表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】過労聖女は追放をお望みです!~寡黙な護衛騎士がついて来る、なんて困ります!~【連載版】  作者: 出口もぐら
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/32

22話 予言の聖女って、私!?

 私の悲鳴にも似た叫び声が、そこら一帯に木霊した。それに驚いた鳥たちが一斉に羽ばたく音。

 ようやく静けさを取り戻したとき、私の目前に佇む青年はにこやかに口を開いた。


「飾り気のないご令嬢で、こちらとしても好感が持てますね」


 嫌味にも聞こえるが、それは当然、私のことだろう。彼の第一印象は最悪。

 さらに、彼の身なりは高貴な身分を示すに相応しいもので、傍らには護衛であろう壮年の騎士が控えていた。視線を彼らの向こうへやれば、騎士たちがいる。恐らく、視界に入らないだけで、他にも多くの騎士がこの家を取り囲んでいるはず。


(一体、何なの……?)


 戸惑う私は、未だ一言も言葉を発していない。


 そんな私の不安を感じ取ったのか、彼は心配いらないとでも言うように首を軽く横に振った。その次には優雅に手を差し出す。


「申し遅れました。僕は――」


 先の言葉を告げる前に、私と彼の間に割って入った手があった。私は、はっとして伸ばされた手の主を見やった。ガルヴィンだ。

 ガルヴィンは鋭い視線で、目の前の青年を射抜いている。彼は私の手を取り、家の中へ入るよう促した。


「シャリア。こっちへ」

「ガルヴィン……。あの……」


 言いよどんだ私をよそに、ガルヴィンは盾となるように一歩、前へ踏み出した。

 ――私が不用心に扉を開けたせいだ。ガルヴィンと繋いだ手に力が篭る。それに応えるように、彼もまた手を握り返してくれた。


 すると、青年はガルヴィンを目にした途端、驚いたような表情を浮かべた。それから直ぐに笑みを浮かべて、ひとり納得したように語る。


「おや、あなたは――。なるほど、騎士たちが遅れを取った訳ですね」


 どうやら、彼はガルヴィンのことを知っているようだ。それも昨日、診療所の裏庭で起こった一悶着をも知っているかのような口ぶり。

 ――これは糾弾されてもおかしくない。そう考えるのは当然で、私の額に冷や汗が浮かぶ。


 けれど、青年はにこやかな表情のまま、再び口を開いた。


「気を取り直して。僕はこの国の第二王子、エリオット」


 第二王子、その言葉にガルヴィンはぴくりと反応を示した。もちろん、私も。

 彼の気品ある佇まい、騎士たちを従えている様を見ると嘘ではないようだ。それに、私たちに警戒されていると判断して柔らかな語り口調を崩さない。


 私は一度、唇をきつく結ぶ。ガルヴィンの背に庇われたままではいられない、と一歩前に出た。それから、意を決して声を上げる。


僭越(せんえつ)ながら――、何の御用でしょうか?」

「あはは、そんなに(かしこ)まらないで下さい。僕たちはお願いに来たのです」


 青年――エリオット様は気さくに笑うと、そう告げた。彼は「お願い」と言うが、一国の王子が個人的に助力を求めるようなことはしないはずだ。私とガルヴィンは険しい表情のまま身構える。


 エリオット様は穏やかな口調のまま語り始めた。


「あなたに瘴気を癒やしてもらいたい。この国には予言がありまして。流行り病が人の手を超えて猛威を振るう時、瘴気を癒やす聖女が現れるという――」

「完全に人違いです」


 私は咄嗟に声を上げた。王子の話を遮るなんて、以前の私はしなかっただろう。当然、エリオット様の近くに控えている騎士には「無礼だ」と言わんばかりに苦い顔をされた。


 けれど、エリオット様はにこやかな表情をひとつも変えず、言葉の続きを口にした。


「いいえ。あなたはとても綺麗な銀髪をしていた、と聞きました。銀髪は聖女の証。それに、ここ一帯の流行り病に感染した患者が突然、完治したと報告を受けています」


 私が聖女の力を持っている完全な証拠、と言わんばかりの情報。途端、私の脳裏を駆け巡るのは、聖女の力がこの国の王族にバレてしまったという焦りだった。


(大先生の言う通り、誰かに見られていたんだわ……! それに、私……完全にやらかしてた……!)


