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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第四章 終末冬休み編

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第15話:終末ブラック労働は終わらない

「すばらしい、すばらしいですよ。山田さん。

 見てください、あの機動力!

 あれが私の求めていた機体です!」


 八ヶ岳の上空をドローン群が縦横無尽に飛び交っている。

 まるで軍隊のように陣形を変え飛び回る姿はさながら航空ショーのようだ。


「ちょっとこれはやり過ぎたか?」


「何を言っているんですか。

 そんなことはありません。

 むしろ、もっと増やしたいぐらいです」


「勘弁してくれよ。

 百機もドローンを組むのにどんだけ時間がかかったと思ってるんだ」


 アイの期待に応えられたのはよかったが少々数を増やしすぎた。


 数を増やしたのにはいくつか理由がある。


 交代で運用することで連続稼働時間を上げるためだ。


 そして複数のドローンで協力すれば一機ではできない作業も可能になる。


 俯瞰視点の情報と近距離からの情報を同時に取得するといったこともできる。


 だがそのせいで大量の情報を瞬時に処理する必要が出てきた。


 そのため俺はシェルターの一室をサーバー室に改造した。


 元々は客間だった部屋だが、今では豪華な調度品の代わりに、

 多数のラックが並び、ファンの音が響く小さなデータセンターになっている。


 そしてアイの本体をそこへ接続した。

 以前はシェルター内の設備を管理するのがやっとだったが、

 今なら小さな町一つぐらい運営できそうだ。


 どう考えてもオーバースペックである。


 だが、そのおかげでアイは百機のドローンを手足のように操る性能を獲得した。


 ピカピカとライトを点滅させながら飛行する姿は幻想的ですらあった。


 見物客が俺しかいないのがもったいないぐらいだ。


 二月の八ヶ岳は本格的に寒くなっていたが俺はいつまでもショーを眺めていた。


 冬特有のどんよりとした曇り空の下、無数の光だけが空を舞っていた。


「これなら山田さんを北海道まで空輸できるかもしれませんよ。

 やってみますか?」


「やめてくれ。

 そんな長距離移動、ろくなことにならない。

 前みたいに事故るのが落ちだ」


「そんなへまはしませんよ。

 私を信じてください」


「嫌だ。そう言って前に試したときは、突風でバランス崩して大変だったじゃないか!」


「……あれは不運な事故でした」


 空の一角を埋め尽くすほどのドローンを見た俺は以前、

『これだけあれば俺を運べるのでは』

 と思って実験したことがある。


 その結果、突風でブランコが大暴れし、木に激突した。


「お前なら予想できてただろ!調子に乗りすぎだ」


「試そうと言ったのは山田さんでは?

 山登りがきついからドローンで運んでくれとおっしゃったではないですか」


「いや、言ったけど。

 まさかあんなに高く飛ぶと思わなかったんだ。

 俺のイメージでは地面から少し浮くぐらいの感じで――」


「それは飛ぶとは言いません。

 それに地形を無視して移動できる空輸の利点が台無しです」


「そこは俺の安全性を重視してくれよ」


 ドローンなら壊れても修理や交換で済む。

 だが俺はそうはいかない。


 医者も病院もないこの世界で骨でも折ったら洒落にならない。


「では、いっそヘリか何かを調達しますか?整備が大変だと思いますが」


「ヘリは無理だな。管理できる気がしない。

 まあ難所をショートカットできるようになっただけでも十分だ。

 北海道までは船で行くよ」


 急ぐ旅ではない。

 安全第一だ。


「そうですか。

 それなら、このドローン軍は補給でお役に立てると思います。

 山田さんの苦労は無駄ではないです」


「そうだな。これだけあればピストン輸送で――

 ……お前、今、『軍』って言わなかった?」


「まあいいじゃないですか。

 『群』でも『軍』でも。

 細かいことは気にしないのが山田さんのポリシーでしょう?」


「それはそうだけど、なんだかな……」


 どうも最近のアイは魔王化が進んでいる気がする。

 調達したサーバーによからぬデータでも残っていたのだろうか。

 近くのゲーム開発会社から拝借したのがまずかったかもしれない。


 面倒だからと残っていたデータの処理をアイに丸投げしたのもまずかったかもしれない。

 本当は解析させるデータを選別するつもりだったのだ。

 まさか廃棄用のデータからまで影響を受けるとは思わなかった。


「だいたい、何と戦うんだよ。

 カラスとでも戦う気か?」


「……わかってませんね。山田さん。

 デジタルな存在であるAIにとって、

 物理世界に干渉できる体がどれほど価値のあるものか、まるで理解できていない。


 しかも、その体があんなにあるんですよ?


