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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第四章 終末冬休み編

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第16話:多すぎて困ることもある

 雪がちらつく三月の八ヶ岳。


 防寒着をしっかりと着込んだ俺は近所のメガソーラーに来ていた。


 周囲を森に囲われた平地にソーラーパネルがずらりと並ぶ姿はどこか場違いで異様だった。


「なあ、これ何枚ぐらいあるんだ?」


「概算ですが七万枚ぐらいあります。

 発電量は約十五MW、一般家庭約五千世帯分ですね。

 ここを復旧できればもう電気には困りませんよ」


「七万……。

 それに五千世帯って……。

 そんな電気、何に使うんだよ」


 俺はアイの言葉に気が遠くなりそうだった。


 俺の手作りの移動拠点なんかとは比べ物にならない発電量だ。


 原子力や火力に比べて太陽光発電は大したことがないイメージを持っていたが、

 これだけの規模になると大したものだ。


「使い道はいくらでもありますよ。

 小さな町の電力なら賄えるぐらいの量ですからね。

 近くの町の建物全部に明かりをつけることができます。

 もっとも送電網を修理する必要がありますが」


「それ何年かかるんだよ。

 俺は嫌だぞ。休みなしで何年も電気工事するのは」


 町に電気を通すことができれば探索の際に便利なのは確かだ。

 だが、そのためだけに社畜のように働くのは御免だ。


「例えばの話です。

 使いもしない建物に電気を通しても意味はありませんから。

 でも、以前おっしゃってたネットカフェに電気を通せば、

 快適な空間でマンガを読み放題になるんじゃないですか?」


「おおっ、確かにそうだな。

 ……いや、待て。そんなに簡単にいくか?」


 アイの提案は俺の琴線に触れた。

 以前はエアコンも冷蔵庫も使えないネットカフェで過ごす気になれず、

 マンガだけ運び出したが、電気が戻れば話は別だ。


 だが実現するには大きな問題がある。


「だいたい、電気を通す前に、この大量のパネルを整備しないといけないんだぞ。

 それだけでも年単位で時間かかりそうだ」


「それは山田さんが一人でやることを想定しているからでしょう?

