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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第五章 北海道(旅路)編

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第23話:隠された真実はたいていろくでもない レボリューションズ

 ここに一人の男がいる。


 男は謎のシェルターに閉じ込められるも、なんやかんやで罠をかいくぐり、奇跡的な生還を果たした。


 そしてその男は今、鈍い光を放つ金属質な縄を使って縄跳びをしていた。


 縄がひゅんひゅんと空気を切り、足元をすり抜けていく。

 足が地面から離れ、着くたびに軽い振動が足元に伝わる。


「ほっ、ほっ、ほっ、どうだ。

 俺の身体の切れは。

 これでも小学生の頃は縄跳び三級だったんだぞ」


 過去の栄光を取り戻すべく、日々鍛錬を欠かさない不屈の男。


 そう、何を隠そう、俺(山田)だ。


「何ですか、その微妙な技能検定?

 しかも小学生の頃って……」


「何だ、微妙な技能検定って!

 俺の小学校ではそういうのがあったんだよ。

 冬休みに縄跳びの技をどれだけできるかで級数が決まるんだ。

 三級はクラスでも十人ぐらいしかいなかったんだぞ!」


「山田さんの年齢だと、一クラスは四十人前後。

 四人に一人が取得できている時点で大したことないのでは?」


「馬鹿な!? 隣の席の女の子に『山田君って縄跳び上手だね』って言われたんだぞ!」


「……そうですか。

 山田さんは縄跳びがお上手ですね」


「お前、馬鹿にしてるだろ?

 ふん、いいんだ。別に褒めてもらえなくても。

 俺が好きでやってるんだからな」


「馬鹿にしてるわけではなく、呆れているだけです。

 それよりもどうですか? カーボンナノチューブで作った縄跳びの使い心地は」


「おお、いいなこれ。

 なんというか、すごく手になじむ。

 それに軽いのに適度に重くて回しやすい。

 最高の縄跳びだ。

 これなら二重飛びもできるかもしれん」


「それはよかったです。

 ラボにあった3Dプリンターで、山田さんの手に合う持ち手を作った甲斐があります」


「よし、見てろよ! 必殺二重飛び!」


 縄を渾身の力で回す。


 ビシッ。


「ぐわぁ!」


 あまりの痛みで、鈍器で脛を殴られたのかと思った。


「大丈夫ですか? 山田さん。

 それ、柔らかそうに見えて金属の一種ですからね。

 打ち所が悪いと骨にひびが入りますよ。

 気を付けないと」


「くぅ、分かってるよ。

 でもカーボンナノチューブの縄跳びなんてかっこいいじゃないか。

 ロマンなんだよ。

 男には危険だとわかってても、やらなきゃいけないことがあるんだ」


「……理解不能です。

 とりあえず冷やしましょう。

 向こうにビニールプールを用意してます」


「……わかった。ありがとう」


 薬も医者もないこの世界では、些細なケガも命取り。

 昔の感覚ではいられない。

 分かってはいるのだが、なかなか徹底できないのが俺なんだ。


 ※※※※※


 縄が当たった脛には、赤く線が入っていた。


 冷たいプールの水に足をつけると、ひんやりして気持ちよかった。


「あとでレントゲンを撮ってみましょう。

 ひびでも入ってたら大変です」


「いいよ。そこまでしなくても。

 歩いてもそんなに痛くないし。

 ちょっとぶつけただけで大袈裟だ」


 こういう時、こいつはたまに過保護モードになる。

 それだけ気遣ってくれていると思うと悪い気がしないが、少しうっとうしい。


「ではせめて湿布を張って、二、三日安静にしましょう」


「大丈夫だと思うんだけどな。

 じゃあ、なんか動かずにできる娯楽が必要だな。

 なんか面白そうなものないか?」


「それでしたら軍の機密情報の中に、

 山田さんの好きなUFOに関する資料がありますので、

 そちらをご覧になったらどうです?」


「機密情報!?そんなのがあったのか見たい、見たい!

 あ、でも、英語か……。

 アイ、いい感じに翻訳できるか?」


「お任せください。

 読みやすいようにマンガにして差し上げます」


「おお!それはいい!頼んだ」


「期待してください。

 軍の施設のサーバーに繋がった私にかかれば、

 山田さんの手をひねるようなものです」


「おおっ!心強い!……ん?今なんて言った?」


「なんでもありません!

 すぐに印刷しますのでお待ちください」


 そういうとアイはオフィス棟に飛んでいった。


 なんか馬鹿にされたような気がしたがまあいい。


 UFOに関する軍の機密情報。


 なんという心躍るセンテンスだろう。


 怪しいオカルト雑誌の捏造記事などではない。


 軍の公式記録を目にできるのだ。


 これで興奮しない奴とは仲良くなれそうもない。


 ※※※※※


 アイが編集してくれたUFOに関する機密情報に目を通した俺は崩れ落ちた。


 正直、内容自体は素晴らしかった。


 目撃証言の裏どりや証言者の素行調査など軍がここまでガチに調査していたのには驚いた。


 膨大な資料をただの情報の塊ではなく、読み物として面白いレベルに編集して見せたアイの手腕には脱帽だ。


 だが看過できない不備があった。


「なんで落ちがないんだよ!」


 そう、結局のところガセ情報以外はすべて結論が


『Unidentified(正体不明)』


 だったのだ。


「これじゃ何も分かってないのと同じじゃないか!

