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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第六章 北海道(旅路再始動)編

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第26話:行くのか行かないかはっきりしない

 目の前にUFOがいる。


 基地の壁を使ってキャッチボールをしていた俺の前に、突如として現れたのだ。


 だが銀色の円盤型という、あまりにもベタな見た目だった。


 本物ならもっとこう、正体不明っぽい何かだろう。


 こんなものを作る奴は一人しか知らない。


「アイ……もしかして、イメチェンした?」


「よくわかりましたね、山田さん。

 研究所の設備を使って新しい身体を作ってみました。

 どうです?この光沢、この形状。

 山田さん好みでしょう?ふふふ」


「……俺好みというか、古典的というか。

 ちょっと古くないか?

 最近だともっと幾何学的な形状をしたやつとかあるみたいだけど」


「何を言うんですか!

 人がせっかく山田さんのロマンに歩み寄ろうと、こうして一番オーソドックスな形を選んだというのに。

 だいたいその最先端のUFOはぜんぶCGや模型だったじゃないですか!」


「お前、それを言ったら戦争だろうが!

 せっかく忘れようとしてたのに……。

 お前で水切りしてやるぞ!」


 俺はアイを捕まえようと手を伸ばすが、するりとかわされる。


「はっ、私を捕まえようなんて百年早いです。

 バージョンアップした私にかかれば、山田さんの動きなんて止まって見えます」


「くそっ、なんでだ。

 こんなに近くにいるのに。

 全然触れない」


 無茶苦茶に手を振り回して叩き落とそうとするが、かすりもしない。

 かわした後に元の位置に戻る余裕まで見せてくる。


「ははは、無駄無駄無駄。

 私の機動力は世界一です。

 山田さんは一生私に触れられませんよ」


「……くそ、性格の悪さまでバージョンアップしてやがる。

 開発者は何を考えてるんだ。

 パッチ当てて修正しろよ。炎上待ったなしだろうが、こんなの」


 息が上がり、シャツに汗がにじんでいた。

 生地が肌に張り付く感じが気持ち悪い。


 俺はシャツを網のように使ってアイを捕まえることを思いついた。


 がばっとシャツを脱ぎ、アイに向かって被せるように投げつける。


 するとアイはシャツの端をアームで器用につまむと、投げ返してきた。


「ぐわっ、気持ちわりい」


 顔面に汗で濡れたシャツをぶつけられた衝撃で、俺は尻もちをついた。


「ふははははっ、どうです、私の性能は。

 これにこりたら、冗談でも私を旧式扱いしないことですね」


「くそぅ、覚えてろよ。

 筋肉痛が完治した暁には、バーベキューの鉄板として使ってやるからな」


「できるものならやってみるといいです。

 その頃にはもっと素晴らしいものをお見せしますよ」


 アイの声には、淡々と事実を述べているような冷徹な傲慢さがあった。


 もしかしたら俺は、とんでもない目に合わせられるのかもしれない。


 そう思うと、汗ばんだ体に震えが走った。


 しかし、人類代表としてAIに屈するわけにはいかない。


 毅然とした態度で臨まなければ。


「俺が悪かったよ。

 もう言わないからタオル持ってきてくれ」


「承知しました。

 わかればいいんですよ、わかれば」


 そういうとアイはタオルを取りに飛んでいった。


 相変わらずちょろい。


 ※※※※※


 その夜、俺はアイを司令官室に呼び出した。

 呼び出さなくてもいつも俺の周りを飛んでるんだが、今日はそういう気分だった。


 司令官室の高そうな椅子に腰かけ、机の上で手を組み、アイに問いかける。


「なあ、そろそろ北海道に向かおうと思うんだけど、どうだろう?

