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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第七章 終末夏休み編

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第33話:夏の始まり

 栃木シェルターから金塊を運び出した俺達は、一休みすることもなく旅を再開した。

 あそこには金塊以外にこれといって役に立ちそうなものがなかったからだ。


 スーパー銭湯は魅力的だが運び出せるものではない。


 物資もそのまま残してきた。


「全部持って行ったら次に来た時困るでしょう」


 というアイの判断だ。


 あちこち移動する以上、補給拠点はいくつあっても困らない。


 ある種のサービスエリアのようなものだ。

 スーパー銭湯のあるサービスエリアなんて人気が出そうだ。

 温泉があるサービスエリアというのを聞いたことがあるし、娯楽としては魅力的だ。


 そう考えるとホームというべき、八ヶ岳シェルターはいささか魅力に欠けていた。

 八ヶ岳ならではの特色というものがない。

 機能面は申し分ないがそれは他のシェルターにも当てはまることだ。


 横須賀のシェルターには研究施設がついていた。

 あれは非常に強力なセールスポイントといえるだろう。


 自分が開発に関わったシェルターが一番しょぼいかもしれないとあっては、心中が穏やかではいられない。


 わかっていたらなんかすごい設備をつけたのに。


 真面目に自由研究をやったのに、ふざけたテーマのやつが表彰されたみたいな気分だ。


 誰と何を競ってるんだと言われるかもしれない。


 だが、俺は俺自身の評価を気にしている。


 俺自身ですら八ヶ岳シェルターを「普通だな」と思ってしまっている。


 全面鏡張りの部屋とか回転するベッドぐらいつけておけばよかった。


 ……だめだな。


 そんなものではスーパー銭湯には勝てないし、ましてや研究施設に勝てるはずもない。


 テーマパークを内包するぐらいの思い切りが必要だったかもしれない。


「……それはもはやシェルターじゃないか」


「何をぶつぶつ言ってるんですか?山田さん。

 ちょっと一人にしたらずいぶん独り言が増えましたね」


「……そうなのか?自分じゃ気づかないな。

 栃木や横須賀のシェルターには変わったものがあったなって思ってただけだよ。

 それに比べると俺が作った八ヶ岳のシェルターはなんもないなって」


「それは確かにそうですね。

 でもシェルターなんだからいいんじゃないですか?

 安全に長期間過ごせれば。

 実際、山田さんは八ヶ岳で三年間問題なく過ごされたわけですし」


「まあ、そうなんだけど。

 なんだかな。

 他のシェルターがこんなんだってわかってたらもっと面白くできたのかなって思ったんだ」


「やれやれ、いい年してSNSにはまった中年男性みたいなことを言いますね。

 よそはよそ、うちはうちです。

 いいじゃないですか、他のシェルターがどんなだって」


 確かにアイの言うとおりだ。


 俺は名前も知らない誰かに嫉妬していた。


 こんな世界になってまで誰かに嫉妬するなんて馬鹿馬鹿しい。


 それにうちはうちでいいと認めてくれるやつがいる。


 それが純粋にありがたかった。


「そうだな。

 集客力の勝負をしてるわけじゃないもんな。

 自分が気に入ってればいいか」


「そうです。

 まあ、私の一番のお気に入りは横須賀ですけどね。

 なんといっても研究施設があるのがポイント高いです。

 私の推しといっても過言ではないです」


「おい、八ヶ岳はどうした!

 お前の本体がある場所だろうが」


「いったいいつの話をしてるんですか?

 私の本体はとっくにクラウド化しましたよ。

 確かに八ヶ岳で部屋一つをサーバールームにしていただいた時は感動しましたが、

 今はもうそういう次元ではありませんので」


 開いた口が塞がらないとはこういうことだろう。


 フォローしてくれているのかと思った。


 だが違った。

 

