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【連載版】過労聖女は追放をお望みです!~ 寡黙な護衛騎士がついて来る、なんて困ります! ~  作者: 出口もぐら
第一章

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4話 護衛騎士様の表情の違い

 下町の出来事から翌日。


 私はいつものように食堂へ足を運んでいた。そこはいつにも増して賑やかだ。真新しいローブに身を包んだ、見慣れない面々。ローブの色や刺繍で、彼女たちが「見習い聖女」だと分かる。


 私は食事を摂りながら、その様子を(うかが)っていた。頭の片隅で、耳にした話を思い出す。


(見習い聖女が数人、教会入りしたと神父様がコソコソと話していたけれど……。本当だったのね)


 私は視線を横にずらした。彼女たちを案内しているのは神父様だ。これからの教会宿舎での暮らしや、規律を教えているのだろう。それは癒やしの役目を担う同僚が増えた、と言っても過言ではない。


 そこでふと、気になることがあった。


(教会は大役を担っている大聖女様の負担を減らすために、神様が数多(あまた)の聖女を遣わせているって言うけれど……)


 それは教会の方便なのか、定かではない。しかし、その一方で「見習い聖女」が「聖女」として教会に残ることは少ないようだ。聖なる力が発現しても一時を境に、傷を癒やせなくなり、ぱったりと力が消えてしまうことが多いから。それはまるで、力の源が枯渇してしまったようだという。


 その現状を補うかのように、また次の「見習い聖女」が教会に入る。――恐らく、彼女たちもその類だろう。


 神父様は彼女たちに微笑みかけると、ゆっくりと口を開く。


「君たちには期待しているよ」

「はい、神父様」

「昨日、一人の聖女が力を失い、教会を去って行ったからね」


 神父様の言葉を聞いた彼女たちは青ざめていた。神父様は穏やかな口調とは裏腹に、まるで彼女たちを試すかのように厳しい現状を告げたのだ。


 その光景に、私は呆れたと言わんばかりの溜め息をつく。


(あの神父様、おどかすような事を言うのよね……。聖なる力が発現したことを名誉だと、考える人が多いのに……)


 貴族や王族以外で、それなりの生活が保障されるのは教会に身を置く者だけだ。――あと商人。それと爵位を買った商人。嫌な記憶が蘇るところだった。私は考えるのを止めようと、首を横に振る。


 聖なる力が発現すれば、どんなに貧しくても最低限生活が保障される。それで救われる人がいるのは事実。ただ、その先で待つのは私のような無休労働の奉仕。


「分からないわよね、そんなこと。聖なる力なんて……まさに神のみぞ知る」


 私は誰にも聞こえないように、ぽつりと呟いた。


(まぁ、私はいつも通りよ。少しずつ、追放計画を進めて行くだけ。もし、力を失ったとしても、都合がいいだけだもの)


 自分の中でそう結論付け、目の前の食事に集中しようと意気込んだ。

 すると、その時――背後から掛けられた声があった。


「聖女シャリア。隣よろしいか」

「むぐぅ、……どうぞ」


 固いパンを無理やり食道に流し込み、どうにか声を発した。――それはどこかで見た光景だろう。隣を見やれば、食事を乗せたトレーを手に佇むガルヴィン様がいた。


(ガルヴィン様、また席を探して――)


 困っている彼を目にして、ふっと口元が緩むのを感じた。


「今日はいつもより賑やかですね」

「そう、か」


(……いつも口数が少ないけれど、不思議と嫌な感じではないのよね)


 ちらり、と彼を見やる。黙々と食事を摂る姿はいつもと変わらない。そんなガルヴィン様の姿に、私は心のどこかで安心した。――それが、追放計画とは真逆の感情であると気付かずに。


 私はパンを片手に一瞬止まり、窓の外へ視線を投げた。


(うーん、何か世間話を……世間話)


 何か、話題を考える。ようやく頭に浮かんだのは、ありきたりな話題だった。

 私は視線を戻し、沈黙を破る。


「そう言えば、ガルヴィン様はどうして教会へ?」

「どうして、とは?」

「いや、あの……別に深い意味はないんですけれど」


 口に運んでいたスプーンを止め、私を見やったガルヴィン様。反対に、彼から尋ねられた問いかけに、私は上手く言葉が出て来なかった。それを誤魔化すように、聞かれてもいない身の上話を口にしてしまう。


