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世界の為に死んでくれ  作者: ソラ子
第三章 スティグマ
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約束した明日

「すっ…………ごく楽しかった!!」


ニーナは噛みしめるように、広場中に響く声を出した。


「ねー、つぎは何をして遊ぶ?」


ニーナがキラキラした目を向けてくる。だが………


「……っ、きゅ、休憩………ちょっとだけタイム………」


俺は肩で息をしながら、情けない声を上げた。


………わかりやすく言えば、体力の限界だ。


気温はそんなに高くないはずなのに、汗で服が肌に張り付いている。


「情けないやつだ」


「全く、男の子なんだから、体力をつけないといけませんよ?」


シノとアイルが交互に声をかけてくる。


「んなこと言ったってさぁ、仕方ないだろ?」


………そう仕方ない。


ニーナと遊ぶのが目的とは思えないほどに、この二人はガチだった。


例えば………鬼ごっこをしたときが一番ひどかった。


アイルは身体強化を惜しげもなく使い、目にも止まらぬスピードで走り始めるし………


シノはタッチされそうになる度、涼しい顔で結界を張りやがる。


流石に、ニーナ相手には手加減をしていたが………それでも言わせてもらおう。お前らまじか。


「とりあえず……座ろう………」


そう言って俺は……備え付けのベンチの一番端に腰掛けた。このベンチなら、ちょうど四人座れそうだ。


「まぁ、仕方ないな」

 

俺の意見に対して、最初に反応したのはシノだった。


シノはちょこちょことこちらに歩いてきて、俺が腰掛けたベンチの前で………


「んー……」


少し考える仕草を見せたあと………俺の隣にちょこんと座る。


その顔は、少しだけ赤い。なんだ、シノも疲れてるんじゃないか。


「シノ、顔赤いぞ」


俺が指摘すると……シノの頬は、さらに赤みを増していく。


「う、うるさい!隣に座ったくらいで照れるもんか!」


そう言ってシノはそっぽを向いてしまう。


「………照れる?走り回ったから赤くなってるんだろ?」


するとシノは…………更に更に顔を真っ赤にしていく。もう、なんか煙とか出てそう。


「うるさいバカ!バーカ!」


………よくわかんねぇ。


アイルは重度のシスコンだし、シノは見ての通りだし………もしかして俺が一番常識人?


