表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第五章 北海道(旅路)編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/56

第19話:知ってる天井

 隠し通路の先の金属扉はエレベーターだった。

 内装は普通のエレベーターだがボタンは地上と地下の二つのみ。

 どこかで見たようなデザインだった。

 というか八ヶ岳シェルターのエレベーターと同じだった。


「偶然か?それにしては似すぎだな。

 軍の仕事なんて請けた覚えはないんだけど。

 エレベーターは外注だから似ることもある……か。

 うーむ、わからん」


 同じだから何なんだという話ではある。

 気にしたところで意味はない。

 しかし、偶然というには出来過ぎている気がした。


「普通に考えるとここが地上でしょうね。

 地下に行ってみますか?

 非常時の脱出口かもしれませんけど」


 一方でアイはまったく気にしていない様子だった。

 俺が神経質になりすぎているだけなのかもしれない。

 隠し扉なんてものを見つけてしまったせいだろう。

 偶然の出来事に恣意的なものを見出してしまっている。


「……そうだな。非常時の脱出口っていうのもありそうな線だ。

 とりあえず、行ってみるか。

 非常口なら罠とかもないだろ」


「私が先に降りて確かめてきましょうか?」


「いいよ。面倒だ。

 だいたい基地のお偉いさんが使うはずの設備に危険があるはずないだろ。

 心配しすぎだ」


「……」


 アイは何かを懸念しているように沈黙していたが、しばらくして口を開いた。


「……わかりました。

 念のため私が先導しますので勝手に動かないでくださいね」


「はいはい、お前は心配性だな」


 いつもはけっこう雑な扱いをするくせに時々妙に過保護なのだ、こいつは。


 俺は軽口を叩きながら地下へのボタンを押した。


 エレベーターは音も立てずに下降を始めた。


 十秒。


 二十秒。


 それでもまだ止まらない。


 高層ビルの展望台から降りる時のような感覚だった。


 行き先は相当な地下にあるらしい。


「……海沿いの地下でこんな深さの掘削をしたら浸水しそうなものだけど、どうなってるんだ」


「この深度だと海底岩盤まで達しているかもしれません。

 脱出用通路ではなく、緊急時の避難用シェルターの線が濃厚ですね」


「そうか。でも、それなら罠の可能性は減ったんじゃないか?

