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102 反撃の狼煙


ゼンジとポーラ、そしてドワーフたちは、イフリートの雄叫びで麻痺してしまった。

そして、動くことのできないゼンジを、イフリートは丸呑みにしたのであった。


「……嘘……ゼンジ……ゼンジ〜!」


ポーラたちは目の前の現実に、何が起きたのか思考が追いつかないでいる。

ゼンジがいた場所には、イフリートの顔がある。

黒い炎を身に纏うイフリートが、積年の恨みでもあるかのような眼差しで、ポーラたちを睨みつける。


『イフリート!ゼンジを戻せ!』


メロンの声に反応したのか、イフリートがゆっくりと顔を上げる。

そこにあったはずの、えぐれた地面と共に、ゼンジの姿も無くなっていた。


ポーラは麻痺が解けると、崩れるようにその場に座り込んだ。


すると目の前のゼンジと目が合った。


「おったのじゃ……」


『あれ?』


イフリートの足元に、ゼンジが座り込んでいた。

キョトンとしているゼンジが口を開いた。


「ロックジョーさん?」


ゼンジは喰われる寸前で、ロックジョーに押し倒されていた。しかし代わりに、ロックジョーが喰われてしまったのだ。


ゼンジはリッキーを思い出した。


(自分がもっと強ければ!)


「ロックジョーさんが自分を助けてくれた!!自分の代わりに……」


ゼンジが生きていた事に安堵したのも束の間、ゼンジの叫びを聞き、ロックジョーの死を悟った。


「終わりだ……」


長老は、誰にも聞こえない声量で絶望を口にする。


恐怖に襲われ、誰1人として口を開く者はいなかった。動こうとする者はいなかった。


「はぁ。何度も言いますが、遊ぶのはやめて下さい」


リズベスを除いては。


「だ、誰に言っておるのじゃ?」


その時イフリートの口の中から、こもった、あの笑い声が聞こえてきた。


「ガッハッハ。残念だが、そうあっさりとメインディッシュにありつけると思うなよ」


『グヴヴヴ……』


イフリートが唸る。


そしてジワジワとイフリートの口が開き始めた。

なんとロックジョーが、イフリートの口を持ち上げていた。


「ロックジョーさん!」


「ガッハッハ……この黒い炎は、ちと厄介だな」


ロックジョーの体はイフリート同様、黒い炎で覆われていた。


「マッドランス」


ロックジョーと共に喰われた土が棒状に集まり、イフリートの口を突っ張り棒のように固定した。そしてロックジョーは、素早く飛び降りた。


安堵したゼンジは、駆け寄って声を掛けた。


「ロックジョーさん!すみません!自分のせいで……」


「来るな!俺に触れるな!」


ロックジョーの皮膚はマダラに黒く変色している。


「はぁ。しっかり呪われてますね」


「ガッハッハ。なぁに酒を飲めば治る。大した事じゃない」


しかしその言葉とは裏腹に、ロックジョーは片膝を突き苦悶の表情だ。


『グォォォォ』


イフリートは土の槍を噛み砕くと、再び口を開けロックジョーに接近した。


「ガッハッハ。俺のマッドランスでも、傷1つ付けられんのか」


ロックジョーは睨みつけるだけで、動けはしなかった。誰もが喰われると思ったその時、メロンが悲痛な叫び声を上げた。


『イフリート!目を覚まして!』


イフリートはその声に、ピクリと反応して動きを止めた。


『マスター……ドラゴン様』


そして体を覆っていた黒い炎が消えた。


「ガッハッハ。好機……しかし体が動かぬ」


「自分がやります」


「ガッハッハ。半端な攻撃は逆効果だぞ」


ゼンジは衣のうから、無反動砲を取り出した。


「みなさん耳を塞いでください!」


後方に誰もいない事を確認した後、無反動砲の照準をイフリートに合わせて、引き金を引いた。


HEAT弾はドーナツ状の煙を残し、迷わずイフリートに着弾した。


『グゥォォォ……』


着弾による衝撃波が、川の水を吹き飛ばした。


「その武器が錬金術だと?ガッハッハ。イフリートにダメージを与えおった!」


爆煙が引くと、イフリートの胸が陥没していた。


『グワオオオオオ!!』


しかし、吠えるイフリートの胸に黒い炎が集まると、陥没していた胸が元に戻ってしまった。


「こいつも不死身なのか!」


ダンバールは、身を呈して長老の前に立ってはいるが、足は震え表情は諦めている。


怒りに震えるイフリートは、尻尾を地面に数回叩きつけた。そしてそのまま地面を抉りながら、ゼンジ目掛けて尻尾を振った。


「ゼンジ避けるのじゃ!」


しかし、動く事が出来ないゼンジの眼前に尻尾が迫った。


「くそっ!バレット……」


それは間に合わず、尻尾が直撃して轟音が鳴り響く。


「ロックジョーさん……」


ゼンジに当たる直前で、ロックジョーが受け止めていた。


「ガッハッハ。なかなか重いな。だが、出直して来い!」


ロックジョーは受け止めた尻尾を、ハンマー投げのように回転して、イフリートを崖に数回当てた後、力任せに吹き飛ばした。


「す、凄いのじゃ」


「ロックジョーさん!大丈夫ですか!」


膝を突き、肩で息をするロックジョーは、ゼンジの声にウインクで返した。そうする力しか残っていなかったのだ。


『グオオオォォォ!』


イフリートは、巨大な翼を広げ空中で止まった。目は怒りで満ち溢れている。


「来るぞ!みんな逃げろ!」


ゼンジの叫びを引き金に、イフリートが翼を羽ばたかせ低空で近寄ると、ゼンジたちを右腕で薙ぎ払った。


「ま、間に合わん」


その場から動けない長老の声を聞き、ロックジョーがスキルを発動させる。


「マッドウォール」


ロックジョーのかすれた声の後、ゼンジたちの前に分厚く、巨大な泥の壁が現れた。


しかし、金属がぶつかり合うような音が聞こえた後、泥の壁には、まるで豆腐でも切るかのように、あっさりと切れ目が入った。


「ぐわぁ!」


「きゃぁ!」 


「ああぁぁ!」


ロックジョーの抵抗も虚しく、イフリートの鉤爪による斬撃は、ゼンジたちを切り裂いた。



(女神様、こちら自衛官、

ロックジョーさんが呪われちゃいました!静かになって良いのかも……と、思った時期もありました。呪われても、全く変わらないんですが。どうぞ)

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