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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第五章 北海道(旅路)編

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第17話:普段おとなしい奴が怒ると怖い

 メガソーラーの復旧をアイに丸投げして、数日。


 俺は電気の無駄遣いにも飽きてきていた。


 シェルターの中と外、場所が違うだけで、やっていることは大して変わらないので無理もない。


 それならばと思いつく限りの遊びを試した。


 管理棟の外壁で映画を上映しながらポップコーンを食べた。

 これはわりと長続きした方だが、見たい作品を探すという工程が次第に面倒になってきて、

 映画を見るという行為自体に飽きが来てしまった。


 駐車場跡にバッティングマシーンを運び込んでバッティングセンターごっこもやった。

(ボールはスウォームが回収しました)

 小一時間ほどで腰が痛くなったのでやめた。


 スウォームを相手にサバゲーも試した。

 普通にやると勝てないので何度もルールを変えて挑戦した。

 最後は攻撃禁止にして、俺が一方的に撃つだけにしたが、当たらないので意味はなかった。

 どうやっても勝てないし、ペイント弾で汚れまくるので嫌になった。


 これまでの人生のほとんどを自宅と会社の往復に費やしていた俺にはこれといった趣味がなかった。

 自由に何でもできる状況になったからといって、すぐに没頭できる何かが見つかるはずもなかった。


「山田さん。次は何をしますか?」


 アイは俺の言葉を促すように周囲を旋回する。


「そうだな……」


 俺は無精ひげをいじりながら思案する。


 正直もう思いつかない。


 退職後のサラリーマンも二、三ヶ月で仕事に戻りたくなるというが、その気持ちが理解できた。


 仕事に追われ、やらなくてはいけないことでスケジュールを埋められていた方が、ある意味では楽だった。


 とはいえ、戻りたいとまでは思わない。


 できれば自分がやりたいことでスケジュールを埋めたかった。


「思いつかないのでしたら、そろそろ北海道を目指してはどうですか?

 もうずいぶん暖かくなってきましたし」


「そういえば北海道行くんだったな。

 居心地よすぎて忘れかけてた。

 そうだな、そろそろ行くか」


「おお、ついに行く気になったんですね。

 いつまでたっても動こうとしないのでやめたのかと思ってました」


「心外だな。今までは寒いからゴロゴロしてただけだ。

 準備はできてるのか?」


「ご安心ください。

 いつでも行けるように準備は整えてます。

 今日にでも出発できますよ」


「そうか。

 ……もっと準備に時間かかると思ったんだけどな」


 アイは一瞬ぴたりと動きを止めた。


「……山田さん。

 本気で行く気あるんですか?

 今度は花粉症になったからやめるとかいいませんよね?

