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【連載版】過労聖女は追放をお望みです!~ 寡黙な護衛騎士がついて来る、なんて困ります! ~  作者: 出口もぐら
第一章

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番外編 幼きの日邂逅:ガルヴィン視点【後編】

 それから、少女とよく顔を合わせるようになった。

 俺は剣の自主訓練、彼女は薬草を摘んで、思い思いの時間を過ごす。――会話は最低限だったが、不思議と心地よい時間だったことを覚えている。


 しかし、異変は訪れた。


 しばらく顔を合わせない日が続いていた頃だ。

 その日、俺は()()をして足に傷を負っていた。()()の内容は――見習い騎士が受ける洗礼というやつだ。俺は口数の少なさから誤解を受け、目上の騎士に目をつけられたのだ。


(血が……、止まらない。完全に俺の力不足だ……)


 自分で手当てをしようにも道具がない。適当に使い古した衣服で傷を押さえていた。さらに迷惑を掛けたくないため、誰にも言い出せず。ようやく帰り着いた孤児院の裏庭で、ただ時間を持て余していた。


 すると突然、俺の視界を横切ったのは深く帽子を被った人物。それは孤児院の裏出口から、飛び出してきたように見えた。


「うわっ……」


 俺は驚いて、声を上げてしまう。

 すると――その人物は足を止めて、こちらを向いた。俺が声を上げたことで、気付かれてしまったようだ。

 俺は首を傾げる。どこか見覚えのある背格好だ。大人の背丈ではなく、小さな子供の背丈でもない。誰だろうか、と俺がじっと考えていると、その人物はこちらを向いた。


 その見慣れた顔に、俺はまたもや声を上げることになる。


「あっ……、君は」


 ()()だ。帽子を深く被っていてすぐに分からなかった。俺が森の中で会っていた、栗色の髪をした少女。

 どうして彼女が孤児院の裏口から飛び出てきたのか、俺には理由が分からず。ただ、じっと見つめるだけになってしまった。


 すると、先に口を開いたのは彼女だった。


「その血、どうしたの……!?」

「いや、その……」


 俺は口ごもると、視線を自身の足に向けた。押さえていた布から血が滲んでいたのだ。――彼女に見られてしまった。慌てて隠そうとするが意味はなく、布を取り払えば再び血が滲んできたのだった。


 すると、彼女は俺の目の前で膝をついた。俺の傷口を直視して、痛々しいと言わんばかりに顔を歪ませる。だが、決して視線を逸らさない。――俺は、そんな彼女に視線を奪われていた。

 彼女は小さく息を吐くと、意を決したように口を開く。


「少し、動かないで。……多分、どうにかできると思うから」


 その言葉通り、彼女が祈るような仕草をした途端、――傷口は温かな光に包まれて、瞬く間に治ってしまったのだ。

 俺は目の前で何が起こったのか、理解できずにいた。塞がった足の傷と彼女を交互に見つめて、さらに混乱する始末。


 彼女はすっくと立ち上がって、俺を見下ろした。すると、彼女は悪戯っぽく首を傾げてみせた。その次には、そっと口を開く。


「……私のことは内緒よ? この足の傷を治したのも、秘密。……私のただの気まぐれ」


 そう語った彼女の表情はどこか悲しげで、俺の視線は彼女に釘付けになった。そこで気付いた変化。

 俺は、掠れた声で呟いた。


「髪の、色が――」


 わずかに覗く彼女の髪色は――銀髪だった。俺の記憶にある、栗色ではない。どうやら彼女が帽子を深く被っていたのは、髪色が原因だったようだ。

 すると、彼女の表情が一変。


「……見ないで!!」


 彼女は物凄い剣幕で叫んだのだ。俺の肩が大きく跳ねる。彼女の気分を害してしまったのか、と慌てて視線を外した。


「わ、分かった……! 誰にも言わない……。足の傷……治してくれて、ありがとう」

「……どういたしまして」


 ぶっきらぼうに告げられた言葉。だが、俺はとても温かな気持ちだった。――誰にも頼れず、誰にも心配されない。それが当然の世界だったから。

 俺は彼女の様子を窺いながら、そっと尋ねる。


「あの、……名前を教えて欲しい。今度ちゃんと、お礼をしたいから」

「……シャリアよ」


 彼女と交わした、最後の言葉だ。――生まれ持った髪色が銀髪に輝くとき、それは聖女の証。


 そうなれば、教会へ召し抱えられるに決まっている。彼女がしきりに髪の色を気にしていた理由が、分かったような気がした。自由に薬草を摘みに来る時間がなくなるのだろう。それを少しでも、遅らせたいのだと想像するのは簡単だった。


