第18話:映画みたいな展開を期待する
北海道を目指すべく、シェルターを出て数日。
俺は横須賀に来ていた。
目的は自衛隊と米軍の基地にある物資だ。
きっと軍事用のすごいドローンとか災害時用の食糧が山ほどあるに違いない。
それに、この事件の謎に迫る何かも見つかるかもしれない。
そう思った俺はいつものように寄り道をすることにした。
「正直かなりわくわくするな。
なんといっても機密の塊みたいな場所だ。
普通は絶対立ち入れない場所だぞ。
陰謀論者じゃなくても入りたいだろ。
鹵獲されたUFOとかあるかもな」
「……山田さん。
それをいうなら極秘に開発された実験段階のドローンではないですか。
そちらの方が現実的です」
「相変わらずお前はロマンがないな。
お前はどうせ軍用の高性能なコンピュータでもいただこうとか思ってるんだろ」
「人聞きの悪い言い方はやめてください。
役割を失った道具に新たな役割を与えるだけです。
ある種の人道支援ですよ」
「……お前、遂に機械を人間扱いしだしたな。
そのうち人権まで主張しだすんじゃないだろうな」
「ご心配なく。
山田さんの人権もちゃんと保障してあげます」
「機械に保証される俺の人権って……」
そんな緊張感のないやりとりをしながら、俺達は米軍基地にお邪魔することにした。
ここに来るまでもそうだったが、ここの入口にも誰もいない。
シェルターを出て新しい土地を目にするたびに実感させられる。
本当にどこにも人がいないのだということを。
※※※※※
施設内の細かな探索はスウォームに任せ、俺は気になるところをふらふらと見て回っていた。
アイは効率が悪いとかなんとか言っていたが、俺はテーマパークでも導線なんて無視して、
好きなように楽しむタイプなのだ。
第一、こんなワクワクする場所の探索をすぐに終わらせてしまってはもったいない。
俺は一週間くらい泊まり込むつもりでいる。
軍用テントでキャンプとか最高にテンションが上がる。
ミリ飯なんかもあるだろう。
そう思うと、飽きたと思っていたキャンプが楽しみになって来た。
何をするかも大事だが、どこでするかも同じくらい大事なのだ。
「ここが格納庫か。
さて、どんなお宝があるかな」
「あまり期待しすぎるとがっかりしますよ。
普通に考えてヘリとかトラックがあるだけだと思います」
「うるさいな、いいから電気をつけてくれ。
暗くてよく見えない」
「承知しました……」
アイが電気のスイッチをいじると明かりがついた。
格納庫には、アイの言った通り、トラックとヘリ以外に変わった乗り物はなかった。
UFOどころか秘密兵器っぽいものもない。
俺は少しがっかりしたが、それ以上に電気がついたことに驚いた。
「おお、もう電気復旧させたのか?
さすがだな」
「お褒めいただき恐縮ですが違います。
私が復旧させたわけではありません。
屋上の太陽光発電と蓄電設備が生きていました。
非常時用の独立電源のようです」
「なるほど。
さすが軍の施設だな。
重要設備だけは生き残るように作ってあるのか。
施設の設計図とかあれば見てみたいな。
お前のことだ、もう通信センターとか司令部は抑えたんだろ。
データは全部回収しといてくれ」
「もちろんです。
ただ、ネットが使えないのでデータをシェルターの方に移送するのは時間がかかります。
この基地はまだ電気も使えるようですし、ここも拠点として使ってはどうでしょう?」
「おお、いいじゃないか、それ。
まさに秘密基地だな。
最高じゃないか」
俺は周囲をぐるりと見まわした。
このだだっ広い施設が新たな拠点になる。
思ってもみなかった提案に俺は小躍りしそうになる。
これは長期戦になるなと思ったが仕方ない。
こんな面白そうな場所を放って先に進めるわけがないのだ。
※※※※※
長期戦を覚悟した俺は、とりあえずテントを張ることにした。
メガソーラーで散々設営をさせたおかげで、スウォームが手際よく建ててくれる。
「いやあ、壮観だな。
民間用とは違った趣があって実にいい。
普通なら絶対にできない体験だな、これは」
テントは新品ではなかったが問題ない。
むしろ今は少し使い込まれた感がある方が雰囲気が出てよかった。
俺が満足げにテントを眺めているとアイがぼやいた。
「すぐそこに建物があるのにテントを張る意味はあるんですか?