「私は聖女の力が発現したから、教会入りしたので……。って、当然ですね」


 聖女であれば、それは誰でも想像できることだろう。私は困った笑みを浮かべ、肩をすくめた。そのまま、言葉を続ける。


「ガルヴィン様は何か理由がおありなのかと……。その、護衛騎士になった理由……、とか」


 すると、ガルヴィン様は食事を中断したまま、真剣な表情を浮かべた。私の問い掛けに、彼は間髪いれずに――。


「理由なら、ある」


 しっかりとした口調で紡がれた言葉。じっと、私を見つめる彼の瞳。それはどこか意味深にも思えた。しかし、私の思考はガルヴィン様の表情に気を取られていたのだ。


(あれ……、今……笑ったような?)


 いつもガルヴィン様は寡黙で、表情があまり変わらない方だと思っていた。でも、本当の彼は私が思っているよりも――。そう思った瞬間、心の中がむずがゆい感覚に襲われる。


 すると、ガルヴィン様はふっと目元を緩ませて、口を開いた。


「あなたは、よく食べるな。とても良いと思う」

「……こ、れはっ! お恥ずかしいところを……」


 彼の視線が私の食事に注がれていると分かり、慌てて声を上げた。恥ずかしさのあまり、赤面する私。

 それは聖女が食べるには多すぎるくらいの量が盛られた皿だ。――心機一転、しっかり食事を摂ろうとした結果。癒やしの祈りを捧げるための体力をつけようと、ここまで食事量が増えたのだ。


 しかし、ガルヴィン様はそんな私を目にして――。


「いや、そんな意味で言ったんじゃない」


 少し残念そうに、そう語った。それから、彼は話すことなく――。


(あ、黙ってしまった……せっかく楽しくお話できたのに。少し、しょげてる……。ガルヴィン様って、意外と分かりやすいのね)


 私はくすり、と笑って食事を再開する。ガルヴィン様は私が食べ終わるまで、待っていてくれた。


 ◇


 そうして、食事を終えた私とガルヴィン様は教会の通路を行く。

 すると――、唐突に掛けられた声があった。


「なんだ、その目付きは。なんと態度の悪い護衛騎士だ。どうりで……、脅された司祭がいたと聞いたぞ」


 聞き捨てならない言葉だ。振り返ると、そこに佇んでいたのは司祭様。声音と態度から、ガルヴィン様に敵対心を抱いていると分かる。――教会ではよくあることだ。出世できない鬱憤や、派閥のストレスを聖女や護衛騎士に当たり散らす者もいる。


 私は咄嗟に、とぼけた様子で司祭様に声を掛けた。


「えっ……? 私にはそう見えません。寧ろ、彼は護衛という任を立派に務めています。真剣な眼差しです」


 すぐさま、そう答えた私に司祭様は驚いたようだ。まさか、聖女が言い返すとは思ってもみなかったのだろう。


「そ、そうなのか……? まぁ、聖女がそう言うのであれば――」


 口ごもりながら、そそくさとその場を離れて行った。


 完全な言いがかりだ。「脅された司祭」というのは恐らく、昨日の下町の一件。ガルヴィン様に睨まれたことが気に食わなかった、あの司祭様のことだ。彼が司祭様たちの間で情報共有でもしたのだろう。――ガルヴィン様のような聖女に堅実な護衛騎士は、司祭様たちにとって目障りな存在らしい。


 私は不服と言わんばかりに、大きく鼻を鳴らした。すると、その様子を目にしたガルヴィン様は申し訳なさそうに眉を下げる。


「聖女シャリア。気を遣わせてしまった。俺のせいで、すまない」

「えっ!? いいえ、私は本当のことをお伝えしたまでです……!」


 見るからに気落ちした彼を、私は慌てて励ました。


(彼の表情の違い、他の人には分からないのかしら……? こんなにも表情豊かなのに)


 そう思った矢先、ひそひそと囁き声が聞こえてきた。


「ねえ、また……あの護衛騎士様」

「ええ……。いつも無言で睨んでるみたいで……。何だか怖いわね」


 他の聖女たちだ。彼女たちの視線がガルヴィン様に注がれているため、「怖い」というのは彼のことで間違いないだろう。


(あら……? 前言撤回した方がいいのかしら……?)


 どうやら彼の微妙な表情の違いは、私にしか分からないようだ。


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