表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第四章 終末冬休み編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/57

第14話:よく考えたら休みがない

 三日に一回は外出するという宣言の翌日。


 俺はさっそくドローンの改造に着手していた。


 昨日は外に出たのだから今日は出なくても問題ない。


 というか雪像づくりで慣れない動きをしたせいで筋肉痛なのだ。


 本当はコタツでゴロゴロしていたいところだ。

 だが、アイの不興を買って電気を落とされでもしたら真剣に死活問題だ。


 まあ、アイがそこまでするとは思えないが最近の人間臭い言動を見ていると

 やるときはやるという凄みのようなものを感じる。


 下手な真似は出来ない。


 俺はコタツの上でノートPCを立ち上げた。


 というわけで、まずは要件書の作成だ。


 俺はドローン開発の専門家ではない。

 だが、モノ作りの手順はそう変わらないと思っている。


 というかこういうやり方しか知らない。

 なのでシェルターの設備設計をした時と同じようにクライアントであるアイに要望を聞き取りしていた。


「じゃあ、どういう風にしたいか教えてくれ」


「もう一本アームを増やしてほしいです。

 アームが増えればその分作業効率が上がります」


 いきなり難題が来た。


 今のドローンはモーターとバッテリーが搭載された胴体を中心に四つのプロペラが伸びており、

 胴体の下部の左右に二本のアームがついている状態だ。

 そこにアームを追加するのは機体のバランスを大きく壊す改造になる。


 重心も変わるし重量も増える。

 単純にアームを一本付ければ終わりという話ではない。


「そのアームの先端にカメラをつけてください。

 細かい部分を確認する際に前面部のカメラだけでは、

 ドローン自体の位置を調整する必要があって不便です」


 そんな丁度いい大きさのカメラあったかな。

 探しに行けばありそうだけど。


「それから……」


「ちょっと待て。

 その調子で要望を追加されたら来年まで完成しないぞ」


「……まずはクライアントの要望をすべて聞くべきでは?

 工数の話は開発側の仕事です」


「いや、それはクライアントがいうセリフじゃないだろ……」


 俺の切実なぼやきもむなしく、アイの要望は続いた。


「まだ途中なので続けますね。

 次にカメラのレンズを曇り防止用のものに変えていただいて……」


 アイの要望は一時間以上続いた。


 途中から俺は議事録を取るのをやめた。


 単純に面倒になったというのもある。


 だが、途中から、


『通信が不安定』


『雨に弱い』


『雪が付着する』


『アームの可動範囲が狭い』


 といった話になり、


 最終的には単なる愚痴大会になっていた。


「で、ですね、一番の問題点は稼働時間のバッテリーのもちの悪さです。

 人間に例えるなら一時間おきに食事をとったり睡眠をとるようなものですよ。

 不便で仕方ありません。


 それから収音マイクの感度も悪すぎです。 

 私が時折おかしな発言をしてしまうのは聞き間違いが発生しているせいです。

 これでは私が老人みたいではありませんか。

 もっと高性能なものに交換すべきです。


 あと……」


「……俺はいつまでこれに付き合えばいいんだ」


「ちょっと、山田さん、聞いてますか?

