落ち着いてなんかいません
「ルミナさん、シノのこと頼みました」
小声でそう告げると、彼女は笑顔で頷いた。
……どんな状況でも笑顔でいられること、それは強さだ。そんなルミナさんになら、安心してシノを任せられる。
「任せてよアイるん。傷心につけ込んで、シーちゃんを籠絡してみせるから……」
ルミナさんの目はギラギラと輝き、5本の指はいやらしく蠢いていた。
……訂正、やっぱり安心できないかもしれない。
「あまり変なことはしないで下さいね……」
彼女に釘を刺してから、ちらりとシノの方を見る。
彼女はまだ落ち込んでいるようだ。……サクラくんとのやりとりで、相当心を痛めているのだろう。
……シノに声をかけてあげたいが、今は我慢。サクラくんを追うほうが先だ。
それに、シノはとても強い。こんな事で折れる女の子ではない。
だけどサクラくんは……『今は』とても脆くて弱い。彼がどれだけお姉様の事を大切に思っていたかを、私は知っている。
サクラくんにとってお姉様は、『この世界で初めて手を差し伸べてくれた人』だ。
知らない世界で、命まで狙われて。皆に必要ないと言われた中で……
唯一、彼を必要だと言った人。それがお姉様だ。
だからきっと、サクラくんにとっての一番は……
「…………」
頭の中の考えを振り払い、部屋を出ようとする。
だが……ある事を思い出して、私は振り返った。
そして、そのまま第四勇者さんの目の前まで移動した。
「どうしたんだい?」
困惑する彼を無視し、私は……
勢い良く、自らの拳を彼の眼前に突き出した。
「さっき私に『落ち着いているんだね』って言いましたよね?」
所謂『寸止め』をしたというのに、彼は至って平常心だった。……さすがは勇者と言ったところか。
「あぁ、そういったね」
「それは違います。私、落ち着いてなんかいません。だって……大好きな人を目の前で殴られたんですから」
出来る限りの平静を装うが無理だった。私の言葉は、無意識のうちに怒気をはらんでしまう。
「あんまり、サクラくんに酷いことをしないで下さい」
「……覚えて置くよ」
第四勇者さんの答えを聞くと、私は今後こそ部屋を後にした。