 行きたくないなら止めてもいいんですよ?」


 アイは俺が乗り気でないのを見抜いて問い詰めてきた。


 行きたくないわけではないのだが、何となくだらだらしてしまうのだ。


「そういうわけじゃない。

 ただ俺ぐらいの年齢になると何をするにも腰が重くなるもんなんだ。

 行く気はある」


 アイは俺の言葉が疑わしいらしく目の前を左右に揺れるように飛んでいる。


「本当ですかね。

 どうも信じられないというか、疑わしいです。

 まあ、別にいいんですけどね。

 ここでの生活も飽きてきたみたいなので提案してみただけですから」


 どうやら、ここのところの俺の気まぐれな行動にすっかり不信感を持ったようだ。

 今後のことを考えればこれはあまりよろしくない傾向だ。


「そういうなよ。

 確かにここのところお前に無茶振りしすぎたのは悪かった。

 せっかく用意したのに、すぐに飽きたと投げ出されたらいい気はしないよな。

 すまなかった。


 でも、今度は大丈夫だ。

 俺を信じてくれ」


 俺の謝罪の言葉に、アイは動きを止めた。


「そこまで言うなら信じます。

 じゃあ、キャンプは撤収してシェルターに戻りますか。

 出発の前日ぐらいはちゃんとしたベッドで休んだほうがいいです」


 俺の真摯な謝罪が通じたのかアイの機嫌が直った気がした。


「そうだな。

 それじゃあ、帰るか。

 あ、後片付けは頼むよ。

 また来るかもしれないしキャンプ道具は倉庫に入れといてくれ」


「承知しました」


 本当に来るかはわからない。

 だが、また来たいと思うぐらいには楽しい時間を過ごせた。


「いやあ、なんだかんだ、キャンプ楽しかったな。

 また来よう」


「そうですね。その頃にはメガソーラーの復旧もさらに進んでいるはずです。

 もっとすごい遊びができるようになりますよ」


「おお、それは楽しみだな」


「はい、期待してください」


 こうして俺はメガソーラーを離れ、シェルターに戻った。


 俺がシェルターに運ばれていく一方でスウォームの一団はせわしなく復旧作業をしていた。


 アイの言葉通り、次に来る頃にはまた一段と復旧が進んでいることだろう。


 ※※※※※


 翌日、俺は長興山紹太寺の境内で、地面に敷いたブルーシートに寝転がり空を見上げていた。


 青い空。


 白い雲。


 少し冷たい風。


 舞い散る花びら。


「いい天気だ。熱くもないし、寒くもない。

 絶好の花見日和だな」


「そうですね。日照量も十分で充電が捗ります」


「……そうだな」


 俺はアイと桜を眺めながらのんびり過ごしていた。


 別に北海道行きをやめたわけではない。


 今は北海道へ向かっている途中でついでに観光をしているだけだ。


 海路で行くことにしたので補給のたびに待ち時間ができるのだ。


 移動にはボートを使っている。


 前に作ったままになっていた充電拠点をボートで引っ張りながらの移動だ。


 当然スピードは出ないし、休み休み進むことになる。


 この分だと一ヶ月か二ヶ月はかかるだろうというのがアイの見立てだ。


 こうやって寄り道をしていればもっとかかるかもしれない。


 なんとも暢気なものだと思うが、急いでも意味はない。


 早く着いたところで何があるというわけでもないからだ。


 それよりはこうして行く先々の名所を楽しむ方がいい。


 その方が随分と楽しそうに思えた。


「なんかこうして桜を見てると団子が食べたくなってくるな」


「……なぜ団子なのですか?論理が破綻しています」


「人間は桜を見てると団子が食べたくなる生き物なんだよ。

 お前にはわからないかもしれないけどな」


「人間にそんな特性はありませんよ。

 山田さんだけです」


「なんだわかってるじゃないか。

 人間は俺だけなんだから、俺の特性が人類の標準だ。

 はい、論破」


「……『豆腐の角に頭をぶつけて死ね』というのは、

 きっとこういう時に使う言葉なんでしょうね。

 存在しないはずの怒りという感情が湧き上がってくるようです」


 俺の言葉にアイが苛立ちを現すようにファンの音を響かせた。


「おいおい、AIがイライラするなよ。

 CPUが熱暴走するぞ」


「私の本体は冷房の効いたサーバー室の中です。

 熱暴走などありえませんね。

 山田さんこそお酒の飲み過ぎではありませんか?

 顔が赤いですよ」


「いいんだよ。花見には酒って決まってるんだ。

 それより何か一発芸やってくれよ」


「……アルハラです。

 あまりふざけたことを言うと、ここに置き去りにしますよ」


 アイの脅しに一気に酔いがさめる。

 こんなところに置いて行かれたら冗談抜きでやばい。

 死にはしないだろうがサバイバル生活を送る羽目になる。


「ちょ、冗談だって。

 本気にするなよ。

 ちょっとしたコミュニケーションの一環だ。

 飲みの場で一発芸なんて珍しくもないんだぞ」


 俺は慌ててフォローするがファンの音は強まる一方だった。

 なんというか暴走族みたいで怖い。


「ほお、そんなに芸が見たいのですか。

 いいでしょう。いいでしょう。

 私の渾身の一発芸を披露して差し上げます。

 首を洗って見ていてください!」


「おい、首を洗ってって、それ死刑宣告じゃ……」


 俺は最後まで突っ込むことができなかった。


 どこに待機していたのか十数機のスウォームが俺の周囲を取り囲み旋回し始めた。


 格闘家の寸止めを見せられているかのように俺にぶつかるギリギリを通り過ぎていく。


 単純に怖い。


「ちょ、わかった、わかったから、もうやめて……」


「まだまだ、これからが本番です」


 俺の命乞いのような悲鳴もむなしく。

 エアガンの弾が俺を囲むように周囲のブルーシートを叩いた。

 俺は頭を抱えてしゃがみ込んで動けなかった。


 しばらくして目を開けると目の前にアイが浮かんでいた。


「どうです。

 私の一発芸は?酔いが冷めたでしょう」


「……あ、ああ。醒めたよ。

 すごい一発芸だ」


「楽しんでいただけてよかった。

 キャンプでは撃つ機会がなかったので、ずっと披露したかったんです。

 素晴らしい性能でしょう?スウォームは」


「お、おお……そうだな」


 なるほど、サバゲーで攻撃禁止にされて動く的扱いにされたのを根に持っていたのか。


 それに少し調子に乗り過ぎた。

 普段おとなしい奴が怒ると怖いんだな。

 これからはあまりからかわないようにしよう。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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