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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第六章 北海道(旅路再始動)編

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第30話:焦らされるのは好きじゃない

 スカイツリーを出発して一時間。


 俺は変わりばえのしない景色に飽きていた。


 窓から見えるのは、マンションやオフィスビル、商業施設に高架道路。

 それが延々と続く。


 同じような建物が延々と現れるので、ループしているんじゃないかという気になってくる。


 都内はチェーン店が多いせいだろう。


 似たような立地に出店するものだから、違う場所なのに同じ場所のように感じてしまう。


 生活するなら便利だろうけど、風景としては退屈で仕方ない。


 自分が運転していたら居眠りしていたかもしれない。


 アイは運転中だからとほとんど喋らないし、音楽もノイズだと言ってかけてくれない。


 そんなわけで、後部座席で横になっている俺は暇で仕方ない。


 窓の外を眺める以外にやることがないのだから。


 そんなふうに退屈なドライブではあるが、この軍用車両自体はすごい。


 坂道も悪路も関係なくすいすい走る。


 暇つぶしに運転席を眺めてみれば、見たこともない計器がずらりと並んでいた。


 まあ、俺は運転しないので関係ないのだが。


 それにしても軍の技術というのはすごいものだ。


 民間の数世代先の技術が使われているという都市伝説は本当だったのかもしれない。


 もしこんな自動運転の車が普及しだしたら、タクシー業界はたまったもんじゃないだろう。


 あるいはそのせいで売り出せなかったのかもしれない。


「山田さん、私の運転技術を信用していただけるのは嬉しいですが、シートベルトはつけてください。

 私だって絶対ではありません」


「でも今時速四十キロぐらいだろ。

 なら大丈夫じゃないか?

 他の車が突っ込んでくることも、歩行者が飛び出てくることもないんだ。

 おまけに空からスウォームで監視してるなら事故なんて起こらないだろう」


「……それでも、です。

 備えはしてますが、いつ何が起こるかはわからないんですから。

 何かにぶつかることはなくても、急ブレーキをかけた時に頭をぶつけるかもしれません。

 ケガをしてから後悔しても遅いんですよ」


 スカイツリーからパラシュートダイブさせようとしたやつとは思えない過保護っぷりだ。

 こいつの安全基準は本当にどうなっているのだろう。

 あれはこいつなりのジョークで本気で飛ばすつもりじゃなかったとかか?

 うーむ、どちらもありそうだ。


「じゃあ、シートベルトをするからせめて音楽ぐらいかけてくれよ。

 寝るぐらいしかすることないんだ」


「駄目です。

 誤操作の原因になります。

 おとなしく座っててください」


 とりつくしまがない。

 こういうところはAIっぽいんだよな。

 融通が利かない。


「……あと何時間かかるんだよ」


「とりあえず栃木まで行きますのであと二時間ぐらいでしょうか。

 都内を出て車が減って来ればもう少しスピードをあげられるのですが」


 以前なら一時間もあれば行けたと思うのだが、倍以上か。

 揺れには慣れてきたが退屈さには慣れることができない。

 このままでは退屈に殺されてしまう。


「……いっそコンテナで空輸してくれ」


「羽田空港の基地化が進めばそれも可能かもしれませんが、今は無理です。

 諦めてください」


 冗談だったのに、いつかできるようになるのかよ。


 もうこいつが交通インフラ整えるまで、どこかで遊んでいた方がいいような気がしてきた。


 とはいえ、暇つぶしのための旅をするための準備を待つための暇つぶし、

 という、わけの分からないことになりそうなので却下だ。


 大人しく素数でも数えることにしよう。


 1……3……5……7……9……?


 間違えた。

 これは奇数か。


 ※※※※※


「起きてください。山田さん。

 着きましたよ」


 結局、素数は諦めて瞑想をしていたらあっという間に着いてしまった。


 変な態勢で瞑想していたせいで首が痛い。


「ん、ああ、どこだここ?」


「採石場跡地です。

 栃木では観光地にもなってる場所です。

 そして、横須賀の研究施設の映像に映っていたシェルターがある場所でもあります」


「ふーん、採石場ならシェルターがあってもおかしくない……のか?

