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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第六章 北海道(旅路再始動)編

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第31話:喜べないお宝

「な、なんじゃこりゃああああっ!」


 倉庫にお宝があると言ってついて行った俺が見つけたのは金のインゴットだった。


 頑丈そうな棚に金の延べ棒がぎっしり積まれている。


 壁一面が黄金に輝いていた。


 まるで金塊のバーゲンセールだ。


 アイが隠していたのは文字通りのお宝だった。


「記録によるとこれは徳川埋蔵金らしいです。

 加工されてますけど」


「え、小判を溶かして延べ棒にしたってこと?」


「そうみたいですね」


「なんて勿体ないことを。

 歴史的な遺産だってのに台無しじゃないか」


「歴史的価値が強すぎたんでしょうね。

 そのままだと使えないから、加工して隠していたようです」


「……一生懸命探してた人がうかばれないな。

 まさかこんなところにあったとは。

 そりゃあ、いくら掘っても出てこないはずだ」


 せっかくのお宝を歴史の重みも風格もない金塊に変えてしまうなんて

 なんともロマンのない話だ。


 ……いや、大量の金塊もロマンがあると言えばあるんだけど。

 難しいな。ロマン。


「でも、私としては大量のレアメタルが手に入って大助かりです。

 これだけあれば、ちまちま電子部品をリサイクルする必要がありませんからね」


「これだけのお宝を電子部品にするとか、お前は鬼か……」


「失礼な!私はAIです。

 それにこのまま飾っていても意味がないでしょう。

 せっかくのお宝なんですからしっかり活用しないと」


 なんという合理性だ。

 普通の人間なら換金するとしてもいくらかはそのままの形で残しておくだろう。

 それが人情というものだ。


 それなのに、アイにはこのお宝が電子部品の素材にしか見えていないらしい。


 温泉で俺を気遣ってみせたり、人間味が出てきたかと思えばこれだ。


 どうやらAIに人間性を求めるのはまだ早かったみたいだ。


「お前にはロマンがない……」


「理解不能です。

 これだけあればもう金を探して回る必要がないんですよ?

 少なくとも私が今後必要とする量は十分に賄える量です。

 それを放置するような感性は私にはありません」


 なんだろう。


 人間で言うなら「これで一生遊んで暮らせるってのに飾っとけとか、アホか!」みたいなことだろうか。


 理解できるようで理解できない。


 思っている以上に種族差の壁は大きいのかもしれない。


 ※※※※※


「で、どうするんだ?この金塊。

 運び出すのか?」


「もちろん運び出します。

 いずれ使う時になってから運び出そうと思ってもなかなか難しいですからね。

 山田さんがここに居るうちに運んでしまわないと」


 なるほど。


 確かに使う時になってからとりに来るのは効率が悪い。


 地下に置いておくより、地上の倉庫に移した方が扱いやすいだろう。


 だがアイの言葉で一つ引っかかる部分があった。


「なあ、なんで俺がここに居るうちに運ばないといけないんだ?

 後でスウォームでも何でも使って運べばいいじゃないか」


「……山田さん。

 実はこの金塊、すごく重いんです。

 一つ十五キロ近くあります。

 それに隙間なく積まれているので、取り出すのが非常に困難です。


 これがレンガならなんてことはないんですが、金は密度が異常に高いですからね。

 小さいのに重量が集中するので、スウォームのアームでも下手をすれば折れてしまいます」


「へ、へえ。

 そうなのか。

 それは大変だな。

 頑張って改良しないと運び出せないじゃないか……」


 なんだか嫌な流れだ。

 クライアントが無茶振りをしてくるときの空気にそっくりだ。

 早くこの話題を切り上げないとまずい。


「ええ、大変なんです。

 なので山田さん。

 あなたに頑張っていただきたいなと思ってまして……」


「いやあ、どうだろう。

 俺は力仕事には向いていないというか、何というか。

 十キロの米袋ぐらいなら運べるんだけど、一つで十五キロだろ?