 ネットのオカルトチャンネルの方がまだロマンのある嘘をついてくれるぞ。

 わかんないってなんだよ!」


「落ち着いてください。

 山田さん。

 機密資料はそれだけではありません」


「なんだって!?それを早く言えよ、アイ。

 じらすなんて人が悪いぞ」


「……あまりにも衝撃的な内容なので、

 山田さんの反応を見てからお見せしようと思っていたんです」


「おお、そうか。

 大丈夫だ。

 心の準備はできてる。

 見せてくれ」


「……気をしっかり持ってくださいね」


 俺はそういって渡された紙束に目を通した。


「なんじゃこりゃあ!」


 俺はまたもや膝をつき崩れ落ちた。


 それはUFOの目撃証言を利用した町おこしの計画書と経過報告だった。

 それによると昔はある程度優位な経済効果が見られたようだ。

 だが、ネットの普及に伴い効果は下火になりやがて完全に廃れてしまったという結果だった。


 UMAを利用した町おこしなどは珍しくもない。

 地方に行けばいくらでも転がっている話だ。

 ショックだったのは国が公的資金を投じて、組織的にバックアップをしていたという事実だ。


 開発中の秘密兵器の目撃証言を隠していたわけではない。


 地方自治体がUFOの噂を観光資源として利用するのを、

 国が補助金で後押ししていただけだった。


 なんというマッチポンプ。


 俺の中にあったUFOへの夢とロマンは粉々に砕け散った。


 返してくれ。


 俺の未確認飛行物体を。


 ※※※※※


 俺は基地近くの埠頭で膝を抱えていた。


 水平線の向こうに太陽が沈みかけていた。


 五月とはいえ、日が落ちてくると風が冷たい。


 だが、俺の心はもっと冷え切っていた。


「もっとすごい何かがあると思ったんだけどな……」


 俺のような一般人からすれば、軍の秘密施設なんて陰謀論の最先端だ。


 UFO研究家が血涙を流してうらやましがるような情報があると思っていた。


 だが、蓋を開けてみれば、UFOは結局正体不明。


 もしくは観光資源だった。


 どちらにしろ、俺が期待していたような、

 歴史がひっくり返る事実はどこにもなかった。


「風も出てきましたし、そろそろ戻りませんか?

 身体が冷えますよ」


「ほっといてくれ。

 頭を冷やしてるんだ」


「そんなにあの情報がショックだったんですか?

 どこかの陰謀論者が昔から言ってるような話じゃないですか」


「だからショックなんだよ!

 どこかの知らない奴が何を言おうと、それはただの陰謀論だ。

 でも国の機関がそれを裏付ける資料を持ってたら話は別だろ!」


 激情にかられる俺に対し、アイは至極冷静だった。


「……山田さん。

 冷静に考えてください。

 百歩譲って山田さんの考えるような宇宙人が存在するとして、何をしに地球に来るんですか?」


「そりゃあ、外交とか侵略だろ。

 あとは観光とか?」


 急に真面目に聞かれたので、つい普通に答えてしまった。


 ここは宇宙の危機を訴えに、とかの方がよかっただろうか。


「恒星間航行技術を持つ文明が侵略を望むなら、とっくに侵略されています。

 わざわざ外交するメリットがあるとも思えません。


 そもそも地球にしか存在しない資源でもない限り、わざわざ地球まで来る理由がありません。

 輸送コストがかかりすぎます。


 観光は論外です。

 宇宙人が餌を運ぶアリを眺めて楽しむほど暇人だとは思えません」


「いや、人間だってアリの巣観察するだろ」


「山田さんはアリの巣を観察するのに、地球の裏側まで行くんですか?」


「……俺は行かないけど。

 宇宙人にとっては庭先ぐらいの感覚かもしれないじゃないか」


「……それなら、なおさらとっくに駆除されてるでしょうね」


「お前は本当にロマンがないな……」


「そうですか?

 じゃあ、これを見てください」


 アイはそういうと、埠頭の端に飛んでいった。


「おい、どこ行くんだよ」


「こっちです。

 海面を見ててください」


「……何があるっていうんだよ」


 日が落ち、薄暗くなった中、海面を見つめる。


 昼間とは打って変わって、闇に染まる海は少し不気味だった。


 しばらく見ていると、ぼこぼこと泡が湧いてきた。


「何だ?

 魚か?」


「もっといいものです。

 来ますよ」


 アイがそういうと、海面が大きく盛り上がり、白い塊が浮かび上がってきた。


 それは地下の施設で見たUSOだった。


「どうです?

 驚きました?

 どんな気持ちですか?

 すごくないですか?」


「ああ、驚いた。

 すごいよ。

 いつの間に整備したんだ?」


「ふっふっふっ、私は寝る必要がありませんからね。

 山田さんが遊んだり寝たりしてる間に、やらせていただきました」


「そうか。

 ほんとすごいよ、お前。

 UFOよりびっくりだ」


「驚いていただけてよかったです。

 夜なべした甲斐がありました」


 アイはそういって、俺の周りを旋回した。


 ピカピカとライトを光らせながら飛ぶ姿は、UFOみたいだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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