表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛のない政略結婚だと思っていたのに、夫はそうではなかったようです ~辺境で描いた一枚の絵が王都を騒がせるまで~  作者: 花日


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/12

9.花束

 カロルドは母を尋ねた。


「母上、ユリア様の好きなものを教えてください」


 急な話に母は目を瞬かせる。


「ユリア様に謝罪せねばなりません」


 息子の言葉に母はニンマリと頬を緩めた。


「ユリアちゃんは絵が好きよ」


「知っています」


「古い物も好きみたいよ」


「古い……?」


「ええ。遺跡や遺物を見て絵を描くんですって」


「それは…………どこを掘ればいいのでしょうか?」


 母は盛大に吹き出した。


 今から遺跡を探していたら、謝罪は一体いつになるのか。


「違うわよ。

 領地の外れに古い教会があるでしょう?

 そこに出掛けませんかって誘うのよ」


「……」


「デートよ! デート」


「でっ……」


 カロルドは口をぱくぱくさせた。


「母上、それは難易度が高すぎます。

 まずは謝罪からです」


 耳を赤くしながら言うカロルド。


「はぁ……意気地のない」


「ならば庭の花でも渡して、さっさと仲直りしてしまいなさいな」


「花……」


 ーー


 翌日。


 ユリアが庭で絵を描いているとカロルドが現れた。


 あれ以来こうして二人きりになるのは初めてだ。


 気まずさから目を逸らすユリア。


 だが、カロルドは真っ直ぐユリアを見つめている。


 ――話しかける。花を渡す。謝罪を伝える。


 ――よし。


「ユリア様」


「……はい」


「これを」


 カロルドは花束を差し出した。


「え?」


「花です」


(それは見ればわかりますが……)


「えっと……くださるのですか?」


 ユリアは小首を傾げる。


「はい」


「それは……ありがとうございます?」


 ユリアは受け取ろうと手を差し出すが、カロルドは一向に花束から手を離さない。


「?」


「……その……」


「はい」


「……庭師が育てました」


「はい?」


「その……綺麗です」


「は、はあ……」


 ユリアは意味がわからなかった。


 カロルドは口を開きかけて――閉じる。


 そして何も言わない。


 沈黙が流れた。


 ユリアは助けを求めるように周囲を見回す。


 そのとき。


「以上です」


 カロルドは花束を押し付けるように渡すと、そのまま踵を返した。


「え?」


 気付いたときには、もう背中は遠ざかっていた。


 ユリアが呆気に取られていると、遠巻きに見ていた使用人と目が合う。


「……坊ちゃま」


 頭を抱える。


 ユリアは苦笑いを返すしかなかった。


 ーー


 急ぎ足で部屋へ戻ると、カロルドは机に突っ伏した。


 本当は――


『君の気持ちを無視してごめん』


 と謝るつもりだった。


 それだけではない。


 庭師と時間をかけて選んだ花の意味も伝えたかった。


『君に似合うと思ったんだ』


 そう言うつもりだった。


 そして、あわよくば。


 母上が勧めていた教会跡地へ誘えればとも思っていた。


 何度も頭の中で言葉を繰り返した。


 部屋を出る前には、これなら大丈夫だと自分に言い聞かせた。


 なのに。


 彼女の顔を見た瞬間、全部吹き飛んだ。


 頭が真っ白になり、言葉が出てこなかった。


 結果として口にできたのは、用意していた言葉の欠片ですらない。


「……何をやっているんだ俺は」


 謝罪もまともにできない。


 誘うどころか会話にすらなっていない。


 これでは花を押し付けて逃げただけだ。


 きっと彼女には何も伝わっていないだろう。


 当然だ。何も言えていないのだから。


 頭を抱えたカロルドは、そのまま机に額を打ち付けた。



 一方ユリアは、部屋で花を眺めていた。


 意味がわからない。


 本当にわからない。


 だけどきっと、あの人なりに歩み寄ろうとしてくれたのだろう。


 そう思えたから、悪い気はしなかった。


 そのときお母様がやってきた。


 お母様は机の上の花束を見て、


「どうだった?」


 と、弾む声で尋ねてくる。


「ご存知だったんですか?」


 ユリアは目を丸くした。


「ええ。あの子に相談を受けたの。

 ユリアちゃんに謝りたいって」


「謝りたい……?」


 そんな言葉はあっただろうか。

 いや、絶対になかった。


 ユリアの表情から何かを見てとったのか、


「あの子……なんて言ったの?」


 お母様が渋い顔をした。


 ――


「庭師が育てましたって言ったの!?」


「はい。あ、あと『綺麗です』って」


「それはユリアちゃんのことを?」


「え? いえ、花のことだと思います」


「なによそれ……」


 お母様は頭が痛そうにこめかみに手を当てた。


「……その花、昨日から選んでたのよ。

 ユリアちゃんに似合う花をって庭師と相談してね」


「謝罪の言葉だってたくさん考えていたし……

 使用人を捕まえて練習までしていたのよ」


「それが……はぁ……」


 大きなため息をはいた。


「……そうだったんですか」


「ごめんなさいね。本当にあの子は……」


「いえ、聞かせてもらえて良かったです」


 ユリアは笑った。


「クスクスクス……」


 止まらなくなった。


 ふと花を見る。


 なんだか急に可愛く見えてくる。


「可愛いお花ですね」


 ユリアが言う。


「ふふふ。そうね」


 お母様も笑った。


 部屋にはしばらく二人の女性の笑い声が響いていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