表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/114

101 蜂と呪いとイフリート


〜とある地下の大空洞〜


サラサラと砂が降る大空洞。

天井は黒く、その数カ所からは、砂と共に日の光が僅かに漏れている。そして中央には、石を積み上げただけの、小さな祠があった。


床一面に広がる砂。

その砂の一部が黒く変色し、集まり人の形を成して行く。

それは漆黒のフードを目深に被り、背中には見るからにサイズ違いの大剣を背負っていた。その鞘には赤黒い蜂の刻印が印されている。

正面は、足元にのみ光が当たり顔は確認できない。


「あっちぃなぁ〜っ!ったくだりぃっ。やり方が回りくどいんだよっ!」


誰もいない大空洞に、その者の声はこだまする。


砂を歩く音が響き渡る。しかしその者はその場を動いてはいない。


「初っ端からこうしとけば良かったんだよっ!」


剣を鞘から抜く金属の擦れる音が響く。

しかしやはり、その者は動かない。


「蛇には荷が重かったんだよっ!」


激しい金属音が鳴り響くと、祠の後ろの地面が巨大なクレパスのように左右に割れた。それはどこまで続くのか、どこまで深いのか分からない。

遅れて地が割れる轟音が続く。同時にクレパスの左右から、砂が流れて落ちて行く。


「これで出て来れるだろっ!」


その言葉で思い出したかの様に、祠が左右に割れ音もなく崩れると、灰となった。しかし無風の大空洞で、それは舞い上がり、砂が流れ落ちる隙間を出て行った。


「ちっ!逃げたかっ!まあいいっ!追わせて止めを刺させるかっ!」


祠を失った大空洞は大きく揺れ、その者の目の前の砂がゆっくりと盛り上がった。

そして巨大な何かが姿を現した。


「出たかっ!奴を追えっ!」


しかし巨大な何かは、炎を身に纏い大きな口を開け、その者を飲み込もうとした。


「まだ早かったかっ!」


動こうともしないその者の周りに、禍々しいオーラが渦巻いた。そして黒いオーラが、触手のように伸び始める。それを感じ取り、巨大な何かはその者を直前で避けて、砂を巻き上げ上空へと飛翔した。


「ちっ!勘の良い野郎だなっ!」


しかし触手の何本かは、巨大な何かに触れていた。


「これでアビスに落ちただろっ!」


その者はそこでようやく動いた。

正確には消え始めたのである。

足から地面にズブズブと埋まって行った。

足元に当たっていた光まで顔が下がった所で、フードの奥が露わとなる。


その者は黒い仮面を着けていた。左目の部分に真っ赤な丸が描かれた、おぞましい仮面を。


そしてその仮面も地面に埋まると、黒いシミを残してその場から消えた。


誰もいない大空洞は、わずかに揺れていた。巨大な亀裂から聞こえる、破滅の音と共に。



〜〜〜


 

地上に転移したゼンジたちは、神殿の入り口を見て異変に気付いた。


「赤いのじゃ!」


「朝なのに夕焼け?何故?」


「ガッハッハ。こいつがイフリートか……マズイな」


目の前のロックジョーは、ゼンジたちの後ろを見上げていた。


「……」


直ちに振り向いたゼンジとポーラは、声も出せず驚愕する。


そこには真っ赤に燃える巨大なドラゴンがいた。

4本の角が、後方へ波のように、うねっている。


「イ、イフリートって、レッドドラゴンの事だったのか!」


トラウマであるドラゴンを前にしたゼンジは、勝手に震え始める両足を叩き、座り込みそうになるのを必死で堪えている。


『違うよ。レッドドラゴンをまとめる、エンシェントドラゴンだ』


「なんだそれ!どうしてそんなのがここにいるんだよ!」


「メロンちゃん!作戦を教えるのじゃ!妾は何をすれば良いのじゃ!」


『我に任せてよ。イフリートは我の側近だ』


そう言うとメロンは翼を動かし飛び始め、ピッ、と幼児が履く靴の音を鳴らし、イフリートの鼻っ柱に着地した。


『イフリート!姿を見せないと思っていたら、こんな所にいたのか!』


『この気配は、やはりマスタードラゴン様。しかしその、ちんちくりんな姿はどうした』


「はぁ。マスタードラゴン……あのぬいぐるみが?有り得ない」


『この姿はアビスにやられちゃった』


『ギャハハ!だから!あれ程気を付けるように釘を刺していたのに』


『そ、それは……ごめんなさい』


「わ、笑ってる…楽しそうに話してるな……」


「ガッハッハ。ゼンジ!話は後でじっくり聴かせてもらうぞ」


「はは……掻い摘んで説明します」


『ところで、こんな所で何してるの?』


『それが全く記憶に無い。突然身体の自由を奪われて、意識も押し付けられるように別の場所へ閉じ込められた。きっと封印されていたんだな』


『やっぱり。大体の検討はつくね』


『おう。だとしたらちょっとマズイな』


『大丈夫?あれから1年だよ』


『おう。その間、怒りが湧き上がるのを必死で抑えていたんだが、それも限界を迎えようとしていた時、酒の匂いがした。それを飲んで持ち堪えていたんだが、突然意識が覚醒し、この場に出てきた』


