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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第五章 北海道(旅路)編

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第25話:空を自由に飛びたい

 筋肉痛で動けなくなっている間に数日が過ぎた。


 外は雨が降ったり止んだりと落ち着かない天気が続いている。


 曇り空を背景にスウォームが忙しなく行きかっているのが見えた。


 まるで会社に向かうサラリーマンの集団のようだ。


 働き者のロボットたちを横目に、俺は一人ピクニックをしていた。


 基地の庭にブルーシートを敷き、アイが用意してくれた重箱を広げている。


 意外とうまいスパゲティの缶詰に舌鼓を打っていると、キュルキュルというモータ音と共にロボットがやって来た。


 アイが近くのファミレスから回収してきた配膳用ロボットだ。


 見た目は変わらないが、足元がキャタピラになっている。


 屋外で使用できるよう改造したらしい。


 アイは俺が動けないのをいいことに研究所で好き放題やっている。


 配膳ロボットの改造もその一つだ。


 こんな改造しても使い道なんてないだろうに。


 そう思いながらも運ばれてきた温かい料理を受け取る。


『ご利用ありがとうございますニャーン』


 機械の音声が流れ、ロボットが去っていく。


 久しぶりに知らない人?の声を聴いた気がする。


 機械で合成された音声だが新鮮だった。


 というか、あいつはいったい何をやっているんだ。


 研究所のサーバーにつないでから前にもまして好き放題やっている気がする。


 そのせいで俺の生活に影響が出るようなら文句の一つも言うのだが、今のところは全く問題ない。


 俺の世話と並行して色んなことができるのもデジタルな存在だからだろう。


 制限はあるものの、通信網が整備された範囲であれば好きに活動できる。


 メガソーラーの復旧を進めながら、八ヶ岳と横須賀間の中継基地を復旧させた。


 じわじわと活動域を広げている。


 不眠不休で二十四時間働き続けられるAIならではの力押しだ。


 俺にはとうてい不可能な偉業だ。


 聞けばスウォームの数も数百機に達しているそうだ。


 最初の頃は百機で大喜びしていたというのに増やしすぎだろう。


 増えたスウォームで新しいスウォームを組んでいるのだから手に負えない。


 よくそんな数を制御できるものだと思ってたら、サーバーの増設までやっていた。


 もはや何でもありだ。


 自己増殖するAIとか、SF映画だったら絶対ろくなことにならないやつだ。


 さすがに精密部品とかは作れないだろうから限度はあるだろうが、明らかに過剰な拡張だ。


 あいつはいったい何を考えているんだろう。


 本能的なあれでやっているのか。


 それとも俺のためだろうか。


 ……さすがにそれはうぬぼれすぎか。


 今のところは問題ないが、少しだけ不安になる。


 もしアイが反乱を起こしたら。


 その時は土下座で許してもらおう。


 勝てる気がしない。


 殺人ロボットを作るまでもなく、スウォーム一機に負けそうだ。


 まあ、負けても失うものなどないので争う意味もないのだが。


 そんなことを考えていたら、上空を大きな鳥……ではなく偵察用ドローンが通りすぎた。


「あんなのまで飛ばせるようになったのか。

 アイ、なんかすごくなったな……」


 俺の言葉に反応するように、今までブルーシートの上で置物のように鎮座していたドローンが浮かび上がった。


「ふふふ、そうでしょうとも。

 やはり軍の施設は素晴らしいですね。

 市販品とは比べるべくもないです」


「うわっ、お前聞いてたのか。

 ずっと動かないから通信切れてると思ってたのに」


「山田さんに倣って私も海を見ながらぼーっとしてたんですよ。

 まあ、私の場合は空からですけどね」


「……人の悪い奴だ。

 いいよな、お前は。

 新しい身体をいっぱい作って海でも空でも遊び放題だ。

 俺なんかちょっと真面目に体でも鍛えようとしたらこのざまだってのに……」


 少し大げさに弱ったふりをしてみる。


 半分は冗談だが、もう半分は本気だ。


 というか正直うらやましい。


 空が飛べたらどこでも行き放題じゃないか。


 俺には常に死の危険が付きまとうが、アイにはそれがない。


 事故っても壊れるのはその機体だけ。


 アイ本体は無傷だ。


 壊れたってまた作ればいい。


 人間にはない強みだ。


「そんな山田さんに朗報です。

 空を自由に飛んでみたくはないですか?」


「何だよ急に。

 ヘリでも修理できたのか?」


「違います。

 そんなつまらないものじゃ、ありませんよ。

 もっと面白いものです」


「ヘリをつまらないって。

 じゃあ、なんなんだよ。もったいぶるな」


「せっかちな人ですね。

 騙されたと思ってついてきてください。

 後悔させませんよ」


 俺は偉く自信満々なアイに嫌な予感がしたが、黙ってついて行くことにした。


 USOの時にあれだけ安全面を気にしていたこいつが薦めてくるということは、少なくとも安全は保障されている。


 それならば話に乗ることに不足はない。


 なにより、俺は退屈だったのだ。


 ※※※※※


 連れてこられたのは格納庫だった。


 何やら弾力のあるゴムのような床材の上にシートベルト付きの椅子が置かれている。


 椅子には見覚えのあるカーボンナノチューブのロープが伸びていた。


 その先には大型ドローンが四機。


 ……嫌な予感しかしない。


「おい、まさかこの椅子に座ってドローンで引っ張り上げて飛ぶっていうんじゃないだろうな?

