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【完結】過労聖女は追放をお望みです!~寡黙な護衛騎士がついて来る、なんて困ります!~【連載版】  作者: 出口もぐら
第三章

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28話 策略と戦略、あと美味しい食べ物

 ◇


 私とガルヴィンはエリオット様のもとへ向かった。そこで目にしたのは、エリオット様が先陣を切り、皆をまとめている姿。町の人に身分を明かしてはいないものの、国からの使者として振る舞っている様子だった。


 そんなエリオット様と彼の従者たち、それに先々代の聖女として大先生が談話室へ集った。皆が席に着き、これから押し寄せる瘴気の波への対策を練るのだ。要するに作戦会議。


 エリオット様は瘴気の浄化に関する私の話を聞き、小さく頷いた。――私は瘴気を癒やせたのは一度だけであると告げたのだ。


「なるほど……それでも、やってみる価値は大いにあります」

「ええ、私も……できることはやってみようかと思います」


 私の言葉に、大先生は「一丁前になったもんだ」と鼻で笑った。けれど、彼女の満足げな表情を目にして、私はどこか誇らしい気持ちでいっぱいになる。

 エリオット様は話を戻すかのように目配せをして、口を開いた。


「ただ、懸念点があるとすれば魔物の存在です」


 彼の言葉通り、瘴気が濃くなればそこから魔物が生まれ()でる。それは共通認識で間違いないだろう。

 今は薄い瘴気の波だが、これから徐々に濃くなってくることは容易に想像できる。そうなれば、この国に魔物が押し寄せることも同じで――。皆、想像した光景に顔を青くする。


 けれど、陰鬱な空気を一掃する一声が上がった。


「そのために、俺がいる」


 ガルヴィンの力強い言葉に、安堵感を抱いた者は多いだろう。この場の誰よりも魔物と対峙した経験を持ち、剣の腕も申し分ない。ただ、彼の扱う剣の作りが陳腐、という点が不安要素だろうか。

 すると、エリオット様はガルヴィンに視線を向けると、笑みをこぼしたのだった。

 

「ふっ、そうでした。予言では、あなたは聖女に仕える英雄でしたね。剣も、鎧もそれに応じたものを用意させますので、ご安心ください」


 彼の言葉に、従者である騎士たちも力強く頷いた。魔物に関してはガルヴィンを筆頭に、彼らに任せておけば対処できるだろう。

 ただ、私の中で引っかかった言葉があった。私はエリオット様に向けて、棘のある言葉を口にした。


「エリオット様。彼が私に仕えるだなんて、それは違います」

「俺は光栄だが?」

「もう、ガルヴィンは黙ってて!」


 思わぬ横やりが入ってしまった。私は眉間に皺を寄せて、しかめっ面を晒した。それに相反するかのように、ガルヴィンは顔に喜色を滲ませている。

 こんなやり取りに、大先生とエリオット様がにやけ顔を見せたのが、私の羞恥心をさらに刺激した。私は「もう!」と一際大きく声を上げ、ガルヴィンを(いさ)めたのだった。


 するとそこで、騎士たちが同調するように声を上げた。


「我々も微力ながら、力添えを」

「ありがとうございます……でも――」

「力不足は否めませんが、シャリアさんが癒やしの祈りを捧げる間の援護くらいならできるでしょう」


 心強い言葉だ。彼らの強い意志を汲み取って、私は言い掛けた言葉を呑み込んだ。

 ――私のせいで、彼らに犠牲が出ることを恐れている。そんな責任、負いたくないというのが本心だった。


 気を取り直して、次の言葉を探した。

 私は小声で「あのぅ」と続けた。


「可能であれば、食べ物をたくさん用意して下さると……」

「………………はい?」


 エリオット様の素っ頓狂な声が会議室に響いたのだった。皆の視線が一斉に注がれる。ただ、ガルヴィンだけは「そうするのが正解」と言わんばかりに、力強く頷いていた。

 私は気まずい空気を感じながらも、恐る恐るその理由を告げた。


「その……瘴気を癒やすと、物凄い疲労が押し寄せてくるんです。それに、とてもお腹が空いて……」

「なるほど。聖女の力は有限なのですね」

「そうです」


 話の分かる王子で良かった。ここで初めて、私の中のエリオット様の株が多少上がった。――これで、遠慮なく聖女の力を振るえる環境が整った。


 そうして、次に発言をしようと手を挙げたのは大先生だった。彼女は溜め息をつくと、辟易とした表情で尋ねた。


「瘴気の発生源は不明というのは本当かい?」

「ええ」


 その問いに答えたのはエリオット様だ。

 私は大先生の言葉に息を吞む。――瘴気の発生源。瘴気の波の根源だ。それを絶たない限り、瘴気の波は消えないだろうと想像がつく。発生源は不明、けれど私には思い当たることがあった。


