助けなんていらない。
「アイル、どこへ行くんだい?」
扉に手をかけたところで、第四勇者さんに呼び止められる。
「サクラくんを追いかけます。あのまま一人になんてさせられません」
サクラくんを追いかけて、それで何かが変わるのか、どんな言葉をかけるべきなのか、私には何一つわからない。
だけど……ここでジッとしていることも出来なかった。
「君は、落ち着いているんだね。姉が殺されるかも知れないと言うのに。彼は……サクラは、君のお姉さんを見殺しにすると言ったんだよ?なぜ黙っていられたんだい?」
「……私にとっては"他人事"ですから」
「他人事……?そんなことはないだろう?」
私の言葉に、第四勇者さんは首を傾げる。
それもそうだ。サクラくんが見殺しにしようとしているのは、私の実の姉なのだから。
だけど……
「他人事……なんですよ。私は部外者なんです」
言葉にすると、胸がきゅっと締め付けられる。
「私にはお姉様を救う事は出来ない。……サクラくんに、『お姉様を救って』と言うことさえも出来ないんです」
サクラくんにお姉様を救ってくれとお願いすること。それは……サクラくん自身にも、死ぬリスクを背負わせてしまう。
……そんな事、私に出来る訳がない。
大好きな姉を救ってほしい。だけど、大好きなサクラくんにそんな事は頼めない。
「姉を救えるのも、それを決める事ができるのもたった一人。そして、そのたった一人に声を届ける事が出来るのも……たった一人。私はやっぱり、悲しいくらいに部外者なんです……」
無力な自分がもどかしい。何も成せず、何も言えぬ弱い自分が。
「……それで、部外者の君は、サクラにどんな言葉をかけるんだい?」
「私は……」
第四勇者さんに問われ、一瞬口ごもってしまう。だけどすぐに、正直な気持ちがこみあげて来る。
「かける言葉なんてわかりません。ただ私は、サクラくんと一緒にいたいだけなんです。……『ずっと一緒にいる』って、約束しましたから」
難しいことは何もいらない。ただ私は、約束だけを守っていきたい。
サクラくんの隣で、サクラくんの出す答えを信じて歩いていきたい。
……その答えが、彼の『真実の心』から来るものならば。
「アイル。君はサクラの………いや、『桜』の名前の意味を知っているかい?」
決意を新たにした私に問いかける第四勇者さんは、とても儚げな瞳を携えていた。
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ーーー1つの命と2つの命。……重たいのはどっち?
答えは簡単。そんなの、比べられないよ。
命はとても大切な物で、比べていいものじゃない。そんなの……誰でも知っている。
ーーー1つの命と10の命。……重たいのは、さぁどっち?
……そんなの決まっている、どっちも大事。命に重さなんて……ある訳がない。
ーーー1つの命と100の命。……ねぇ?重たいのはどっち?
……………しつこいなぁ、そんなの決まってるよ。どっちも尊くて、大切で、決められるものじゃないんだよ?……そう、決められるものじゃ……
ーーー1つの命と『世界の命』。ねぇ……召喚士様。貴方は……どっちを選ぶの。
………そんなの、決まって……る。わたし………は………。
きっと、私はそうやって壊れてしまった。
おんなじ質問をされ続けた。
何回も、何回も。
………何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も。
いつしか私は、誰でも知っている簡単なことさえも忘れてしまった。
『世界を救う為』。そんな綺麗事を掲げて、罪を重ねていった。
私は、その召喚の加護を使い、この世界に勇者を呼び続けた。
この世界の運命を、無責任に、身勝手に、自分勝手に、図々しく………無関係な人に押し付けた。
そして、元いた世界での未来をも奪った。
……才能が無かった人達からは、その命さえも。
自分達の都合で、すべてを奪い続けてきた。
ーーー『世界の為』という"キレイゴト"を掲げて。
世界の為だからって殺した。それが正しいんだって言われたから殺した。目を瞑って、耳を塞いで、私たちは間違ってないんだって言い聞かせて殺した。
だけど……目を瞑っても、耳を塞いでも、消えない。苦痛に歪む彼らの顔が、恨めしいと叫ぶ彼らの声が。
私はもうすぐ命を落とす。それは国王が決めたこと。逃れられぬ私の運命だ。
……無能な第六勇者を逃した事こそが罪なのだと、国王はそう言った。
だけど、本当は違う。
私の罪は、サクラを逃した事なんかじゃない。
私の罪は、たくさんの人の"幸せ"を奪って来たことなんだ。
いつか罰を受けるだろうと思っていた。そのいつかは、きっと今なんだ。
……だから、助けなんていらない。助けなんて"必要ない"
これは私の罪で、受けるべき罰なのだから。




