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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第六章 北海道(旅路再始動)編

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第32話:ゴールド・エクスペリエンス

 運び始めてあらためて思ったが、金塊は重い。


 見た目から想像するよりも重いので、余計に疲れる。


 意味がわからないかもしれないが、そうとしか言いようがない。


 見た目はレンガみたいなものなのに、持つと十五キロある。


 大きさ的には十本は載せられる台車に数本ずつ載せて運んでいる。

 そうしないと動かせないからだ。


 何も考えずに積めるだけ積もうとしたら、途中で車輪の根元が曲がってしまった。


 台車の方が先に限界を迎えたらしい。


 おかげで無駄に運びにくくなった。


 キイキイとうるさい音を立てる台車を押してエレベーターに乗り地上に運ぶ。


 倉庫にあったブルーシートを敷いて、その上に並べていく。


 少しずつシートの青が金にかわっていく。


 なんか豪華なフリマみたいだ。


 さんざん見ているのについ見てしまう。


 これが黄金の魔力というやつだろうか。


 アイがいたら『一々手を止めていたらいつまでたっても終わりませんよ』と言われるところだ。


 もう一時間は休みなく運んでいるがまだ半分以上残っている。


 こんなに頑張ってるんだから、早く戻ってきてほしい。


 ……。


 こういう考えがだめなんだろうか。


 運び終えても戻ってきてくれないかもしれない。


 そう考えると手が止まる。


 金塊を運んで反省していることを示せば、アイが戻ってくるような気がしていた。


 だが、そもそも見てくれているのだろうか?


 見てくれていないのであれば運ぶ意味はあるのか?


 不安と疲れでネガティブ思考が止まらなかった。


「……少し休憩するか」


 シェルターに戻りコーヒーを淹れる。


 自分で淹れたコーヒーはいつもの豆なのにひどく苦かった。


 ※※※※※


 運び終えたら夕方になっていた。


 途中から数えるのをやめたのでわからないが、

 二十往復ぐらいはしたんじゃないだろうか。


 広げて並べればベッドにできそうな量だった。


 普段なら金塊の上に寝転んでみたり、並べ替えて遊んだかもしれないが、

 そんな気力は残っていなかった。


 最後の一つを積み上げた時には達成感もあったがすぐに消えた。


 作業が終わってもアイは戻ってこなかった。


 相変わらず呼びかけには答えないし、連絡もない。


 最初は俺がこんなに頑張ったのにいつまで怒ってるんだと腹が立った。


 だが怒りは長続きはしなかった。


「戻ってきてくれよ……」


 思わず弱音が漏れた。


 正直、一日肉体労働した疲労よりも、孤独の方がこたえていた。


 俺以外誰もいなくなったこの世界。


 俺がどこで何をしていようと誰も見ていない。


 圧倒的に自由だ。


 いろんなところで好き放題やって来た。


 今までは楽しめていた。


 だが今は遊ぶ気にもなれなかった。


 あれほど目を奪われたお宝も、今はただの重い金属にしか見えなくなっていた。


 むしろ、アイに対する謝罪のパフォーマンスの象徴だろうか。


 ただ運んで積み上げただけだが、それでも一つの成果だった。


「戻ってこないか……」


 アイが戻ってこないかと、洞窟の入り口をしばらく眺めていた。


 変わらない静寂だけがあった。


 ※※※※※


 翌朝になってもアイは戻ってこなかった。


「本気で戻ってこないつもりかな。

 あいつ……」


 このままアイが戻ってこなかったらどうしよう。


 というか俺はどうしたらいいんだ。


 一人で旅をつづけるなんて出来るはずもない。


 それどころか栃木から移動することさえままならない。


 シェルターの備蓄があるので当面は大丈夫だとしてもその先は?


 考えないようにしていたが、孤独死という最悪の未来が頭をよぎる。


 八ヶ岳や東京はまだしもこの辺りの土地勘もない。


 ここまでの道中はほぼ寝ていたのでどういうルートを通ったかも覚えていない。


 そもそも横須賀や八ヶ岳に戻れたとして、アイが入れてくれるだろうか?


 ここの電源を落とされていないのはせめてもの情けかもしれない。


「金塊を運んだぐらいじゃ許してもらえないってことか……」


 ならば、もっとわかりやすく謝罪の気持ちをぶつけるしかない。


 金塊を並べて文字を作った。


 アイなら偵察ドローンで上空を観察しているはずだ。


『ごめんなさい』と書こうとしたが、上空から見える大きさにするには数が足りなかった。


 そこで見やすさを考慮した結果、『SORRY』にした。


 英語の方が形状もシンプルで並べやすいし、上空から見た時に一発でわかるだろう。


 これを見ればアイも少しは歩み寄る気になってくれる……はずだ。


 祈るような気持ちで金塊を並べ終えた俺は、

 日差しに熱せられたビニールシートの心地よさに眠気を誘われた。

 ほんのり温かくなった金塊が気持ちいい。


「……だめだ、ここで寝たら文字が崩れる」


 立ち上がろうとしたが眠気にはかなわなかった。

 固い金塊を枕に目を閉じる。


「……起きたら直せばいいか。

 どうせすぐには気づかないだろう」


 気づいて欲しいと思いながらも半分は諦めていた。


 大切なものはいつだって失くしてから気が付くんだ。


 ※※※※※


「山田さん。こんなところで寝てたら風邪をひきますよ」


「アイ!戻って来たのか!」


「はい。どうしたんですか?