(発生源は恐らく――あの国の中枢。……そんな気がする)


 憶測を語るのは今ではない。私はそう結論付け、口を閉ざしたのだった。

 それから、大先生は考え込むような仕草をした後、今回の作戦で達成すべき事項を告げた。


「本来ならば、発生源を癒やして初めて浄化が完了となるが……。今は瘴気の波を癒やし、流行り病の感染拡大を抑制することだね。それと一刻も早く、汚染された空気と土壌を浄化すること。これに尽きるだろうさ」


 大先生の言う通り、現時点で瘴気の発生源を癒やす、というのは優先順位が低い。発生源を絶つのは今後、要相談だろう。

 瘴気は自然災害のようなもので、完全に消し去ることはできない。今回の瘴気の波を私が癒やしても、またどこか違う場所や国で発生するものだ。――それを癒やす義務なんて私にはない。


 エリオット様は補足するように、大先生の言葉を引き継いだ。


「瘴気の波は言葉通りです。第一波、二波と回数を追うごとに瘴気が色濃くなって押し寄せます。けれど、それがずっと続く訳じゃない」

「それをしのげばいいんですね?」

「そうです、シャリアさん。西の方角から瘴気が広がっていますから、可能な範囲だけでも――」


 互いに視線を交わし、強く頷いた。

 瘴気の「波」というからには、強い波と弱い波がある。それが瘴気の濃さなのだろう。自然災害であるのならば、ずっと強い波が続く訳ではないという理屈も理解できる。


「分かりました! やってみます……!」


 私は大きく声を上げたのだった。すると、ガルヴィンは席を立ち、私の後ろに寄り添った。それはまるで私を守るような――。

 皆がどうしたのかと見守る中、ガルヴィンは平然と告げる。


「シャリアの護衛は俺がする」

騎士(シュヴァリエ)よ、それは……」


 魔物対策の戦力の分散になり得るだろう。エリオット様が言葉に詰まるのも頷ける。

 けれど、ガルヴィンはこともなげに言葉を続けた。


「そもそも、魔物を任せておけと言ったのは、シャリアに近付けさせないためだ。そうでなければ、俺は彼女を連れてこの国を出る」

「ひょえっ――」


 一気にざわつく談話室。私も声を上げたひとりだ。――大先生はおもしろいものを見たと言わんばかりに、声を上げて笑っている。

 あまりにも強引な要求の通し方だ。けれど――。


(ガルヴィンなら、やりかねない……!)


 そう思わせるには十分だった。

 ガルヴィンの発言を受けて、おろおろしている私を目にしたエリオット様。彼はガルヴィンの言葉が「本気」であると理解したようだ。肩をすくめた後、了承を示すかのように大きく頷いたのだった。


「――分かりました」

「ああ」


 ぶっきらぼうに返事をしたガルヴィン。――彼はどこまで私に対して盲目なのだろう、と呆れ半分、嬉しさ半分という複雑な心境だ。


 エリオット様はまとまった作戦を反芻し、最後にひと言、こう告げた。


「シャリアさんと共に、この国をお願いします」

「それは違います、エリオット様」


 即座に声を上げたのは私だった。

 驚いたように言葉を失っている彼に向かって、私はその先を告げる。


「この国のためだとか、民のためだとか。そんな大それた理由、私にはありません」


 そう、私はシャリアという名前の下町に住まうただの市民。薬草を学ぶために日々奔走する大先生の弟子だ。

 私はそこで言葉を切って、温かな日々を思い出す。次に発した言葉は、私の本心だった。


「でも、良くしてくれた人たちや、頑張っている人たちがいるから――私の生活を守るために瘴気を浄化するんです」


 理由なんて、これで十分。私は利己的な人間だ。だから、聖女だとか変に持ち上げないで欲しい。とエリオット様に告げた。この発言が不敬だと、咎められても一向に構わない。


 けれど、エリオット様から返ってきた言葉は感嘆にも似た呟きだった。

 

「ああ、やっぱり……あなたは――」


 羨望と敬慕の念に満ちたエリオット様の眼差し。――途端、ぞわぞわとしたものが私の背筋を這った。いつも飄々とした王子の本心が垣間見えるだなんて、鳥肌ものだ。


「違いますよ!? 私の話、聞いてました!? 私を勝手に『善人』にしないでください!」


 私は力の限り、叫んだのだった。


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