 無理じゃないかな……」


「無論、山田さん一人に地上まで運ばせようなんて考えていません。

 私も可能な限りサポートさせていただきます」


 まずい。


 アイが役割分担の話をしだした。

 これはもう俺が運ぶ前提だ。


 なんとか断らないと。


「別にそんなに急がなくてもいいんじゃないか?

 また今度日を改めて検討しよう。

 いったんサウナに入って頭をすっきりさせてから考えれば名案が浮かぶかもしれないし、な?」


「……もしかして、嫌なんですか?山田さん」


「いや、そういうわけじゃないんだけど。

 風呂に入ったばかりだし。

 今日はもう汗をかきたくないなって。

 運び出したい気持ちはあるんだけど、身体がついてこないというか……」


「語るに落ちるとはこのことですね。

 サウナに入るんじゃなかったんですか?

 汗をかきたくないとか矛盾もいいところです」


「うっ、それは言い間違えたというか……」


「……もういいです。

 山田さんに頼った私がばかでした。

 一人でサウナでも何でも入ったらいいじゃないですか……」


「あ、アイ!」


 アイはそういうと倉庫から出て行ってしまった。


「……失敗した」


 散々世話になっているのだから、面倒でも手を貸すべきだった。


 頭ではわかっている。


 でも目の前の現実を見ると足が震えた。


 壁一面の金塊。


 普通なら心躍る光景だろう。


 だが、これを全部外に運び出すことを想像すれば心境は一変する。


 ……運びたくねえ。


 試しに手近なインゴットを一つ手に取ろうとして落としそうになった。


 重い。


 両手であれば持てないほどではないが片手では無理だ。


 スウォームのアームが折れると言ってたが、俺の手首も持っていかれそうだった。


 運び込んだやつはどんなマッチョだったんだろう。


 ボディビルダーみたいな集団が金塊を並べている様子を想像すると笑えた。


 しばらく待ったがアイは戻ってこなかった。


 どうせ拗ねてどこかに隠れているのだろう。


 嫌がらせで空調を止められてはたまらない。


 そう思ってシェルターの中を探して回ったが見つからない。


 地上に戻ったのかと思って見に行ったら車も消えていた。


「……もしかして、俺、見捨てられた?」


 ※※※※※


 翌日もアイは戻ってこなかった。


 シェルターには水や食料の備蓄があるし電気も使えるので生活は困らない。


 だが久々の完全な孤独は精神にくるものがあった。


「なあ、アイ。俺が悪かったよ。

 機嫌直してくれよ。

 聞こえてるんだろ?」


 シェルターの管理システムは横須賀の研究所とつながっている。

 ならば俺の音声も届いているはずだと思って語りかけてみたが反応はない。


 完全に無視されている。


「そんなに、怒らなくてもいいじゃないか。

 俺が面倒がるのはいつものことだろ?

 少し休憩したら手伝おうと思ってたんだって」


 どれだけ言葉を重ねても全く応答がない。


 だんだんむなしくなってきた。


 俺はそんなに悪いことをしただろうか?


 誰だって俺と同じ立場になれば断りたくなるはず……だ。


 もしかして違うのか?


 普通はすぱっと引き受けるものなのか?


 わからない。


 でも想像はできる。


 俺が渋々でも引き受けていたらアイは喜んだだろう。


『ありがとうございます。山田さん。

 これで半導体の製造に着手できます』


 ぐらいはいいそうだ。


 それがどうしてこうなる。


 重い金塊を運ぶのは大変だし、腰にくるし、面倒なのでやりたくない。


 それは紛れもない本心だ。


 だがその本心に従った結果が今だ。


 一人ぼっちで機械に向かって独り言を繰り返している。


 実にみじめだ。


 人に誇れるようなたいそうな信念ではない。


 ただ怠惰なだけだ。


 情けなくて泣けてくる。


「……運ぶか」


 俺はようやく重い腰を上げた。


 言葉が届かないなら、行動で示すしかない。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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