 地盤は安定してそうだけど」


「それはどうでしょう。

 おかしいかどうかはともかく実際ここにあるわけですし。

 都合がよかったんじゃないですか。いろいろと。」


「そうかもな。

 秘密にするには何かと都合がよさそうだ」


 立ち入り禁止を意味するロープをくぐり、洞窟のようになった通路を進む。


 最奥にはどこかで見たような金属扉があった。


「……八ヶ岳や横須賀と同じデザインだ。

 ここで間違いなさそうだな」


「失礼ですね。

 私がナビしてるんですよ。

 間違うはずがありません」


 扉の横のボタンを押すとエレベーターの扉が開いた。


 開いた時に砂がパラパラと落ち、埃が舞う。


 どうやらここも長らく使われていなかったようだ。


 他のシェルター同様、今も稼働している。


 予想はしていたが不気味だった。


「早く行きましょう。山田さん」


「……なあ、また閉じ込められるんじゃないか?」


  「同じタイプのエレベーターですからね。

 可能性は高いです」


「 ちょっと降りて見てきてくれよ」


「承知いたしました。

 閉じ込められたらこの端末は放棄してバックアップを送ります。

 十分待って戻らなければ車に戻ってください」


「わかった。悪いけど頼むよ」


「お任せください。

 それは行ってきます」


 アイが地下へ降りるボタンを押すとエレベーターの扉が閉まり静かに動き出した。


 少しビビりすぎな気もするが、間違っているとは思わない。


 事故なのか、それとも罠なのかはわからないが、三度も引っかかるほど俺は馬鹿じゃない。


 今回は安全なところで待たせてもらうとしよう。


 ※※※※※


 五分が過ぎた。


 言って戻ってくるだけにしては遅い。


 中を確認しているんだろうか。


 そんなの後でいいのにと思う。


 少し焦れてきたところでエレベーターが戻って来た。


 ポーン


 聞きなれた軽妙な音と共にアイが降りてくる。


「お待たせしました。

 ざっと見てきましたが、特に異常はありませんでした。

 やはり八ヶ岳や横須賀と同じ内装でした。

 ここの管理システムにもエレベーターの利用記録は残ってませんでした。

 我々が最初の訪問者ということになります」


「そうか。

 まあ、横須賀の研究所で見た映像がここなら当然だな。

 それにしても、ここも使われた形跡なしか。

 マジで俺以外消えちまったのかな……。


 あ、それはそうとして戻ってこれてよかったな。

 なかなか戻ってこないから少し心配してたんだぞ」


「やれやれ、最初に十分過ぎたらと言っておいたでしょうに。

 五分少々で切り上げてきたんですよ。

 面白いものを見つけたというのに」


「ふん、心配して悪かったな。

 で、面白いものってなんだよ。」


「ふふふ、それは見てのお楽しみです。

 きっと気に入ると思いますよ。

 特に今の山田さんなら」


「くそっ、もったいぶりやがって。

 よし、じゃあ、さっさと行くぞ」


 安全が確認されたなら躊躇する必要はない。


 それよりもアイが勿体つける面白いものが気になった。


 シェルターはどこも同じだと思っていたが横須賀みたいに隠し施設でも見つけたのだろうか?


 それにしてはテンションが低めなのが腑に落ちない。


 まあ、行けばいいか、行けばわかるさ。


 ※※※※※


 エレベーターで地下に降り、アイに案内されるまま施設の奥へ進む。


 そして、なぜか風呂に入るよう言われた俺が見たのは、地下とは思えない光景だった。


 まるで石造りの神殿のような大浴場が広がっていた。


 どうやって維持されていたのか、カビ一つない、つるつるのピカピカだった。


 地下という環境を最大限に生かした装飾といえるだろう。


 明るすぎない間接照明がミステリアスな雰囲気を演出している。


 泳げるほどの広さの湯船に身体をつけると、車移動でがちがちになった身体がほぐれていくようだった。


「どうですか?山田さん。

 気に入りましたか?」


「ああ、気に入った。

 凄いなここの風呂は」


「それはよかった。

 サウナや冷水風呂もありますからぜひ楽しんでください」


「そいつはすごいな。

 まるでスーパー銭湯みたいだ。

 また怪しい研究施設でもあるのかと思ってたが……。

 まあ、お前にとってはがっかりだったな」


 風呂に入る必要がないアイにとっては有難みのない施設だろう。

 少し申し訳ない気もした。


「いえいえ、そんなことはありませんよ。

 山田さんが楽しそうにしているのを見られて私もうれしいです」


 どうしてだろう。


 本来なら感動するはずなのにどことなくうさん臭く感じるのは。


 なんというかあまりにも健気すぎる。


 こいつはそんな殊勝な奴ではない。


 散々世話になっておいて言うのもなんだが自分の利益もしっかり主張する奴だ。


 そんなアイが、ただ俺が喜ぶ姿を見て満足する?


 あり得ない。


 絶対に裏があるに違いない。


 俺には知らせていない何かが。


「なあ、何か俺に隠してない?」


「……どうしたんです?急に。

 そんなことより電気風呂はいかがですか。

 肩こりに効くらしいですよ。

 私にはわかりませんが」


 ……あからさま過ぎるごまかしだ。

 こいつは何か隠している。


「……俺には言えないようなことなのか?

 水臭いじゃないか。

 俺達はここまで一緒にやってきた相棒だろ。

 話してくれよ!」


 少しわざとらしいが、これぐらいしないとアイには響かない。


「……山田さん。

 そんな風に思ってくれてたなんて……。

 すみませんでした。隠し事なんてして」


 作戦成功だ。

 相変わらずちょろい。

 普段は雑に対応してるから、たまにこういう風にせまると、こいつは割とあっさり騙されるのだ。


「いいんだ。

 誰にも一つや二つ内緒にしたいことはあるもんだ。

 でももしよかったら教えてくれないか。

 お前の力になりたいんだ」


「……まさか、山田さんがそんな風に言ってくださるなんて思いませんでした。

 きっと面倒だと言われると思って、内緒にしたんです。

 実はこのシェルターには――」


 アイの告白は予想外過ぎた。


 地下シェルターのスーパー銭湯が些事に思えるぐらいに。


 取り合えず俺は風呂から上がることにした。


 話はそれからだ。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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