「ガッハッハ。俺の!!酒だ!」


「ロックジョーさん!今は静かにしてください!」


『黄金のマタタビールのお陰だね』


『いや違う!俺を起こした奴がいた!』


『それは誰だい?』


『それは……ぐゔゔぅぅ』


イフリートは突然苦しみ始めた。


『イフリート!その目はどうしたんだ!』


メロンが言うように、真っ赤な体には不釣り合いな、黒い炎が両目から吹き出している。


『退けぇぇ!!』


『うわっ!』


「メロンちゃん!」


イフリートが顔を振り、メロンは吹き飛ばされた。しかし小さな翼をパタパタと動かして、地面への落下は免れた。ポーラが駆け寄りメロンを捕まえると、ゼンジの隣に戻った。


『イフリート!イフリート!』


『グヴヴヴ……』


真っ黒な炎は、イフリートの全身を覆って行く。


『イフリート!我の声が聞こえないのか!闇に堕ちるな!』


「はぁ。雲行きが怪しくなってきましたね。はあ。青き流水よ、我に集いて壁となれ」


リズベスは詠唱を始めた。


『グワオオオオオ!!』


天に向かって吠えるイフリートの周りには、真っ黒な炎が燃え上がった。

イフリートの雄叫びにより、ゼンジたちの身体は麻痺してしまった。

そして、正当防衛のロックが解除される音が聞こえた。


「体の自由が効かないぞ!」


『イフリートの雄叫びには、麻痺の効果があるんだよ』


「熱い!目が開けられない!」


「黒いのじゃ!黒い炎じゃ!」


「はぁ。アイスウォール」


両手を突き出すリズベスの前に、氷の壁が迫り上がった。


「リズベスさん!凄い!これが魔法か」


「なぜ麻痺してないのじゃ!」


「はぁ。麻痺無効のアクセサリーです。それよりも、このままでは押し負けます」


その熱に耐えかねて、川の水が一瞬で干上がった。


「ガッハッハ。決裂だな。俺の酒を盗んだツケを払わせる。マッドハンマー」


ロックジョーは右腕を、川だった場所に肘まで入れた。そしてゆっくりと引き上げる。その手には、泥で出来た巨大なハンマーが握られている。


「マッドメテオ。ぬん!」


右腕の筋肉が膨張し、はち切れんばかりに血管がほと走る。そして、イフリートに向けて泥のハンマーを振り抜いた。


根本から千切れ飛んで行く泥の塊は、アイスウォールの上部を破壊し、黒い炎を通過して、イフリートの顔面に直撃した。

しかしイフリートに触れた途端に、泥のハンマーは一瞬で消し炭となった。


『グオオオォォォ!』


イフリートが叫ぶと、黒い炎は消えた。しかし美しかった赤い鱗が、赤黒く変色していた。


「ガッハッハ。面白い!マッドハンマー!」


再び右腕を肘まで地面に押し込み引き抜くと、先程より大きな泥の塊が、地面から出てきた。

その時干上がった川に、ようやく上流から水が流れ始めた。


ロックジョーは巨大なハンマーを担ぎ上げ、大股でしゃがみ込むと、身体中に膨大な魔力を張り巡らせ、片足を大きく上げてシコを踏んだ。


「マッドロック」


爆音と地響きを轟かせ、イフリートの足元にある、川の泥と砂地の地面、そしてアイスウォールの破片が、飛び上がりイフリートを包んだ。

体を覆っていた黒い炎が消えた事もあり、イフリートはコーティングされ、動かなくなった。


「うわっ!」


ゼンジたちは激しい揺れを受け、その場に倒れ込んだ。


「はぁ。せっかく作ったアイスウォールが砕けたじゃないですか」


「ガッハッハ。いささか視界が良くなったな。マッドメテオ」


砂泥や氷等が混ざった物が、イフリートを閉じ込めた所に、すかさず泥の塊をぶつけた。


『グォォォ!』


泥の塊は、コーティングされたイフリートに直撃して、その巨体を吹き飛ばし、峡谷の壁面にめり込ませた。同時にゼンジたちの麻痺が解けた。


「凄い!大地が揺れている……」


『グオオオオオ!!』


イフリートは壁面から這い出ると、泥のコーティングを振り払い、気が狂ったように吠えた。


「ガッハッハ。ひとつも効いとらんな」


「はぁ。遊んでないで、本気で戦ってください。熱いので」


「ガッハッハ。だったら全員邪魔だ。どっか行ってくれ」


「邪魔?ロックジョーさん、その言い方は……」


「はぁ。相変わらず口が悪いですね。ロックジョーさんが本気を出すと、少なからずとも皆さんに被害が及ぶからですよ」


「そ、それはちょっと困るのじゃ。逃げれそうにもないし」


「また動けない!」


イフリートの雄叫びで、再び麻痺してしまった。


「ガッハッハ。ちょいと暴れるぞ。下がってろ」


「麻痺ってるんで動けませんよ!」


「ガッハッハ。守りながら戦う程の余裕はないぞ」


その時イフリートが、大きな口を開け、地面ごとゼンジを丸呑みにした。


「ゼンジ!」


『え?』


ポーラたちは目の前の現実に、何が起きたのか思考が追いつかないでいる。


「……嘘……ゼンジ……ゼンジ〜!」



(女神様、こちら自衛官、

攻撃が全く効かないじゃないですか!外がダメなら体の中から……って冗談ですよ。自分、食べられたんですけど。どうぞ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