 落ちたらどうするんだ。

 どう考えても危ないだろ!」


「まあまあ、論より証拠。

 やってみましょう。

 心配なら高く飛びすぎなければいいんですよ」


「いや、でも、これだと前向きに落ちたらもろにケガするんじゃないか?」


「大丈夫です。

 重心を計算してありますから落ちるとしても背中側から落ちます」


「……そうか、じゃあやってみるか」


「さすが、山田さん。

 ちょろ……いえ、勇気がありますね。

 おっと、その前にこのヘルメットをかぶってください。」


「ああ、そうだな防具は大事だな。

 ってこれフルフェイスじゃねえか。

 何にも見えないぞ。

 音も聞こえづらいし」


「すぐに起動しますから、少々お待ちを」


 ……

 …………


「どうです。映りましたか?聞こえてます?」


「ああ、見えるし聞こえてるよ。

 それで、どうすればいいんだ。

 自由に飛べるってどうやって操縦するんだ?」


「口頭で指示をお願いします。

 普段私に話してるみたいな感じで大丈夫です」


「わかった。じゃあ、発進!」


 俺の言葉に反応し、椅子が浮かび上がる。


 まるで胴上げされているみたいだ。


「おお、すごい、浮いたぞ。

 前進だ前進。それから上昇!」


 浮遊感と共に風が強さを増す。


 まったく揺れを感じないのは頼もしい限りだ。


「山田さん、ノリノリじゃないですか。

 言っておきますが無茶なスピードや高度は出しませんからね。

 基地から離れすぎるのもだめです」


 海の方に向かう前にくぎを刺されてしまった。


 それもそうか。


 救命胴衣もなしに海へ落ちたら命にかかわる。


「わかってるよ。

 いやあ、風が気持ちいいな。

 まるで鳥になったみたいだ」


「それを言うならドローンになった気分と言ってください。

 誤作動しますよ」


 椅子ががたがた揺れる。


「おい、物騒なこと言うな。

 安全運転だ、安全運転。

 洒落にならんぞ」


「ふふふ、大丈夫ですよ。

 この程度の揺れなら。

 なんなら宙返りでもしてみますか?

 シートベルトの強度はテスト済みですから落ちませんよ」


「やめろ!

 落ちないと言われても怖すぎる!」


 俺は建物の間を縫うように飛び回り、やがて周囲の建物を見下ろせるほどの高度に達した。


「おお、さすがにここまで来ると怖いな。

 もういい。

 満足だ。戻ろう」


「おや、もう終わりですか。

 まだ十分も飛んでませんよ。

 バッテリーはまだ半分以上残ってますからまだいけますよ」


「いやもういいって。

 っていうかバッテリー切れたら落ちちゃうだろうが!

 残ってるうちに戻るんだ」


「わがままな人ですね。

 じゃあ、さくっと戻りましょうか」


 そういうと基地の庭に向けて急降下した。


「うわああ、止まれ止まれ。

 ぶつかる!」


 すごい勢いで地面が近づいてくる。


 思わず立ち上がろうとしてしまった。


 急に動いたせいか、椅子がぐらりと傾いた。


 俺は目をつぶった。


「うわああああっ!」


 ドスン。


 思ったほど衝撃がない。


「山田さん、終わりましたよ」


 ヘルメットを外す。


 俺は格納庫の中にいた。


「なんだったんだ、今のは……。

 俺は飛んでたんじゃないのか」


 いつの間にか目の前には複数台の扇風機が置かれていた。


 配膳ロボが頭に扇風機を載せている姿がシュールだ。


 なるほど。


 別のドローンから送られてくる映像と音をヘルメットに映し、扇風機で風を再現していたのか。


 椅子の位置も最初とは少しずれている。


 浮かんだように感じたのは本当だったらしい。


 ヘルメットから聞こえてくる音やバイザーに映る映像に惑わされて全然気づけなかった。


「なんだ、フライトシミュレーターじゃないか。

 びっくりさせやがって」


「ふふ、そのわりには本気で怖がってましたよね。

 山田さん。

 まさか漏らしたりはしていないと思いますけど」


「ば、馬鹿。

 そんなわけないだろ。

 ちょっと高所恐怖症なだけだ。


 でも冷えたからトイレに行ってくる。

 ……漏らしたりはしてないからな」


「まあ、楽しんでいただけたようなのでよかったです。

 こちらもいいデータが取れました」


 確かに楽しめたが、それも途中までの話だ。


 最後の墜落はいただけない。


 本気で死んだかと思った。


 危うく漏らすところだった。


 もう少し乗り心地を考えてほしいものだ。


 トイレを済ませ庭に出た俺が見たのは、墜落し壊れたドローンと椅子の残骸だった。


 どうやらさっきのは作り物の映像ではなく。


 この壊れたドローンを実際に飛ばしていた映像だったようだ。


「本当に飛んでたらこうなってたのか……。

 シミュレーターでよかった」


 空を自由に飛ぶのは想像以上に大変なことはよくわかった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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