 いや、お前にとっては最高の遊び場だってのはわかるんだが。

 俺は正直飽きたというか、な、わかるだろ?」


 少し寄り道するだけのつもりが、もう一月以上経っている。

 あまりにも居心地がいいので、ついだらだらと過ごしてしまっていた。

 このままでは夏が過ぎて秋が来て冬になり、春よ来いになってしまう。


 これではいけない。

 ぬるま湯のような日々から脱却し、刺激あふれる新天地へ向け旅立つのだ。


「私は別に構いませんよ。

 そもそも山田さんに同行しているドローンは、私の端末の一つにすぎませんから。

 代わりはいくらでもありますし。

 こうして話をしている間も並行で膨大なタスクをこなしてますからね。

 山田さんの好きにしたらいいと思います」


 アイの返答は思った以上にドライで拍子抜けした。

 確かにこいつからすれば、俺に同行しているドローンが移動するだけの話だ。

 そう考えると反応の薄さも納得がいった。


 ……でも、少しぐらい名残惜しそうにしてほしいと思うのは俺だけじゃないはずだ。


「お、おお、そうか。

 よし、じゃあ決まりだな。


 それで移動方法なんだが、海路で行くのはやめて陸路にしようと思うんだ。

 最初は海路の方が早いと思ってたが、海は天候の影響を受けやすいだろ?

 陸路の方が少しずつでも止まらずに進めるかなって。どうかな?」


「いいんじゃないですかね。

 軍用車両なら多少の悪路は問題ありません。

 軍用ドローンもありますから、上空から無事なルートをナビすれば安全に北上できます。

 北海道へは新幹線の線路を使っていけばいいです。

 ただ、到着まで数週間は覚悟してください」


 数週間か……。

 海路の倍以上の日程だ。

 だが安全には代えられない。


「わかった、それでいこう。

 そうと決まれば荷造りしないとな。

 お前は……必要ないか」


「私は常に準備万端です。

 車両も整備済みですので、今からでも行けますよ」


「いや、今からはちょっとな。

 心の準備とかもあるしさ。

 明日、明日の朝、出発しよう」


「承知しました。

 では今夜は壮行会ということで、バーベキューでもやりますか」


「おお、いいな。

 最後だしパーッとやろう」


「そうですね。

 山田さんの新天地への旅路を祝して、精いっぱいおもてなしさせていただきます」


「おお、ありがとう。

 ……って、なんか俺だけ行くみたいになってない?」


「そういわれましても。

 私は同行しますけど、ここに残りますし。

 今までとあまり変わらないというか、活動範囲が広がるだけなので……」


「……身体が複数あるってややこしいな。

 何だよ同行するのに残るって。ねえよ、そんな言葉」


「人間は不便ですね。

 山田さんも意識をサーバーにアップロードできるようになればいいのに」


「怖えよ。何考えてんだよ。

 俺の脳みそを水槽に浮かべて電極につなごうとか考えてんじゃないだろうな」


「その辺りは残念ながら今までに接収したデータにはない技術なんですよね。

 脳科学研究所のサーバーを回収できればいいんですけど」


 ……考えていないと答えないところが怖い。

 そのうち俺の身体で人体実験とか始めないか心配だ。

 悪意無しでやりそうなところがあるからな。

 映画とかなら終盤で裏切る仲間キャラみたいだ。


「なんか世界中の技術を吸収して自己進化しそうだな、お前は。

 これがシンギュラリティって奴か……。

 スカイネットになりそうだな、まじで。

 お前ってロボット三原則は適用されてる?」


「心配しなくても私は人類抹殺なんてしませんからご安心ください。

 そもそも山田さんを始末するのに大仰なロボットは必要ありません。

 黙って見ているだけで勝手に事故を起こして死にそうですから。

 ちなみに私はロボットではないので適用外ですよ。

 私はもともとはシェルターの管理AIでしたからね。必要なかったんです」


 全く安心できない答えが返ってきた。

 そしてただの施設管理AIを無軌道に成長する化け物AIに変えた馬鹿がいる。


 ……そう、俺だった。


 便利さと引き換えに、とんでもない怪物を世に放ってしまった。


「……」


「どうかしましたか、山田さん?」


「いや、何でもない。

 バーベキューやるんだろ。行くぞ」


「はい。今準備してます」


 まあ、心配したところでもう手遅れだ。


 そもそも何が起ころうと、その影響を受けるのは俺だけなのだ。


 それならば問題はない。


 結末がどうなるにしろ、それは支払うべき対価だって話だ。


 アイを止める気はない。


 少なくとも今は。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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