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103/114

103 不死


イフリートの強烈な横薙ぎは、ロックジョーが創り出した泥の壁を、いとも簡単に砕いた。

そしてその余波を受けた一行は、血を吹き、その場に倒れた。


「はぁはぁ。マズイな。みんな無事か!」


ゼンジは立ち上がり、全員を見渡した。

皆、傷を負ってはいるものの、泥の壁のお陰で直撃を逃れたため、傷口は浅かった。


ロックジョーを除いては。


「ロックジョーさん!」


皆の前で壁を創ったロックジョーは、近距離で斬撃を受けていた。うつ伏せで倒れるロックジョーの地面には、おびただしい血が流れ出している。


「イフリートォォォ!」


仲間の負傷により、胸にドス黒い感情が芽生えた。


「メロン!ロックジョーさんにヒールだ!!」


『任せて!』


幸運にも無傷のメロンは、ポーラから飛び降りて、ピッピッと足音を鳴らして駆け出した。

シリアスな場面にも関わらず、間の抜けたメロンにゼンジは、ほっこりしてしまった。


しかしそれが良かった。

ドクンと大きく胸が鳴り、ゼンジは落ち着きを取り戻した。


(危ない。また我を忘れる所だった)


「メロン助かった!」


メロンは必死に走り、先程よりも大きな足音を鳴らしている。


『はっはっ、まだ、はっはっ、何もしてないよ!』


「それが良いんだよ!ロックジョーさんを頼む!」


ロックジョーの元に辿り着いたメロンは、両手を突き出し回復魔法をかけ始めた。


『ウルトラヒール!』


それを見たイフリートは、大きく腕を振り上げた。


「やめろぉぉぉ!バレットタイム!」


時がゆっくり進む中、衣のうから無反動砲を取り出し、イフリートに照準を定め、有無を言わさず発射した。

空になった無反動砲は投げ捨て、衣のうから次を取り出し発射する。


着弾する前に、次の無反動砲を取り出し引き金を引いた。


無反動砲を3発発射した所で、時が加速し始めた。


「バレットタイム」


ゼンジは間髪入れず、時を操る。

衣のうから無反動砲を取り出し発射。


決められた作業を繰り返すように、次々と3発発射する。


HEAT弾が列を作り、徐々にイフリートへと向かって行く。そして手榴弾を3個投げた所で時が元に戻った。


「バレットタイム」


再び減速した時の中、衣のうから手榴弾を取り出しては投げ、取り出しては投げた。

9個の手榴弾が空中で停止している。そして10個目の手榴弾を投げた所で、バレットタイムが終わりを告げた。


一番最初に発射したHEAT弾が、腕を振り上げたままのイフリートに着弾した。


『グオオォォォ!』


それを引き金に、次々と着弾し爆発が起こり、遅れて飛んで行く手榴弾も全て爆発した。轟音と爆煙の中、イフリートが倒れる音が響いた。


「ハァハァ」


「はぁ。貴方、一体何者なの?」


リズベスの声は、ゼンジには聞こえていなかった。


「凄まじい……」


長老たちは腰を抜かして座り込んでいる。


黒煙が引くと、身体中がボコボコにへこみ、足や腕が在らぬ方向に曲がったイフリートが、静かに横たわっていた。

イフリートの鱗の色は、赤に戻っていた。


「やったのじゃ!ゼンジが倒したのじゃ!」


『イフリート……』


「いや。倒してない。倒れただけだ。レベルが上がらなかった」


「はぁ。そうですね。まだ生きています」


イフリートが目を開けて、ゆっくりと話し始めた。


『こ、小僧。俺に止めを刺せ……アビスに飲まれる前に……頼む』


『イフリート……』


「分かった」


ゼンジは無反動砲を構えた。


『それではダメだ。俺の首にある、他とは違う逆になった……鱗を貫け』


「逆鱗か!銃剣!」


ゼンジは銃剣を呼び出し、イフリートへと駆け寄った。そして首元にある逆鱗を探した。


「あった!これだな!」


イフリートの首元にある、逆になっている1枚の鱗は、ハートの形をしていた。

ゼンジは銃剣を逆手に持ち直した。

イフリートは静かに目を閉じた。


『待ってゼンジ!イフリートは我の側近だ!いや、友達なんだよぉ!』


メロンは、ロックジョーに両手を向けたまま、回復魔法を続けている。


「メロン……」


『マスタードラゴン様。有り難き御言葉……だがすまん。誇りと共に死なせてくれ』


『イヤだ!ゼンジやめて!お願いだからイフリートを殺さないで!』


『マスタードラゴン様……その優しさが、そんな体にした事をまだ分からないのか!』


『分からん!友達を信じて何がいけないんだよ!』


『ほざけ!このクソガキが!……王に友達などいない!いい加減理解しろ!』


『イフリート……』


「メロン!自分はメロンの友達だ。友達の言う事は聞くもんだよな」


ゼンジは銃剣を下ろした。


『ありがとうゼンジ……』


『馬鹿な……小僧、頼む!マスタードラゴン様を手に掛ける前に、俺を殺してくれ!もう抑え込めない』


「何か他に手があるはずだ!」


『ある訳ないだろ!俺が死ぬ以外……グヴヴヴ』


苦悶に耐えるイフリートの全身から、黒い炎が噴き上がる。


『グオオオオオオ』


