観的に見れば紛れもないヒモだった。
俺は知らないうちに社畜からヒモにジョブチェンジしていたらしい。
喜ぶべきか悲しむべきかわからない。
複雑な気持ちを抱えたまま倉庫に向かった。
昼間に見るとその物量は圧巻だった。
「これ全部開けるのか……一日仕事だな」
「やめておきますか?
別に構いませんよ。
最初から山田さんには遊んでいてもらう想定でしたから」
どうやら最初から戦力外だったらしい。
「……やるよ。
そうまで言われて引き下がれるわけないだろ。
見てろよ。お宝を引き当ててやる」
「誰が開けても中身は変わりませんけどね。
でも、使えるものがあるかもしれませんから記録はしておきます」
「……お前、ほんとロマンがないよな」
「理解不能です」
お決まりとなったやり取りをしつつコンテナのレバーを引く。
重い手ごたえがあった。
航空貨物だけあって厳重だ。
ガコンと音がするまで引くとロックが外れた。
「さあ、いよいよお宝とご対面だ。
何が出るかな、何が出るかな――」
一つ目ということもあって高まった期待とは裏腹に中身は衣料品だった。
しかも女性もの。
手に取った包みを静かに戻した。
こういうこともあると気を取り直して次々にコンテナを開けていく。
駄目になった食料品。
劣化しているであろう医薬品。
どこかで見たような美術品。
……。
…………。
………………。
十個開けたところで崩れ落ちた。
「全然、面白いものがない……。
しかも駄目になってるものが多すぎる。
十連ガチャで全部外れとかありかよ」
俺が過酷な現実に打ちのめされていると、アイが冷酷に事実を突きつけてきた。
「空港の記録と一致しますね。
最新の状態でそのまま残ってるようです。
この分なら全部開けるまでもないですね。
必要なものだけ開けることにしましょう。
あ、山田さんは開けたければ全部開けてくれても構いませんよ」
どうやら空港のシステムから情報を得ていたらしい。
念のためデータと実際の中身を確認したってわけだ。
俺のワクワクを返せ。
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