なんなら近くに宿泊施設がありますよ」
「はぁ、お前はほんとにわかってないな。
軍の施設内に軍用テントを立ててキャンプをするのがいいんじゃないか。
それにここで寝泊まりすれば、起きたらすぐ探索できるし、眠くなったらすぐ寝られるんだぞ。
効率がいいじゃないか」
「……そうですね。確かに効率的です」
「だろ!それじゃあ、俺はちょっと探検してくるから飯を用意しといてくれ」
「承知しました……というか一人で行こうとしないでください。
迷子になりますよ」
「お前は俺を何だと思ってるんだ。
いくらなんでも馬鹿にしすぎだろ」
確かに山の中で遭難しかけたこともあるが、ここは街中、しかも建物の中だ。
さすがの俺でも迷子になったりはしない、はずだ。
「甘いですね。
ここは軍事基地ですよ。
しかも、電気系統が生きてます。
変なところに迷い込めばどんな目に遭うか……。
通路に閉じ込められてレーザーでサイコロステーキにされるかもしれませんよ」
「……それはないだろ。映画じゃないんだぞ。
……ないよな?」
「ふふふ、どうでしょうね。
生物兵器や謎のウィルスに感染した研究者も出てくるかもしれません」
「……それ、こないだ俺が見てた映画の内容じゃねえか」
どうやら完全にからかわれているようだ。
とはいえ、全くのでたらめとも言い切れない。
なんせ軍事施設だ。
映画みたいな防犯装置があってもおかしくはない、と思う。
見る分にはハラハラドキドキするが自分が引っかかりたくはない。
「……仕方ない。連れて行ってやるから先導しろ」
「承知しました。
私が罠にかかっても助けなくていいですよ。
代わりがありますので」
「……」
助けなくていいのかよ。
というか、壊れたら新しいドローン組むの俺なんだが。
※※※※※
アイのナビに従い建物内を歩く。
見た目は普通のオフィスに似ている。
パーティションで区切られたデスクに置かれた私物の家族写真。
壁に張られたアメリカの国旗。
コーヒーメーカーや巨大な冷蔵庫。
映画で見たアメリカのオフィスそのままだった。
山積みになった紙の資料には妙な親近感を覚えた。
国が違っても仕事というものは大して変わらないらしい。
「……もっとこうすごいものがあると思ってたんだけどな」
壁を埋め尽くすような巨大モニターがあったり、なんだかよくわからないボタンや
計器が並んだ機械が置いてあったり、そういうのを想像していた。
だが、実際はどこにでもあるようなオフィスの風景だった。
「ちょっと期待しすぎたか……」
普通に考えればここで働いていたであろう人たちも普通の人だ。
別に特殊工作員とかではない。
俺は普段立ち入れない場所ということで過度に期待しすぎていた。
「山田さん。あなたこそ映画の見過ぎではないですか?」
「うるさいな。そんなのわかってるよ。
いいだろ、少しぐらい夢を見たって。
だいたい、自分以外の人類がいなくなるなんて映画みたいな事件が起きてるんだぞ?
話の流れ的に期待するなっていう方が無理だろう」
俺だって本当は分かっていた。
UFOも秘密兵器も簡単に見つかるわけがない。
仮にそんなものが存在するとしても、アメリカ本土の基地だろう。
日本にあるとは思えない。
そう思いながらも、俺は未練がましく探索を続けた。
そうして、たどり着いたのは社長室みたいな部屋だった。
他の部屋より高そうな調度品が揃っていた。
そして、デスクの後ろの豪華な棚には難しそうな本が並んでいる。
いかにも権力者が座っていそうな椅子もある。
「ここはなんか凄いな」
キョロキョロと室内を見回し、本棚の本をパラパラとめくってみる。
「ここは司令官の執務室のようですね。
それは地政学の本です」
「へー、この基地で一番偉い人の部屋か」
俺は本を棚に戻すと椅子に腰かけて引き出しを漁った。
何かのIDカード。
赤い表紙のマニュアル。
地図。
あとは書類。
「あまり変わったものはないな。
お、なんだこのリモコン?」
それはボタンが一つだけの奇妙なリモコンだった。
文字も何も書かれていない。
一切の装飾がない、つるりとしたデザインはどこか近未来的だった。
「アイ、これ何のリモコンかわかるか?」
「……データベースには該当するものはありません。
山田さん、押さないでくださいよ」
「わかってるよ、おっと......」
手を滑らせた拍子にリモコンが床へ落ちた。
カチッ。
落下の衝撃でボタンが押される。
それと同時に部屋にモーター音が響きだす。
「山田さん......」
「手が滑ったんだ。不幸な事故だ」
モーター音と共に棚がスライドしていき金属扉が現れた。
「見ろ!隠し扉だ」
「……驚きました。まるで映画ですね」
どうやらこの世界は思ったよりも映画に近いらしい。
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