『ダメだ!イフリート!』


黒い炎が傷口に集まり、傷付いた体が次々と回復して行く。


「ゼンジ!下がるのじゃ!」


しかしゼンジは、イフリートの咆哮を至近距離で聞いた為、全身が麻痺してしまった。


『ゼンジ!逃げてゼンジ!』


黒い炎が消えると、イフリートの全身は漆黒に変わっていた。


『アビス……そんな』


イフリートは翼を羽ばたかせ、上空に浮かぶと、紫に輝く瞳でゼンジたちを睨みつけた。そして大声で吠えると、口を大きく開けて炎を集め始めた。


「ブレスじゃ!炎のブレスが来るのじゃ!リズベス、アイスウォールじゃ!」


「はぁ。無理でしょうね。助かる術はありません」


「それなら、お主だけでも逃げるのじゃ」


「え?」


「神速で逃げるのじゃ。助かる道は他に無いのじゃ。せめてお主だけでも生きるのじゃ」


リズベスは言葉を失った。


「惚けとる場合か!早く行くのじゃ!」


「はぁ。貴女には驚かされました。この状況でそのような言葉が出るなんて」


「ガッハッハ。俺は寝ていたのか?ガッハッハ。ぬいぐるみに助けられたか。すまなんだ……しかしあれは無理だな」


ロックジョーはメロンに頭を下げた。


『いいんだ。我の方こそごめんね。貴様の呪いは解けないし、勝てるチャンスを、みすみす捨てさせちゃった』


ロックジョーとメロンは、イフリートを見上げた。


イフリートの口内に炎が集束し、漆黒に色を変え凝縮されて行く。


『止めるんだイフリート!』


メロンの叫びも虚しく、イフリートはそれを解き放った。


口内から出たそれは、巨大な黒い太陽となりゼンジたちの真上に落ちてきた。


「リズベス!行くのじゃ!」


しかしリズベスは首を横に振った。


「はぁ。貴女をみくびっていました」


「諦めてたまるか!バレットタイム!」


ゆっくりと進む時の中で、麻痺した体に力を入れた。


「動いてくれ!」


しかし、エンシェントドラゴンから受けた麻痺は最上位。格下のゼンジではどうする事もできなかった。

そして再び時が加速する。


「バレットタイム!」


ゼンジは諦めない。


「頼む!動けぇぇぇ!」


強引に腕を、衣のうに伸ばし続けたその時、ガラスが割れたような音が響き、突然体が動き始めた。


「良しっ!動いた!」


麻痺から回復したゼンジは、衣のうから無反動砲を取り出しイフリートが吐き出した、黒い太陽に向けて発射した。

そして、バレットタイムが終わりを告げた。


「バレットタ……」


ゼンジがスキルを唱えようとした時、先に発射していたHEAT弾が爆発して、黒い太陽に吸収された。


「そんな……」


ゼンジは、持っていた無反動砲をその場に落とした。


「これも定めか……」


「長老!」


ダンバールが振り向くが、長老は静かに目を閉じた。


誰もが死を覚悟した。


しかしその時、ゼンジの目の前に突如として、風が起こり灰が集まり始めた。


「これは砂?灰か?」


イフリートが放った黒い太陽が灰に触れると、吸い込まれるように黒い太陽が消えた。


黒い太陽を吸収した灰は、美しい一羽の鳥に姿を変えた。


「赤鳥?」


『ピュルルルル』


オレンジ色の体に、その3倍はあろう美しい尾をなびかせて、ゼンシの前に降り立った。


「フェニックス……」


ゼンジの脳裏にある地球の記憶では、その容姿は、まさしくフェニックスのそれであった。


体長はイフリートの半分も無いのだが、長い尾と燃え盛る翼を広げる事で、イフリートよりも大きいのだと錯覚してしまう。


「復活された……」


長老を含めた4人のドワーフは、その神々しさに涙した。


「赤鳥じゃ!巨大化して助けてくれたのじゃ!」


「はぁ。違います。あれは別の個体です」


赤鳥は地に降り立ち、ゼンジたちに向けて、燃え盛る翼を羽ばたいた。すると暖かいオレンジの風に包まれ、ゼンジたちの傷が癒えて行く。


「おお。なんと慈悲深い……」


傷の癒えた長老は、跪き手を合わせた。


「ガッハッハ。呪いが消え失せた」


まだらになっていたロックジョーの肌も、みるみる元に戻っていく。


『グオオオォォォ!』


イフリートは、放った炎をあっさりと消され、与えた傷を癒す、突然現れた鳥に怒りを覚え、猛スピードで飛びかかった。


対する赤鳥は、翼を閉じてその場に座り込み、首を畳んで丸くなった。


「どうしたんだ!赤鳥は何かする気か!」


ゼンジは赤鳥と目が合った。吸い込まれそうなほど美しいその目に、時を忘れて見惚れていた。


しかし赤鳥はゆっくりと瞼を閉じた。

次の瞬間、イフリートは赤鳥を丸呑みにした。


何が起きたのか分からず、全員が言葉を失った。しかし、イフリートの口から垂れる赤鳥の長い尾が、全てを物語っていた。


『グオオオオオオ』


天に向かって吠える口からは、千切れた尾が無常にも、はらはらと落ちて行くのだった。



(女神様、こちら自衛官、

フェニックスが現れました!姿を消した、もう一体の赤鳥ですね!颯爽と現れて、あっさり食べられましたが。どうぞ)

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