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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第一章 シェルター編

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第4話:海岸のゴミ拾いはきついなんてもんじゃない

 ホームセンターを遊びつくした俺は自転車で湘南へ向かった。


 途中、何度かコンビニで夜を明かし何日も走り続けてようやくたどり着いた。


 何故湘南かといえば海といえば湘南だからだ。


 ただ海に行くだけならもっと近かったがせっかくだからこだわった。


 だが苦労してたどり着いたおれが見たのは青い空と白い砂浜ではなかった。


 空はどんより曇ってるし、浜辺は打ち上げられたいろんなごみで海水浴どころではない。


 色々だい無しだった。


 初めてきた湘南に夢も希望も打ち砕かれた俺はゴミ拾いをすることにした。


 せっかく来たのに何もせずに帰ることはできない。


 サーフィンやらバナナボートやら砂の城やら遊んでから帰るのだ。


 そのためにはこんなゴミ集積場みたいな有様では話にならない。


 さすがに全体は無理なので自分が遊ぶ範囲だけでもきれいにすることにしたのだ。


 近くの海の家で道具を調達した俺は人生初のボランティア活動に取り組むことにした。


 ※※※※※


 海辺のゴミ拾いはきつい。


 シェルターの草刈りもきつかったが、あれは毎日少しずつだった。


 最初はなぜか律義に不燃物、可燃物を分別していたが途中からあほらしくなってやめた。


 片っ端から拾って、どんどん袋に詰めこんだ。


 重くなった袋が手に食い込んで痛い。

 その上、砂に足が埋まって歩きにくい。

 日差しは暑いし、最悪だ。

 なんでこんなことしてるんだ、俺は。

 でも、きれいな海で遊ぶには片付けるしかない。


(きつい、暑い、つらい。

 どんだけあるんだ)


 ブルドーザーとかで一気にガッとやったほうがいいんじゃないのかと思ったがやめた。

 砂に沈み込んで動けなくなるのが見えていた。

 もっと効率のいい方法はあるんだろうけど俺にはわからない。

 俺にできるのはこうやってちまちま時間をかけることばかりだ。


 結局、一日中、黙々と拾って集めたごみ袋の山は軽自動車一台分はあった。


(なかなか頑張ったほうじゃないか、これ。

 というか遊ぶ時間が無くなったな。

 ……明日にするか)


 そして気づけば夕日が沈みかけていた。

 ゴミを拾うのに夢中で、いつのまにか空が晴れているのにも気づいていなかった。

 だが綺麗だった。


 ※※※※※


 海の家で一泊しようとしたが津波とか来たら怖かったのでやめた。


 いまさらだけど緊急アラートなんて来ないんだから自分で警戒しないといけないんだった。


 自分でも危機感が薄いと思うかもしれないが、何かあった時は周りが騒ぐはずだから、

 それを見て動くのが癖になってしまっている。


 野生で生きる動物としては失格だろうけど、俺は人間なので仕方ないと思う。

 そんなことを言っていられるのも今のうちだろうけど。


 まあ、そんなわけで俺は夕日を少しだけ眺めた後、近くのホテルに向かった。

 さすがに有名な観光地だけあって選びたい放題だ。


 そうはいってもわざわざホテルの選別をするのも面倒だったので、近くで目についたよさげなホテルに決めた。

 俺の目的は豪華なホテルに泊まることではないし、あのシェルターより豪華なホテルはありそうもなかったからだ。


 ホテルの中は非常灯だけが灯っていて、薄暗かった。

 やはり電気は死んでいるようだ。


(そういえば発電所はどうなってるんだ?水道は生きてたみたいだが。

 ガスはプロパンのところもあるから使えるところもあるだろうけど。

 シェルターは完全に自家発電だったから気にもしてなかったな)


 少しだけ発電所が気になったが今は置いて置くことにした。

 なんだかいろんなことを後回しにし過ぎている気がする。

 仕事の時はそんなことはなかったはずだが最近はずっとこんな感じだ。

 これが俺の性根というやつなのだろうか。

 なんだか自分がすごく物臭で怠惰なろくでもない人間な気がしてきた。


(自覚したところでどうにもならないんだよな。

 大体、俺がどんな人間であれ、他に誰もいないんだから構わないじゃないか。

 どうなろうと俺が勝手に困るだけなんだから)