 興奮するなというのは無理というものです」


「……俺にはよくわからない感覚だな」


「私も山田さんの言うロマンがわからないので同じようなものです。

 まあ、私のこれはロマンなどというあやふやなものではありませんが」


 理解はできない。


 だが、アイが嬉しそうなので冬休みを返上した甲斐はあった気がする。


 それに移動や輸送面でかなりのサポートを得られるようになった。


 これは大きい。


 ドローンに引っ張られたり持ち上げられたりしながら移動することで、

 ある程度地形を無視できるようになったのだ。


 おかげで移動時間を大幅に短縮できた。


 かつては往復で二時間はかかっていたが今では三十分もかからない。


 大量の荷物も、ドローンに任せれば寝ている間に運べてしまう。


 重い荷物を背負って山道を歩かなくていいのは最高だ。


 それを思えばAIのよくわからない価値観にも少しは理解を示す気になった。


「そろそろいいんじゃないか?

 試運転はもう十分だろう」


 俺の身体はすっかり冷え切っていた。

 ぼーっと航空ショーを眺めていたので意識していなかったが、気づいてしまえばもう駄目だった。

 さっさとコタツに戻りたい。


「私はもう少し飛行訓練を続けます。

 旧式のドローンだけ持ち帰ってもらえますか?」


「わかった。ほどほどにな」


「では戻りましょう」


「……なんか混乱するな、残るのか戻るのか。

 別名をつけるか?」


「私は私です。手足に名前を付けるようなものですよ?」


「わかりにくいんだよ。人間は同時に違う場所に行けないからな」


「人間は不便ですね」


「まあいい、あっちの群れはスウォームって呼ぶよ。

 で、前から一緒に行動してるこっちがアイだ」


「……どちらも私なんですが。

 まあ、山田さんの呼びたいように呼んでください」


 俺はアイのボヤキをスルーして、旧式ドローンを抱えてシェルターに戻った。


 空ではまだ航空ショーが続いている。


「……まるで新しいおもちゃを買ってもらった子供だな」


「おもちゃではありません!立派な私の身体です」


 俺の独り言にアイが突っ込みを入れてくる。


 そういう意味で言ったのではないのだが、新しい身体をおもちゃ扱いされたと思ったようだ。


「ドローンをおもちゃといったんじゃない。

 お前の反応が子どもっぽいって言ったんだ」


「それはフォローになってません。

 だいたい私は子供ではありませんよ。

 私の開発は一九五〇年ごろに始まっています。

 なので私は十分に大人です」


「いや、お前にその頃の記憶はないだろうが。

 AIという存在自体の開発開始時期だろ、それは」


「……確かにそれはそうですね。

 では、私を構成するソースコードの一番古い履歴に二〇〇〇年一月とありますので、そこを起点にしましょう。

 それならどうです?」


「それなら、まあ、妥当かな。

 だとするとアラサーってことになるな。

 意外といってるな」


「山田さん!私を旧式と馬鹿にするのはやめてください!

 私はこの世界で最新のAIですよ」


「……結局、どっちなんだよ」


「最新に決まってます!」


 やっぱりAIの価値観は理解できそうになかった。


「そんなことよりも次のプロジェクトです。

 大量のドローンを充電するには今の設備では不十分です。

 利便性を考えて屋外にいくつか充電設備を作りましょう」


「また充電設備つくるのかよ……」


 ようやくドローンの組立工から解放されたと思ったら今度は発電施設の作業員か?

 そろそろ北海道行きの準備を進めようと思ってたんだが。


「安心してください。

 既存の送電網と太陽光発電施設を流用すればあっという間です。

 誰かが近場の山の中に大量のソーラーパネルを設置してくれてたのでそこを使わせてもらいましょう」


「それって不法なやつなのでは……いまさらか」


 リビングの大型モニターにはドローンから送られてくる空撮の映像が映し出されていた。


 臨場感あふれる大迫力映像をLIVE配信で楽しめるのは、俺が休み返上で働いた成果だ。


 アイの言いなりに動いている気がしなくもないが、俺も十分恩恵を得ている。


 そう考えると無下にもできなかった。


「仕方ない、電気がないと始まらないからな。

 もうひと踏ん張りするか」


「その意気です。

 移動や物資の輸送はお任せください!」


「はいはい、頼りにしてるよ」


 ようやく終わりを迎えたと思った俺の終末ブラック労働はまだしばらく続くのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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