「あはは、シノおもしろーい!お顔真っ赤だ〜!」


ニーナがシノの隣に腰掛る。その隣に、更にアイルが腰掛ける。


ニーナに笑われて恥ずかしかったのだろうか、シノは「ふん」っと鼻を鳴らして、ニーナからそっぽを向いた。


しかし…ニーナの反対側には俺がいるわけで……一瞬目があったあと、気まずそうにシノはうつむいた。なんかもじもじしてる。


「ニーナちゃんは、良くここに来るんですか?」


うつむいてしまったシノに助け舟を出すアイル。


だが………


「うん……。お家にいても、楽しくないから」


ニーナの声が少し低くなり、アイルが『しまった』という顔をした。


そんなアイルの様子に気がついていないニーナは続ける。


「今はおにーちゃんもいないし、パパはお仕事やめちゃったのに遅くまで帰って来ないし………パパが帰って来るまで、家には知らない男の人がいるの」


ニーナの言葉に、俺達は思わず息を呑む。


この少女は………思ったよりも過酷な生活を送っているんだと理解する。


きっと、家にいる知らない男というのは………母の愛人だ。仕事をやめたのに、遅くまで帰って来ないという父もおそらく……


ニーナの救いは、本当に兄だけなのだ。


「またみんなで一緒にご飯が食べたいな……」


ニーナが、遠い昔を思い出すように目を閉じる。


「昔はみんな仲良しで、ニーナにもやさしかったんだけど………。ニーナが悪い子だから、バラバラになっちゃった」


「そんなこと……っ!」


そんなことない。俺はそう言いたかった。


悪いのはニーナじゃない。悪いのは、ベーゼという個性を受け入れられない世界だ。ベーゼだった娘を愛せなかった両親だ。


だが………そんなことは言えない。


だって、ニーナは自分が悪いと思っているんだから。


自分が悪い子だったから、家族がバラバラになったと思っている。つまり……


自分が()()()になれば、家族は元通りになると思っているんだ。


『ニーナは悪くない。』ここでそう言ってしまえば……家族が元通りになるという希望すら消し去ってしまう。


「だからニーナ、いい子になるの!みんなが仲良しに戻れるように!」


そう言ってニーナは立ち上がり、胸の高さで拳を握った。


「ニーナは、家族が大好きなんだな」


立ち上がったニーナに、そう声をかける。


「うん!だから早くいい子になるの!」


ニーナの前向きさに、心を打たれる。涙さえ出そうになる。


だが、泣いちゃいけない。アイラに言われたじゃないか。男の子なんだから、泣いちゃだめだ。


「でも、ニーナがいい子になるより、シオンの花を取ってきたほうが早いのかなぁ……」


「シオンの花?」


聞き返したのはアイル。


「うん!シオンの花!」


ニーナは元気に頷く。


「その花にお願いをすると、絶対に叶うんだって!それに、シオンの花は枯れないの!」


願いが叶う花………。枯れない花………。きっとそれは………真実じゃない。


子供の幻想だ。流れ星に願い事をしたら叶うとか、そんなのと同じ。


だが、この純粋な少女はそれを信じるのだろう。そして願いは………


「シオンの花にお願いするんだ!『家族が幸せになりますように』って!」


「その花は、簡単に取れるような場所にあるんですか?」


アイルの問いかけに、ニーナは静かに首を振った。


「いいかニーナ、この街は今危ないんだ。絶対に一人で取りにいっちゃダメだ」


俺はニーナに釘を差す。連続少女誘拐事件………ニーナは少女と呼ぶにふさわしい。


「大丈夫、花にお願いなんてしなくていい。ちゃんと話をすれば、ニーナのパパとママもわかってくれるさ。それでも……もし駄目だったら、明日俺達とシオンの花を取りに行こう」


きっと……家族を思うニーナの気持ちはその両親に届くはずだ。


ニーナの願いは……もう一度みんなでご飯が食べたい。たったそれだけなのだから。


「うん。わかった!ニーナ、パパとママとお話しする!またみんなで仲良くしようって!」


「うん、それでいい。なに、大丈夫だ。もし何かあっても、お前の兄ちゃんが帰ってくるまでは俺がニーナを守ってやるよ」


「ほんと!?サクラおにーちゃんがニーナを守ってくれるの?」


「あぁ、約束だ」


少し………調子に乗ったかもしれない。誰かを守る力なんて、俺にはないのに。…………だが、ニーナが喜んでくれてるからいいや。


「もう遅い時間ですね」


アイルが空を見てつぶやく。


「ほんとだ!いい子はお家に帰らないと!………明日も、ここにくる?」


ニーナは慌てた声を出したあと、恥ずかしそうに問うてくる。


「あぁ、もちろん」


それに対して俺は、満面の笑みで答える。全俺最高のチャーミングスマイル。


「ぷっ」


シノが吹き出しやがった。許すまじ。


シノは『コホン』と、一つ咳払いをしてから立ち上がると………ニーナに向かって左手を差し出した。


ニーナが不思議そうな顔をシノをみる。


するとシノは顔を赤くしながら……


「ニーナ、今日は楽しかった。ボクは………あんまり誰かと遊んだことがないんだ」


それを聞いたニーナは、『パァッ』と顔を、みるみるうちに明るくさせる。


「ニーナもすっごく楽しかったよ!シノと友達になれて嬉しい!!」


「と、ともだち?」


「うん!初めての友達!」


「そうか………うん。ボクも初めての友達だ」


シノとニーナのやり取りを見て………ふと、アイルの方に視線を向ける。俺の視線に気付いたアイルも俺を見てから……どちらからともなく微笑んだ。


「ニーナ、家まで送っていくよ」


「んーん、大丈夫!ここから近いし、いい子は一人で帰れる!」


「そっか、じゃあまた明日。この場所で」


「うん!」


そう言って、ニーナは駆け出した。


また明日。その約束を残して。


大切な………約束を残して

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