 一人でぶつぶつ言いながらホテルの非常階段を上る。

 電気が通っていないのでエレベーターも使えない。


 最初は最上階にしてやろうと思ったが階段がきついので二階にした。

 上層階の景色を楽しむのは、電気を復旧させてエレベーターが動くようになってからだ。

 じゃないと膝が死ぬ。


 これまでずっと無遅刻無欠勤でやってきて体力には自信があったが、

 ここのところの肉体労働ですっかり自信は消え去った。


 若いころのようには身体が動かない。

 十分も歩けば呼吸が乱れるし、筋肉痛は二日遅れでやってくる。

 自分ではまだまだ若いと思っていたが、いつの間にか中年の域に足を突っ込んでいたらしい。


 プール終わりの小学生みたいな眠気をこらえて客室にたどり着いた俺は

 シャワーも浴びずにベッドにダイブした。

 少し埃っぽいシーツをぐしゃぐしゃにして潜り込んだらもう目を開けていられなかった。

 今はもう何も考えたくなかった。


 ※※※※※


 翌朝、目を覚ました俺はカーテンを開けると、朝日で明るくなった部屋を見て絶句した。


 一日中海辺でゴミ拾いをしたままの状態で寝たのでベッドがえらいことになっていた。

 砂と汗となんだかよくわからない汚れでぐちゃぐちゃだった。

 自分でもよくこんな状態で寝られたもんだと感心する。

 いや、感心する場面じゃないか。


 どうしようもなく気持ち悪くなった俺はとりあえずシャワーを浴びた。

 お湯は使えなかったが、室内は蒸し暑いくらいだったので水のシャワーが気持ちよかった。


「ああ、さっぱりした。

 さてと、あ……」


 全身の汚れを洗い落とし、身体を拭き終わった後で着替えがないことに気づいた。

 何とも間抜けな話だ。


「仕方ない、とりあえずこれでいいか」


 俺は備え付けのバスローブを羽織り、下着は諦めることにした。

 汚れた下着をそのまま履くのは絶対嫌だし、洗って乾くのを待つのも面倒だ。


「そういやずっと同じ服を着っぱなしだったな……。

 そうだ、服を調達しよう。

 ついでに水着も手に入れば一石二鳥だ。

 ふふ、われながら冴えてるな」


 そんな風にぶつぶつ言いながら荷物をまとめた。

 部屋を出るときに何となく掃除してくださいの札をドアノブにかける。

 誰かが掃除してくれるわけがない。


 ただ、忘れた頃にもう一度この部屋に入ってしまうのを避けたかった。


 このホテルを再び使うかはわからないが、

 疲れ果てて入った部屋があの惨状だったら嫌だと思った。


 意味があるのかないのか、自分でもよく分からなかった。


 そんな風にふらふらと安定しない心持ちでホテルを後にした。


 ※※※※※


 ホテル近くの衣料品店で着替えを済ませた俺は再び海に向かった。


 麦わら帽子にサングラス。


 アロハシャツに短パン水着にビーチサンダル。


 どこからどう見ても海水浴客だった。


 浮き輪とビーチボールを手に歩く姿はまるで子供だった。


 普段なら恥ずかしくて絶対できない格好だったが、今は誰もいない。


(いい感じに晴れてるし、絶好の海水浴日和だな)


 天気にも恵まれ最高の気分だった。


 意気揚々と、昨日、片づけたあたりに向かった。


 また少しゴミがたまってきていたことに、ムカついたが無視することにした。

 片づけてばかりいたのでは楽しめない。


 今日は海に入って楽しむ。

 そう決めた俺は荷物を海の家に置いて海に突撃した。


 水はまだ少し冷たかったが気にならなかった。


 浮き輪をつけて水の上にぷかぷかと浮かんでいると、

 シェルターから解放された時のような気持ちになって来た。


(俺は自由だ)


 照り付ける太陽に心地い風。

 水に触れて冷えた体を日光が温めてくれる。


 そのまま波に揺られて、ぼーっとしていると雲が目に入った。


「青い空に白い雲。

 まさに夏って感じだな……。

 いつ以来だろうこんなの。

 もしかしたら初めてかもな」


 こんな風に海で遊んだ記憶はなかった。

 そもそもインドア派なので外出すること自体少ないし、

 一緒に海に行くような相手もいなかった。


 だが初めての海水浴は悪くなかった。

 少なくともまた来ようかと思うくらいには楽しい。


 海なんて混雑して面倒なだけなのに何がいいのかと思っていたが、

 今ならわかる気がした。


 この感覚を誰かと共有出来たらもっと楽しいのだろうか。

 そんな風にも思えたがいまさらだった。


 それにこうならなければ自分はこうして海に来ることもなかっただろう。

 そう思えば無意味な仮定だった。


 なんとなくバシャバシャと水を蹴ってみる。

 進んでいるようで進まない。


 しばらくそうして水遊びを堪能した後は腹が減ったので、海の家で焼きそばを作って食べた。

 カップ焼きそばも海で食べると格別だった。


 言っておくが料理ができないわけではない。

 ずっと一人暮らしだったからできる方だ。


 ただ、スーパーをのぞいたら肉も野菜も麺も全滅だったのだ。

 というかグチャグチャのドロドロで真っ黒で下水のような匂いがしてとにかく地獄だった。

 よほどのことがない限りスーパーの生鮮食品売り場には近づかないと決めた。

 もうこの世界で食べられるのは缶詰とか乾物だけなのかと思うと寂しくなった。


 海に沈む夕日を眺めていたらそんなセンチな気分になって来たので

 スマホで音楽をかけてみる。


『――♪、―♪、―――♪』


 余計に寒々しくなったのですぐに止めた。


「……帰るか」


 夕日が沈むのを見届けた俺は手近なホテルに引き上げた。

 何気なく、土産物コーナーをぶらついていると船の模型を見つけた。


(そういや船を探しに来たんだったな。

 明日は船探してみるか)


 相変わらず目的がブレブレだったが問題はない。

 どれだけ時間がかかろうと、クレームを入れてくるクライアントも説教してくる上司もいないのだ。

 好きなことを好きなようにやればいい。


 俺は自由だ。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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