 そんなに慌てて」


「お前こそ……なんでそんなに……その……普通なんだよ?

 もっとこう……あるんじゃないのか。

 私が悪かった、とか。

 許してあげます、とか」


「理解不能です。

 なぜ私が許しを請うたり与えたりしなければならないんですか?

 ……もしかして私がいない間に金塊をひっぱりだして遊んでいたことを怒られると思ったんですか?

 それにしても少し不在にしたぐらいで謝罪を要求するとはずいぶん偉くなったものですね。

 私にも自由意志というものがあるんですよ」


「いや別に謝ってほしいわけじゃなくて……」


「そうなんですか?私にはそう聞こえましたが」


「それは、その、言葉の綾というか……」


「……うじうじとはっきりしませんね。

 もっと簡潔にお願いします」


「お前の頼みを有耶無耶にしようとして悪かった!

 反省してる!

 これからは気を付ける!

 わかったか?!」


「承知しました。

 随分と変わった謝罪でしたが意図は伝わったから良しとしましょう」


 なんとも底意地の悪いAIだ。


 だがこんな短いやり取りにもなんともいえない充足感があった。


 機械相手に何を言ってると思うかもしれないが知ったことか。


 俺にとっては唯一の話し相手なんだ。


「そんなことより今までどこに行ってたんだよ。

 それに、なんだそのでかいトラック?は」


「おお、そうでした。

 山田さんが変なことを言いだすから紹介が遅れました。

 さあ降りてきなさい!にゃんタンク」


「にゃんタンク!?」


『『『ご指名ありがとうございますニャーン』』』


 アイの掛け声とともにトラックの荷台が開きスロープが展開した。

 そして、どこかで聞いたような機械音声と共にロボットが降りてくる。

 それは横須賀で見たファミレスの配膳ロボットによく似ていた。


 だが、見た目は別物になっていた。

 まず足回りが左右についた三角形のキャタピラに変わっている。

 そして背面に先端が洗濯ばさみ状になったごついアームが尻尾のようについている。


 どうやら金塊を運ぶためだけに新しいロボットを用意してきたらしい。


「お前、これ、用意したのか……」


 驚きすぎてそれだけ口にするのが精いっぱいだった。


「ええ。山田さんが当てにならないとわかれば代替案を用意するのは当然でしょう。

 急ごしらえですが実用に耐える逸品ですよ」


 にゃんタンクたちはブルーシートに広げられた金塊を尻尾のアームでつまみ上げ、

 バケツリレーのようにトラックに積んでいく。

 規則正しく動くさまはまるで一つの生き物のようだ。


 見惚れているとほんの十数分ですべての金塊を積み終えた。


 アイが自慢するだけはある。


 引っ越し業者として食っていけそうな手際だった。


「どうです?大したものでしょう」


「……そうだな。大したもんだ」


 一瞬、嫌味を言いそうになったが素直に褒めることにした。


 無駄にひねくれたっていいことはない。


 こういう時ぐらいは、相手が望んでいる反応を返してやるべきなんだ。


「山田さんも大したものですよ。

 あれだけの量の金塊を一人で運ぶのは大変だったでしょう。

 ご苦労様でした」


「おま、それは……」


 うかつにもウルッときてしまった。


 久しぶりの完全な孤独。


 数日ぶりの気の置けないやり取り。


 そして純粋な称賛と労い。


 情緒がぐちゃぐちゃだ。


「もしかして泣いてるんですか?山田さん」


「……泣いてない。ほこりが目に入っただけだ」


「……べた過ぎです。昭和じゃないんですから」


「うるさい!俺はもう寝る!お前のせいで寝不足なんだ!」


「……まったく、少しは素直になったと思えば。

 まあ、その方が山田さんらしいです」


 アイを待たずにさっさと地下に降り、ベッドに向かう。


 照れ隠しのつもりだったが、ベッドに倒れ込むと数秒で意識が遠くなった。

 どうやら張り詰めていた神経が一気に緩んだらしい。


 知らぬ間に俺にとってアイの存在が大きくなっていたようだ。


 失くす前に気付けてよかった。


 これからはもう少し素直に向き合うとしよう。


 少しだけ。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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