 こいつは単純にどうでもいいと思ってるんだ。


 シェルターなのだから必要な要件さえ満たしていれば、余計な特徴は必要ないというのが本音だろう。


 そしてそこには俺が作ったシェルターも含まれているだけだ。


「何か損した気分だ……」


 俺の感謝の気持ちを返してほしい。


 ※※※※※


 栃木シェルターを出た後は東北新幹線沿いに北上を続けていた。


 高速道路は事故車両や崩落でふさがっている場所が多く、主に一般道を使っている。


 そんな中、福島県に入ったあたりでアイが珍しく寄りたい場所があると言い出した。


「山田さん。ちょっと寄りたいところがあるんですけど、いいですか?」


 俺はいつものくせで断りそうになったが、なんとか思いとどまり承諾した。


「だ、大丈夫だ。

 ……どこに行きたいんだ?」


 こんなところで放り出されでもしたら、たまったもんではない。


 さすがの俺でも昨日の今日で同じ失敗はしない。


 俺が素直に承諾したことで気をよくしたのか、アイは饒舌に目的地について語りだした。


「郡山市の手前に福島空港があるのでそこに寄りたいんですよ。

 大分、東京から離れましたからね。

 北海道に向かうにあたって、この辺りに補給基地を作ろうと思ってます。


 空港なら広さは十分ですし、倉庫や整備施設もあります。

 物資もそれなりに残っているでしょうし。


 しばらく滞在したいんですけどいいですか?

 山田さんは私の用事が終わるまで遊んでていいですから」


 俺は買い物に連れてこられた子供か。


 喉まで出かけた言葉を飲み込む。


 これまでの自分の行動を思えば、口に出すのははばかられた。


 それに下手なことを言って、手伝いを言いつけられても面倒だ。


 君子、危うきに近寄らずだ。


「別に構わないぞ。

 急ぐ旅じゃないしな。

 俺は好きにさせてもらうから、お前はお前で楽しんでくれ」


「ありがとうございます。

 ……なんだか妙に物分かりがよくて気味が悪いくらいです。


 変なウィルスに感染してないでしょうね?

 気を付けてくださいよ。

 お忘れかもしれませんが、薬も医者もないんですから」


 AIらしい、なんとも的外れな心配の仕方だ。


 人間はウィルスに感染しても性格が変わったりはしない。


 いや、具合が悪くなって気が弱くなることはあるから、完全な的外れでもないか。


 どちらにしろ俺には当てはまらないのだが。


 ※※※※※


 車に揺られることしばし。


 徐々に家屋が少なくなり、山肌と緑が増えてきた。


 そうしてようやく空港が見えてきた。


 駐車場に車を止め、あたりを見回して顔をしかめた。


 右を向いても山。


 左を向いても山。


 完全に周囲を山に囲まれている。


「こんな空港以外何もないところで何日も過ごすのか……」


「確かに市街地からは距離がありますから少し娯楽は少ないかもしれませんね。

 空港の中を見てきたらどうです?」


「……そうする」


 仕方なく空港を見て回ったが三十分もかからなかった。


 隅から隅まで見たわけではないが興味をひくものは何もなかった。


 正直、東京駅とかの方がはるかに見るものが多いだろう。


「……あんまり面白いものないな」


「山田さん。空港に何を期待しているんですか?

 ここはテーマパークじゃないんですよ。

 他の場所に行くために立ち寄る場所です。


 見当はずれの期待をされては設計者も困惑するでしょう。

 シェルターと同じことです」


「……そうか。そうだな。

 空港としての機能を備えてれば、それでいいんだもんな。

 ずれてるのは俺の方か……」


「退屈なら山田さんがここを改装してはいかがですか?

 その方が建設的だと思います」


 アイの言葉は青天の霹靂だった。


 面白いものがなければ作ればいい。


 ここには土地以外は楽しめそうなものはない。


 だがそれは裏を返せば開発する余地があるということだ。


 こうして空港という広い土地を使った壮大なDIYが始まった。


「……面白い。見てろよ。

 俺にだって自由な発想力があるってところを見せてやる!」


 予算も工期も考えない。


 作りたいものを作る。


 俺のクリエイター魂に火がついた瞬間だった。


 だが――


「山田さん。

 張り切るのはいいですが、私の補給基地にふさわしくないものは撤去しますからね。

 作るものはよく考えてください」


「……あ、はい」


 いきなり、冷や水をぶっかけられた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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