 避難用シェルターに罠を仕掛けるやつなんていないだろ。

 少なくとも俺なら仕掛けないね」


「……」


「なんだよ」


「……ご存じないかもしれませんが、

 地獄への道は善意で舗装されてるらしいですよ」


「失礼な奴だな、それぐらい俺だって聞いたことがある。

 でもそれが今の状況に当てはまるのか?」


「……わからないならいいです。

 それより着きますよ」


 エレベーターの減速を感じた。


 ポーン


 聞き覚えのある音がしてドアが開く。


「……は?」


 思わず間の抜けた声が漏れた。


 そこには高級ホテルのエントランスのような光景が広がっていた。


 埃っぽい感じもかび臭い匂いもしない。


 清潔な洗い立てのシーツのような香りが漂っていた。


 長期間放置された地下施設の匂いではなかった。


 自宅に帰って来たような懐かしい匂いだった。


「なんだよ、ここ。

 まるで……」


 ここは横須賀にある軍事施設の地下だ。

 一般人である俺が立ち入れるような場所ではない。

 だが、俺にはこの場所に見覚えがあった。


「まるで八ヶ岳のシェルターですね。

 細部は違いますが、七十二%の確率で同じ系列の建築物です。

 山田さんの会社、同じ設計を使い回したのでは?」


「馬鹿いえ!うちは確かにブラックだったが、その分、無駄にこだわってたんだ。

 『ナンバーワンじゃなくていい。オンリーワンを目指そう』が標語だったんだぞ。

 おかげで際限なくリテイク喰らって大変だったんだ」


「……失礼しました。

 素晴らしい心がけです。

 邪推でしたね」


「……まあいい、そんなことより中を調べよう。

 八ヶ岳と同じならそんなに広くはないだろう」


「そうですね。

 では私はこのシェルターの管理システムのログを洗ってみます。

 何かわかるかもしれません」


「頼む。俺は部屋を見てくる」


 俺は真っ先に八ヶ岳で自分が寝床にしている部屋に向かった。


 早くここが何なのかを突き止めたかった。


 自分の知らない、自分の知っている場所。


 まるで自分の部屋を誰かにそっくり真似されたような気持ち悪さを感じていた。


 ※※※※※


 昔、大学生の頃、冷やかしでモデルルームを見学に行ったことがある。


 説明を聞くだけでQUOカードかなんかがもらえた。


 時給に換算すれば割に合わないが、当時はそれがありがたかった。


 だが、現地についてすぐに後悔した。


 そこにいたのはカップルや夫婦ばかりで一人で来ているのは俺だけだった。


 他のみんなはああだこうだと感想を言い合っていた。


 俺だけが興味もない博物館に連れてこられた子供のように、退屈そうに終わるのを待っていた。


 帰り際に丁寧に客を見送る不動産会社の営業さんを見て俺は思った。


『家は買うもんじゃない。売る側にまわろう』、と。


 結局、コミュ力不足で不動産の営業にはなれず、

 シェルター専門の建設会社で設備施工エンジニアをすることになったのだが、

 本当になんでそんなことになったのかわからない。


「……わからないことは色々ありますけど、なぜ今そんな話を?

 部屋の探索をしていたのではないのですか?」


「……探索なら終わったよ。

 どの部屋も使われた形跡はなかった。

 多分、竣工してから誰も使ってないんじゃないか?

 倉庫見たけど物資もきっちり積まれてたし」


 探索を終えた俺たちはリビングで調査結果について話していた。


 モデルルームの話をしたのはなんとなくだ。


 深い意味はない。

 

 ただ、この場所を見ていたら何となく思い出しただけだ。


 要は何も興味をひくものがなさ過ぎて退屈だったってだけだ。


「なるほど。

 それならこちらの調査結果と合致しますね。

 管理システムにはエレベーターの利用記録が残ってませんでした。

 我々が最初の訪問者ということになりますね」


「そうか。

 じゃあ、異変があった時もここに逃げ込むひまもない感じだったのかな」


「そうかもしれません。

 これだけの施設が災害や事故の際に一切使われていないのは不自然です。

 常識的なものでない可能性がまた上がりました」


「じゃあ、なんなんだって話だけどな。

 考えてもわからないから、気が向いたら調べようと思ってたら、これだ。

 こうなると調べないわけにもいかない。

 なんか誰かに誘導されてるんじゃないかって気になってくる」


「そうですね。

 人工物である以上、同じものが複数あってもおかしくはないのですが。

 たまたま訪れた場所に存在していると、何らかの因果関係を求めてしまいます」


 偶然か、必然か。


 俺は運命なんて信じない。


 ならばこれも偶然だろう。


 考えたところでわからない。


 それに成り行きに任せた方がいいような気がする。


 前に探偵気取りで色々調べてみたが、結局大した手掛かりはなかった。


 かえってわからないことが増えただけだ。


 だが、北海道を目指していたら、横須賀でこんな場所を見つけた。


 因果関係は分からないが、下手に調べないほうが答えに近づけるのかもしれない。


 根拠はないが、これまでのことを思い出すとそう思えた。


「まあいいんじゃないか?どうせ拠点にしようと思ってたんだ。

 八ヶ岳と同じ構造なら都合がいい。

 同じように改造してしまおう」


「……山田さんがそういうなら私は構いません。

 しかし、そうなるとまた北海道が遠のきますよ?」


「いいんだよ。細かいことは。

 前よりは近づいてるだろ?

 のんびり行こうぜ」


「……」


 アイは不満げに沈黙していたが、

 俺は自分の寝床と決めた部屋に向けて歩き出した。


 寝る、とアイに告げてドアを閉める。


 まだ寝るには早い時間だったが、今日は色々あって疲れた。


 罠を警戒して気を張っていたせいだ。


 調べたところ安全そうだし、少し前に感じていた気味の悪さは時間と共に消えていた。


 俺はベッドに身を投げ出し、横になる。


 少し埃っぽい匂いが鼻についたが無視した。


 目が覚めたらシャワーを浴びてコーヒーを飲もう。


 色々考えるのはその後だ。


 明日は近くの店で小物をそろえよう。


 どうせしばらく過ごすことになるのだから。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

面白かったら、ブックマークや評価をいただけると、執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