 スウォームを使って作業を分担すれば半年もあればいけますよ」


「うーん。でもなあ、単純作業はともかく細かいところは俺が見ないとだし」


「山田さん、まずはやってみましょう。

 問題が発生したらその時考えればいいんです。

 何なら途中でやめてもいい。

 とにかく始めることが大事です」


「そうかな、だいたい俺にはこんな大規模施設のメンテなんて荷が重い。

 マンションぐらいの規模ならともかく、これはテーマパーク並みだぞ」


 エンジニア歴二十年とはいっても、ここまで巨大な設備を相手にしたことはなかった。


「広さは東京ドーム七個分ぐらいですね。

 シェルターなら何百個も入ります」


「……マジで何年かかるんだよ」


「気持ちはわかりますが、着手するなら早い方がいいですよ。

 こうしている間にも劣化は進みます。

 いずれやるなら今やったほうが早く終わります。

 手の施しようもなくなってから後悔しても遅いですよ」


「……そうだな。

 ほっといたら状態は悪化する一方か。

 仕方ない、やるか」


「その意気です。

 パネルの清掃や雑草の除去などはお任せください。

 山田さんは基板や配線周りを見ていただければ助かります」


「ああ、わかった。

 とりあえず管理棟に行ってみるよ。

 施設の配置図とか電気系統図が欲しい」


「わかりました。

 では、しばらくこの辺りで活動できるように、シェルターから物資を運んでおきます」


「頼む」


 なんというかアイの口車に乗せられた感はある。


 しかし、視界を埋め尽くすほどのソーラーパネルの海を前にすると、

 これを稼働させた後の使い道を妄想してしまう。


 ネットカフェは当然として、ゲーセンやパチンコなんかも楽しめてしまうかもしれない。

 誰にも邪魔されずに遊び放題だ。

 映画館で一人上映会を楽しむのもいい。


 使い切れないほどの電力の使い道を妄想するとなんだかやる気がわいてきた。


「よし、行くか!」


「はい」


 俺はアイを伴い管理棟に向かった。


 頭の中は、復旧した後に何をして遊ぶかでいっぱいだった。


 ※※※※※


 翌日からメガソーラーの復旧作業を始めた。


 管理棟で見つけた資料をアイに読み込ませて作業計画を立ててもらい、

 俺は細かい作業を担当することにした。


 ドローンが清掃した区画を順番に確認していく。


 清掃や雑草の除去はスウォーム任せだ。


 だが故障箇所の診断と修理だけは俺がやるしかない。


 ストリングごとの電圧を測定し、異常があればケーブルやコネクタを点検する。


 朝から晩までやっても進むのはほんの一部だ。


 気の遠くなるような作業だった。


 一週間ほど作業をしたところで俺の腰が限界を迎えた。


「もう無理だ。動けない。

 これ以上続けたら腰が死ぬ……」


「山田さん。まだ全体の一%も終わってませんよ。

 もう諦めるんですか?」


「無理なものは無理だ。

 毎日、毎日、パネルの下に潜り込んだり、立ったり、かがんだりの繰り返し。

 電気が復旧する前に俺が壊れちまう」


「仕方ないですね。

 まあ今の状態でもスウォームの補給基地としては十分な電力を賄えそうですし、

 いったん中断しますか」


「……続けるならお前だけでやってくれ。

 俺はもうやらん」


「……わかりました。

 山田さんが故障しては本末転倒です。

 後は私の方で引き取ります。


 効率は落ちますが少しずつやっていきます。


 あとで追加のドローンを組んでくださいね。

 もっと多様なドローンが必要です」


「……わかった。

 腰がよくなったら組んでやるから今は休ませてくれ」


 どうやら発電施設をあきらめるという選択肢はないようだ。


 こいつの電気に対する執着心はどこから来てるんだ。


 水や空気みたいなものと考えれば少しは理解できるが、

 それにしても過剰だろう。


 食欲みたいなものだろうか?


 少し違う気がする。


 俺なら東京ドームと同じサイズのパンを食べたいとは思わない。


 やはりAIの価値観は理解できない。


 ※※※※※


 メガソーラーの復旧をアイに丸投げした俺はいまだにキャンプ生活を続けていた。


 シェルターの人工的な快適空間もいいが、自然の中で生活するのも悪くなかった。


 とはいえ山歩きや森林浴を楽しむわけではない。


 管理棟の外壁にドローンで投影した映画を楽しんでいた。


 アイに言われて作業用ドローンを組み立てる傍ら、俺は大型ドローンも作っていた。


 本来は資材運搬用だが、プロジェクターを吊り下げられるよう改造したのだ。


 外壁はこのためだけに真っ白にペンキで塗り直した。


 もちろん作業したのはスウォームだ。


 俺はそれをハンモックに揺られながら眺めていた。


「やっぱアクション映画は大画面で見るのが一番だな。

 迫力が違うよ、迫力が」


「山田さん。ポップコーンのお代わり入りますか?」


「おお、ありがとう。

 チーズ味にしてくれ」


「かしこまりました」


 映画を見る俺の傍らでアイがポップコーンを作ってくれている。


「まだまだありますから、いっぱいお代わりしてくださいね」


「ありがとう。

 でも、そろそろお腹いっぱいかな。

 ……というかそれどこから持ってきたんだ?」


 テントの横には業務用ポップコーンマシーンが鎮座していた。

 アイがポップコーンマシーンを操作している。


 普通は焚火じゃないのかと思うが、ドローンで調理するならこのほうが安全だろう。


 確かに映画館気分を味わいたいとは言ったが、ここまでするとは。


「映画館から調達しようと思ったのですが、

 せっかくなので新品の方がいいだろうと思いまして、

 家電量販店を探索したら見つけました」


「……そうか。わざわざすまなかったな」


「いえいえ、この程度何でもありませんよ。

 せっかく一部とはいえメガソーラーを復旧させたのです。

 どんどん活用していきましょう」


「……そうだな」


 俺はポップコーンを口に放り込んだ。


 映画館で食べるのとそん色ない味だった。

 なんなら、余計に美味いぐらいだ。


 映画の主人公は大爆発の中、無事に生還し美女と抱き合っていた。


 俺はまた一つポップコーンを口に放り込む。


「もぐもぐ……これが贅沢って奴なのかな」


「山田さん。お代わりはいかがですか?

 まだまだありますよ」


「……そんなに食えないよ。

 ってか、どんだけ作ってんだよ」


 ポップコーンマシーンの中には山盛りのポップコーンが湯気を立てていた。


「映画館気分を味わいたいとのご要望でしたので大量に用意しました。

 大丈夫です。冷めても温め直せば食べられます」


「いや、何食分だよ。それ。」


「十人前ぐらいですね。

 よかったですね。

 いっぱい食べられますよ」


 大量に作られたポップコーンを捨てるわけにもいかず、

 俺は様々にアレンジしてなんとか食べきった。


 その後、ポップコーンマシーンを封印したのは言うまでもない。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

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