 焦る心情とは裏腹に、私の表情筋はここぞとばかりに仕事をした。無表情を貫いたのだ。そして、私は冷たい声音で告げる。


「私ではありませんし、別の誰かが聖女様という可能性も――」

「いいえ。聖女探索に赴いていた騎士の報告ですので、間違いないかと」


 今度はエリオット様が私の言葉を遮った。彼の言葉通りなら、聖女を探すために国中を捜索していたことになる。それに、もしかしたら移民を大量に受け入れているのも――。


(教会から離反した聖女を探していた……ってこと? 何よ、それ……! そもそも、予言って何!?)


 想像の域を出ない話ばかりが頭の中を巡る。すると、エリオット様は神妙な面持ちで語り始めた。


「お恥ずかしい話。別の誰か――要は先代の聖女ですが。実はその……巧妙な詐欺師だったようで。兄上はまんまと陥落。その偽聖女は随分と前に国を追われたのですが……」


 それはどこか聞き覚えのある話。それに加えて、聖女に懸想した王子というのはどこかで見た光景だ。それがこの国でも起こっていたのだとしたら――。


(あれ……? その偽聖女って――)


 今考えるのはやめておこう。雑念を振り払うため、私は深呼吸をした。

 エリオット様は考えるような仕草をした後、私の隣にいるガルヴィンへ視線を向けた。


「それに、聖女は魔物を倒した英雄を連れていると。ね、予言通りだと思いませんか?」

「お言葉ですが、私は思いません……! それに先程から予言、予言って……」


 エリオット様の同意を求めるような問い掛けを、私は全力で否定した。勢いよく首を横に振る。

 そこではたと気付く。彼はどうしてガルヴィンが魔物を倒したと知っているのだろう。――魔物討伐遠征の英雄だと、知っているのは私だけのはず。


 私はすぐさま疑問を口にした。


「それに……なぜ、彼が魔物を倒したと?」

「彼は先日、僕たちの護衛をしてくれていたのです。そのとき、いとも簡単に魔物を倒す姿を目にしまして」


 こともなげに答えたエリオット様。だから、彼はガルヴィンを目にしたとき、見知った素ぶりを見せたのか合点がいった。――隣町に出現した魔物。ガルヴィンが受けた、報酬がやたらといい護衛の仕事。その依頼相手は「お忍び」の貴族。

 全てが繋がった。私はじっとりとした目でガルヴィンを見やる。


「ガルヴィン」

「――不本意だ」


 吐き捨てるように呟いたガルヴィン。機嫌が悪いことは一目瞭然。それに加えて、舌打ちも聞こえたような気がした。王族相手にここまで強気な態度を取れるガルヴィンの胆力には脱帽する。


 そんなガルヴィンの態度を受けても、エリオット様はにこやかな笑みを崩さない。それどころか、感心したように頷いている。


「僕は思ったのです。これほど腕の立つ者が、旅人や商人の護衛という仕事におさまっていいはずがない」


 言われてみれば、それは確かにそうだ。彼の言葉に、私の胸は締め付けられる。

 ――追放されて自由になりたい。そんな私の我儘に付き合ってくれたガルヴィン。一度にいろんなことが起こり過ぎて、脳内で処理できない。色々な感情がごちゃまぜになりそうだ。


 私はとにかくこの場を乗り切ろうと、わっと声を上げた。


「とにかく! 人違いです! お引き取り下さい……!」

「まぁ、そう仰らずに。実はここに来る途中、足を捻ってしまって……」


 エリオット様の言葉を聞いた瞬間、ぴたりと思考が止まった。怪我を負った王族からの助けを断れば――、待つのは処罰だ。それが分からないほど、私も無知ではない。最悪の結末を想像して、ぞわりと背筋に悪寒が走る。


 さらに、彼は芝居じみたように語った。


「それに、あなたたちはこの国の内情を聞いてしまった。もう無関係ではありませんね」

「……んなっ!?」


 ――そっちが勝手に話したんじゃない! そう言い掛けて、慌てて口をつぐんだ。


(この王子様……。あの国の無能王子と違って、()()()()()だわ……)


 これまでの会話から察するに、言い逃れはできなさそうだ。何か他に手を考えないと――。

 私は呆れた態度を隠すこともせず、口を開いた。


「はぁ……、中へどうぞ。粗茶くらいなら出せますから」

「ありがとうございます」


 その言葉に、エリオット様は声を弾ませた。私は彼の護衛騎士と共に、家の中へ招き入れる。

 ――まるで監視するかのように、ガルヴィンの鋭い視線が彼らに注がれていたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