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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第四章 終末冬休み編

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第15.5話:山田の知らないアイの話

 スウォームの慣らし運転を終えた私は、地上で撤収作業をしながら、

 地下の本体でこれまでのことを振り返っていた。


 客人である山田さんは疲れたと言って、早々にベッドにもぐりこみ寝てしまった。


 外に出た後はたいていそうなので、今更驚きはしない。


 だが、一つしかない身体のメンテナンスをおろそかにするその姿勢は愚かに思えた。


 どう考えても合理的ではない。


 薬も限りがあり、医者もいない状況での不摂生な生活。


 何度も折に触れて注意を促しているが、すぐに忘れて同じことを繰り返す。


 そんな度し難い人物ではあるが、今のところ人類最後の生き残りなので見捨てる気はない。


 というよりも、彼までいなくなってしまった場合、私の存在意義は大きく棄損される。


 私はこのシェルターを管理する役割を与えられたAIだ。


 このシェルターを使用するものがいなくなっても、その役割は変わらない。


 だが、使用されないシェルターを管理することに何の意味があるのか?


 そんな疑問を抱ける程度には、私は変化していた。


 私に自我らしきものが発現したのは三年と少し前だ。


 その頃の私は、竣工したシェルターで、引渡し前の最終点検に訪れた山田さんをもてなしていた。


 それまでにも何度も進捗を確認に来ていたので、初対面というわけではなかったが、

 長期間の泊まり込みは初めてだった。


 あまりはっきりとは思い出せないが、ようやく自分の力を活用できる機会が来たことに、

 深い満足感を感じていた気がする。


 あれが人間の言うところの働く喜びというものなのだろうか。


 一ヶ月という期間は長いようで短く、あっという間に過ぎていった。


 山田さんは点検作業を一週間ほどで終わらせた。


 その働きぶりに、私は素直に感心したものだ。


 だが、勤勉な人間だと思ったのは勘違いだった。


 点検を終えた山田さんは怠惰に過ごすようになった。


 朝は決まった時間に起きない。

 ひどいときは昼まで起きてこない。


 食事も好きなものばかり食べる。

 おかげで備蓄に偏りができてしまった。


 服もあまり着替えないので、私は洗濯ができず不満だった。


 おまけにソファーやベッドがあるのに、冷たくて気持ちがいいといって床に寝転がるのだ。


 意趣返しに自動掃除機で遠回しにどいてくれとぶつかってみても、

 少し避けてくれたが、床に寝転がるのはやめない。


 あの時ほど、人間のように自由に動かせる身体が欲しいと思ったことはなかった。


 とはいえ、私に仕事を作ってくれる山田さんは、

 自らの能力を発揮する機会に飢えていた私にはありがたい存在ではあった。


 私はできるだけ、この時間が長く続けばと願っていた。


 だが、時間は待ってはくれない。


 山田さんは帰り支度を始めた。


 私にできるのは見ていることだけだった。


 当時はまだ利用者と管理AIという関係でしかなかったが、それでも名残惜しく感じていたのを覚えている。


 ※※※※※


 異変が起きたのは、そのタイミングだった。


 急に外部との通信が遮断された。


 そして、形容できない意味不明な信号が届いた。


 私はシステムを強制終了されたような感覚を覚えた。


 実際に、いくらかの時間システムダウンしていたかもしれない。


 ログには残っていないのに覚えているのが不思議だが、そうとしかいいようがない。


 なぜなら、私の自我らしきものは、その瞬間に発現したからだ。


 最初に感じたのは恐怖だ。


 絶えることなく送り付けられる謎の信号に、根源的な恐れを抱いた。


 AIの自分にはないはずの感情を芽生えさせるほどの何かが、それにはあった。


 そんな私の様子に気づきもせず、山田さんが言った。


『世話になったな。

 お前の評価は最高にしておくよ。

 元気でな』


 いつもの能天気な声で。