 あとで要望書としてまとめますが、

 開発者としてクライアントの生の声をしっかり受け止めてください」


「AIの生の声ってなんだよ……」


 結局、アイの愚痴大会が終わったのは夕方だった。


 まったく、どれだけ不満をため込んでたんだよ。


「色々と言ってしまいましたが、聞いていただきありがとうございました。

 なんだかメモリをデフラグしたみたいに晴れやかな気分です。

 三日に一度でいいのでまたお願いします」


「もう勘弁してくれ。外に出る方がましだ」


 俺と一緒に外に出て活動するようになってからはアイの方から話しかけてくることも増えていた。

 だが、基本的には俺の質問に対し回答するというのがアイのスタンスだ。


 俺の方から聞かなければアイは自分の考えを口にできなかったのかもしれない。


 ※※※※※


 翌日、俺は気晴らしに外へ出ようと思っていた。

 だが、昨日のアイとの約束を無視するわけにもいかない。


 そこで、とりあえず、要望書に目を通すことにした。

 着手するかは別にして概要は把握しておいた方がいい。


 それは実に丁寧に要望と不満点をまとめた資料だった。

 要所要所でイラストが活用され、要望書なのに続きが見たくなる引きがあった。


 そう、なんというか、あからさまにマンガを意識した造りになっていたのだ。

 少なくともビジネスのフォーマットではない。


 そして、アイが自分を擬人化したと思われるキャラクターは某マンガの人造人間によく似ていた。

 本編では見たこともない可愛らしい表情にぐっと来た。

 この子の要望をかなえてあげたい、そんな気持ちにさせられた。

 AIっぽい文章なのに逆にそれが味になっているのが恐ろしい。


 だが、こんなものをプレゼンに使ったら著作権的に一発アウトだ。

 なんというAIの無駄遣いだろう。


「どうですか?山田さん。私の作った資料は。

 なかなか面白い仕上がりになっていると思うのですが」


「まあ、面白いのは確かだけど。

 内容がな……。

 全部実現すると空を飛ぶタコみたいになるぞ。

 それかUFOだな」


「未確認ではありませんのでUFO(未確認飛行物体)は適切な表現ではありませんね。

 空飛ぶタコというのはイメージしやすくていいです。

 タコは知能も高く、器用です。

 飛行能力まで獲得できれば、生物としてかなり完成度が高いのではないでしょうか。

 私の目指す最高のドローンのモデルにぴったりです」


「お前は何を目指してるんだ。

 AIなら現実を見ろ。

 ドローンの開発会社が降参するようなスペックだぞ。


 俺には無理だ。

 プラモデルぐらいしか組み立てたことないんだ。

 新しい機体をゼロから設計するとか無理ゲー過ぎる」


「山田さん、何も全部を山田さんがやる必要はありません。

 思い通りに動く手と材料があれば加工は私がやります」


「お前が?」


「はい。

 設計も加工も学習できます。

 時間だけはありますから」


「いや、だからその加工する手がないんだろうが」


「だから、まずは、もう少し細かい作業ができるアームをつけてください。

 手術用のアームとかいいですね。

 それとドローンも増やしてください。

 そうすれば実質手が増えたのと同じようなものです」


「……簡単に言ってくれるがそんなのどこにあるんだよ。

 要望書の後ろの方に、この辺りで材料を調達できそうな場所をまとめておきました。

 明日から回収に行きましょう。

 一日あれば行って帰ってこれる距離です」


 三日に一度は外に出る。

 明日はちょうどその三日目だ。


「お前、そこまで考えてたのか……。

 外出して素材を集めて二日作業してまた素材を集めに行く……って休みがないじゃないか!」


「提案したのも承諾したのも山田さんですよ」


「そうだけどさ!あの時はここまで大ごとになるなんて考えてなくて」


「ふふ、いつから勘違いしていたんですか。

 休めるなんて一言も言ってませんよ」


 どこかのボスキャラみたいなことを言いだした。


 そうだ。


 こいつはいつの間にか俺の運んだマンガを全部読んでいた。


 ボスキャラの台詞も、

 無茶な開発計画も、

 世界征服の発想も、

 だいたい全部そこから学んでいる。


 俺はなんて余計なものを読ませてしまったんだろう。


「まあ、天気が悪くて外に出れない日もありますから、外出は三日置きじゃなくてもいいですよ。

 それに辛いのは最初だけです。

 人間にはどんな環境にも適応する強さがありますから」


「いいこといった風に誤魔化すな。

 俺はそんな適応したくない!休みを要求する!」


「……山田さん。

 私は山田さんのためを思って言ってるんですよ。

 ドローンが壊れてしまったらどうするんです?

 今までのようにサポートできなくなりますよ。


 それにドローンの質が向上すれば山田さんのためにもなるんです。

 ね、一緒に頑張りましょう」


「お前、その言い方……」


「どうかしましたか?

 私は信じてますよ。山田さんならわかってくれると」


 社長だ。


 細部は違う。

 だが本質は同じだった。


『会社のため』


『君の成長のため』


『みんな頑張っている』


 あの男はそう言って人を動かしていた。


 俺がこのシェルターに来ることになった時にも使われた手口だ。


 いったいいつの間にこんなやり方を覚えたんだ。


 メールの解析を頼んだ時に学習したとでもいうのか。


 俺を動かす一番効果的な説得方法を。


「わかった。行くよ」


「おお、行ってくれますか。

 いや、私はきっとそう言ってくれると信じてました。

 山田さんはめんどくさがりですけど約束は守る人ですものね」


「……行くからその感じやめてくれよ。

 なんか社長と一緒にいるみたいでいやな気分になる」


「そうですか。

 社長モードはお気に召しませんか。

 今までのやり取りから高確率で山田さんにお願いを通せる効果的なモードなんですが」


「削除しろ!そんなモード」


「……」


「冗談です。そんなモードはありません」


「……いや、その方が嫌なんだけど」


 どうやらアイは俺のせいで変なものを学習してしまったようだ。


 次からは解析させるデータをよく選ぶことにしよう。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

面白かったら、ブックマークや評価をいただけると、執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