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終末世界で自由になったおっさんの放浪記  作者: 一月三日 五郎
第三章 素人探偵編

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第11話:探すのをやめた時、見つかる事もよくある

 人生初の海釣りは釣果ゼロという結果に終わってしまった。


 当然リベンジを考えたのだがアイから待ったがかかった。


「大型の低気圧が近づいてます。

 かなりの降水量が見込まれるため海上に出るのは控えたほうが賢明です」


「雨か。確かに雨の日に海に出るとか事故る予感しかしないな。

 やめとくか」


 台風の日に畑を見に行った老人が亡くなるなんてニュースもあるぐらいだ。

 雨の日に海で釣りなんて死亡フラグ待ったなしだろう。


「でも、雨の中を何日もかけてシェルターへ戻るのはもっと嫌だな。

 この辺をぶらつくか」


「いいですね。新たな発見があるかもしれません」


 拠点づくりの時に滞在していたので正直いまさらという感じもする。


 だが、アイの言葉が妙に気になった。


 いつものように見落としている何かがあるのかもしれない。


 見えているのに気づいていないもの。


 思い当たる節はない。


 でも、まあ、なんというか、暇だし。


 たまにはこういうのも悪くないだろう。


 そういうわけで、俺は傘を手に周囲を散策することにした。


 移動でも物資集めでもない。


 純然たる暇つぶし。


 なんとも贅沢な時間の使い道だった。


 ※※※※※


 海岸沿いを目的もなくただ歩く。


 空は曇り、今にも雨が降り出しそうだった。


 海はなんだか濁って見えるし、あまりいい景色だとは思えなかった。


 晴れてたらよかったのにと思ったが、晴れていたら散策しようなんて話にはならなかっただろうから、

 無意味な仮定だ。


 そうこうしているうちに雨が降り出した。


 海釣りはやめておいて正解だった。


 遠くに小さく見える充電拠点のブルーシートが風にたなびいている。


 しっかり固定したつもりだったが後で見に行った方がいいかもしれない。


 ……なるほど、台風の日に畑を見に行く人が絶えないわけだ。


「なあ、充電拠点は大丈夫だよな?波で沈んだり流されたりとかしないよな?」


「風や波の影響を受けにくい位置に係留してますが、絶対はあり得ません。

 最悪沈むこともありますが、何ともないかもしれません」


 要するに、やれることはやったが確証はないということだ。


「仕方ないか。低気圧が通り過ぎるまでついてるわけにもいかないしな」


「その通りです。下手に拠点を守ろうとして山田さんが海に落ちては大変です。

 ここは割り切って待ちましょう」


「そうだな。三年間放置されてる船が残ってるんだ。

 つい昨日俺が固定した拠点が流されるわけないか」


 あまり気にしてもしょうがない。


 今日は適当にぶらぶらしてその辺のホテルに泊まろう。


 しばらく歩いているとどこかで見たような踏切があった。


 こんなところに来たことはないのだが、妙に見覚えがあった。


「なんだろう、ドラマかなんかで見たのかな……」


「この踏切は某アニメのオープニングに登場する有名な観光スポットです」


「おお、思い出したぞ。あのバスケ漫画で有名な踏切か。

 うわあ、これはすごいな。

 意図せず歩いてて遭遇するとか。

 何か運命を感じるな。散歩もしてみるもんだ」


 予期せぬ発見に俺のテンションは最高潮だった。


「そもそも湘南は観光地として有名ですから当然では。

 それに漫画やアニメの聖地というなら、

 アキバの方がそういう場所は多かったのではないですか?」


「……そうだな」


 ぐうの音も出なかった。


 よく考えれば、これまでも観光地らしき場所はいくらでも通り過ぎていた。


 ただ、その時の俺は目的地へ向かうことしか考えていなかったのだ。


 アイの指摘は完全に的を射ていた。


 そう考えると、大袈裟に感激してしまい少々気恥ずかしかった。


「しかし、何だな、踏切が上がっててよかったな。

 降りてたらくぐらなきゃいけないところだ」


 俺は何気なく線路の方を見た。


 踏切のずっと先、ホームを通り過ぎた先に電車が止まっていた。


「おお、あれが江ノ電ってやつだな。

 ちょうど通り過ぎたところだった……の……か」


 そこまで口にして俺は気づいた。

 電車が途中で止まっている異常さに。


 ※※※※※


 俺は人類消失の謎に迫る気はない。


 だが目の前にこうも気になるものがあれば調べざるを得ない。


 何しろこれは結構なヒントだと思うのだ。


 もちろんこれで劇的に何かがわかるわけではないだろう。


 だが一つ、判明しそうなものがある。


 それは、この現象がいつ起きたのかだ。


 大まかな時期は以前、新聞を調べた時に判明している。


 二〇二六年七月二十七日。


 少なくともその日の朝、朝刊を店員が店頭に並べた頃まではコンビニは営業していたはずだ。


 その後、夕刊が並ぶ前に何かが起こり、人類は消えた。


 これが今わかっている事実だった。


 だが目の前にある電車はもっと正確な時間を教えてくれるかもしれない。


 日本の電車は正確だ。


 数分遅れるだけで謝罪のアナウンスが流れるほどに。


 そんな電車が線路の途中で止まっている。


 何かが起きて停車した後に人が消えたのか。


 それとも人が消えた結果、安全装置が作動したのか。


 それはわからない。


 だが、調べれば何かが見えてくる気がした。


 ※※※※※


 勢い込んで乗り込んだ電車には当然誰も乗っていなかった。


 乗客も。


 車掌も。


 荷物すらなかった。


 観光地の電車なら空き缶やパンフレットが忘れられていてもおかしくないはずだ。


 だが、コンビニの袋一つ見当たらない。


 まるで車内清掃が終わった直後みたいに整然としている。


 それが不気味だった。


 どういうことなのかわからない。


 人が消えること自体は今さらだとして、荷物まで消えているのはどういうことだ?


 そこで俺は今まで見過ごしてきた違和感に気づいた。


 よく考えれば道にも店にもホテルにも、手荷物が一つも残されていなかったのだ。


 人だけではない。


 その人が身に付けていたであろう荷物まで消えている。


 その一方で店の品などは残っている。


 まるで何かが消すものと残すものを選別したかのようではないか。


 人だけを取り除き、それ以外を残す。


 まるで人のいないリアルなジオラマでも作ろうとしているみたいだ。


 とにかく自然現象では説明がつかない。


 誰の仕業なのかはわからない。


 超能力者。


 未来人。


 宇宙人。


 あるいは神様。


 とにかく、何者かの意思を感じる。


 そして、それ以上に気になることがあった。


 なぜ俺だけが残されたのか。


 見逃されたのか。


 放置されたのか。


 それとも――


「山田さん、雨が強くなってきました。

 どこか雨宿りできる場所に移動しましょう」


「そうだな。ここにはもう手掛かりはなさそうだ」


 傘を打つ雨粒が勢いを増していた。


 足元の水たまりをよけながら歩き、ホテルを探した。


 今は考えをまとめるための時間が欲しかった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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