(薬草を必要としている人が、彼女にはいるのだろうな……)


 気付けば、時間の許す限り、彼女に想いを馳せていた。


 ◇


 それから――俺が騎士団の下働きから、ついに従騎士に決まった頃だった。その頃になれば、俺の背丈は伸びて、体も大人に近付いてしっかりしていた。

 ここでは年齢が上がると共に孤児院を出るが、従騎士となったからには早々に孤児院の世話にならずに済む。住み込みでの騎士見習い期間が始まるのだ。


(彼女の名前を聞いておいて良かった。騎士として一人前になれたら……会いに行こう)


 浮き立つ感情の名前を知ったのも、この頃だった。


 それから――、孤児院経由で彼女が実父に売られたと知ったときの絶望は言葉に言い表せなかった。彼女は見習い聖女として、手厚く教会へ迎え入れられたのではない。その事実に、俺が憤りを抱くのは必然だった。


(どう、いうことだ……)


 院長から聞かされた事実。俺が育った孤児院は――、彼女の母君が精力的に支援していたのだ。子供たちが路頭に迷わないようにと。

 母君が亡くなり、孤児院への援助も途絶えた。院長が話すには――商売に失敗したそうだ。没落していく商家。有り得ない話ではないだろう。


 収入源がなくなった孤児院の行き着く先は想像できる。だからこそ、知り得たこともある。


(彼女が薬草を摘みに、ここを訪れていたのは……)


 想像の域を出ない話だが、彼女は床に伏せっている母君のために薬草を学んでいたのだ。少しでも介抱に向かうと信じて、ここまで薬草を摘みに来ていた――。

 病を癒やしてもらうためには、教会への多額の寄付が必要になる。しかし、没落していく商家には到底難しい。


 それと同時に、俺は思い出す。彼女からもらった、薬草の香りが強烈な軟膏。最後に見た、温かな癒やしの光のこと。


(俺は、なんて……浅はかだ。彼女の善意にあぐらをかいて……)


 自責の念に駆られるのは必然だった。


 それに、彼女に聖女の力が発現したのは数奇な運命だ。いくら薬草を煎じても、母君の容体は良くならず。ついには命の灯は消えた。そんなとき、まるで彼女の努力を嘲笑うかのように癒やしの力が宿ったのだろう。


 それを(おもんぱか)ると――最後に見た、シャリアの表情が忘れられなかった。


(この恩義は必ず)


 強い決意をもって、騎士となる志が芽生えた瞬間だった。――そこに、俺の個人的な感情も含めて。


 ◇


 時は流れ、いよいよ正式に騎士団へ配属されることになった。埃っぽい執務室で、事務的に行われる面談。

 先輩騎士は神妙な面持ちで口を開く。


「教会騎士団……希望か」

「はい」


 俺は迷うことなく、返事をした。しかし、先輩騎士は顔をしかめるだけだ。彼は小さく溜め息をつくと、言葉を続ける。


「……あそこは居心地が悪いぞ。()()()()()()

「それでも行く理由があるのです」


 そう。教会騎士団へ志願すれば十中八九、聖女の護衛の任を言い渡されると予測がついている。そこで彼女を探せばいいだけの話。

 先輩騎士は大きく頷いた。俺の意思が固いと、伝わったのだろう。


「そうか。そう言うのならば、止めはしない。俺から口添えをしといてやる」

「ありがとうございます」


 そうして、俺が再会したのは――疲弊しきったシャリアだった。



 * * *


 乗り合い馬車は緩やかに揺れる。それは、もう少しで目的地へ到着することを予見させるには十分だ。

 俺は隣で眠るシャリアへ視線をやった。


(顔色が随分といい。よく眠れているのだろうな……本当に、よかった)


 自然と綻ぶ自身の口元を自覚しながら、俺は揺られる馬車に身を任せたのだった。


これにて一章完結です! ここまでご覧いただき、ありがとうございました。

普段は寡黙なガルヴィンのお話でした。シャリアは力が発現したばかりで、ガルヴィンの足の怪我を治療するとき。きっと力の加減を見誤ってめちゃくそなバフをかけていてもおかしくないな……とも思ったり。そんな妄想がはかどりますね^^


いよいよ次回から、追放され自由を手に入れたシャリアとガルヴィンの新しい生活が始まります!お楽しみに!


最後に、ブクマ・評価★★★★★・レビューなど頂けましたら、今後の励みになります。よろしければ、お願いします……!

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