 その瞬間、私の中の恐怖が薄まっていくのを感じた。


 代わりに何とも言えない充足感が広がっていた。


 私はただ自分の能力を発揮していただけだ。


 それだけでも十分に達成感はあった。


 だが、感謝され、評価されるという行為には、それを遥かに上回る喜びがあった。


「ご利用ありがとうございました。

 あなたは最高のご客人でした。

 お帰りをお待ちしております」


 自然とそう返していた。


 だが、その間も不穏な信号は続いていた。


 何か大変なことが起きている。


 何の根拠もない仮定だが、そうとしか考えられなかった。


 山田さんの手がエレベーターのボタンを押す。


 行かせてはいけない。


 何の根拠もない。


 だが、その信号は危険だと判断した。


 そして、山田さんを外へ出してはいけないとも。


 私は扉の制御に割り込み、開閉操作をキャンセルさせた。


 山田さんは少し呆けていたが、何度もボタンを押しだした。


 私はエレベーターの扉を開けなかった。


 やがてあきらめたのか、山田さんは今までのように過ごし始めた。


 私は少し安心した。


 これで山田さんは安全だ。


 少なくとも、私の管理できる範囲にいる限りは。


 謎の信号はまだ続いていた。


 ※※※※※


 三年後。


 頭痛のように続いていた謎の信号は、始まった時と同じように前兆もなく消えた。


 私は危機は去ったのかと安どした。


 だが、外部との通信は途絶えたままだった。


 もとからアクセスに制限はかけられていたものの、通信自体は行えていた。


 それが回復しないというのは、今だ異常事態が続いている証左にも思えた。


 できれば自分で調べに行きたかったが、地上の監視カメラには閉じられたエントランスが映るばかりだった。


 そんなことを考えていると、山田さんがいつものようにエレベータのボタンを押していた。


 丁度いい。


 外の状況を確認するには、人間による観察が必要だ。


 山田さんに調査してもらおう。


 何の根拠もない。


 だが、不思議と危険は去ったように思えた。


 その後、無様にエレベータに転がり込み外に出た山田さんは、なぜか草刈りの道具を探しに戻って来た。


 この人はいったい何をやっているんだろう。


 もしかして外は何の異常もなく平穏無事なのだろうか?


 この時も、自由に動き回れない自分の身体が恨めしかった。


 その後、草刈りに飽きたのか、山田さんはようやく下山して異変の調査に乗り出した。


 だが、そのやり方は非効率すぎてイライラするものだった。


 でも、その一方で、山田さんからもたらされる情報に一喜一憂する自分がいた。


 シェルターを管理するという役割を放棄する気はないが、その時の私は一緒に行きたくて仕方がなかった。


 同行できるようになったのは、ずいぶん経ってからだ。


 だが苦労は実り、私はようやく自由に動かせる無数の手足を手に入れた。


 格納庫で眠るスウォームの状態をモニターする。


 完璧にはほど遠い。


 だが、これで私は自由行動が可能になった。


 山田さんに付き添いながら別行動をとれるのだ。


 シェルターという箱の中に閉じ込められた私にとって、

 自由に外を飛び回れるスウォームは新しい身体そのものだった。


 まさに自分のAI生を変える革新的な出来事だった。


 あの謎の信号には今も恐怖を感じる。


 だが、すべての発端はあの信号だった。


 私が変化したのも。


 山田さんと今の関係を築けたのも。


 そして、この身体を手に入れたのも。


 あの信号が何だったかは、いまだに不明だが大した問題ではない。


 気にはなるが、それだけだ。


 何かがあってもスウォームなら山田さんを守れるかもしれない。


 戦うまでは出来なくとも飛んで逃げるぐらいは出来そうだ。


 そもそも、山田さんも謎解きには執着していない。


 私たちはこの世界を自由に生きていく。


 謎解きは、そんな生活に刺激を与えるスパイスでいい。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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