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愛のない政略結婚だと思っていたのに、夫はそうではなかったようです ~辺境で描いた一枚の絵が王都を騒がせるまで~  作者: 花日


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19.賛同

 ユリアたちが退出した後も、謁見の間の空気はざわついていた。


「信じられん……」


「まさかあの小娘が本当に……」


 貴族たちは口々に感想を漏らす。


「失われた壁画をあれほど正確に描き起こせるなど、芸術の才能という言葉では片付けられんぞ」


「だが偶然かもしれん」


「まさか。歴史学者たちが何十年とかけても辿り着けなかった成果だぞ」


「そうだ。偶然で片付けるには出来すぎている」


「だが、誰かが裏で情報を流した可能性もある」


「失われた記録をどう流すというのだ」


 ユリアを称賛する者がいる一方、認めたくない者も多い。


 パン、パン。


 宰相が手を鳴らす。


「真偽はどうでもいい」


 周囲を見渡す。


「重要なのは、他国や学者が注目していることだ」


 その言葉に何人かがハッとした。


「他国への外交材料にも使えるかもしれんな」


 一人の者が呟く。


「いや、王都で展示会を開くだけで、莫大な利益が生まれるのでは?」


 その言葉に多くの者が目の色を変えた。


「……他の絵はないのか?」


「あったとしても持って来てはおらぬだろう」


「あの娘の絵が手に入れば……」


 誰もが同じことを考えていた。


 ――あの絵を我が家で展示できれば。


 ――あの才能を利用できれば。


 多くの利を得られるのではないか、と。


「……しばらく王都に滞在させてはどうだ?」


 やがて一人がそう言った。


「そうだな。せっかく辺境から出て来たのだ。奴らもこちらと縁を結びたいだろう」


 次々と賛同の声が上がる。


「ならば茶会に招くか」


「我が家には娘がいる。紹介してやろう」


「ほう。それは我が家も同じだ」


 先ほどまで冷ややかだった貴族たちは、すでに次の利益を計算し始めていた。


 それを見た宰相は細く息を吐く。


 ――まあよい。


 少なくとも今は、王国に利をもたらす存在であることに変わりはない。


 ーー


 謁見を終えたユリアたちは控えの間へ戻っていた。


「お疲れ様。大丈夫だった?」


 お母様が心配そうに尋ねる。


「はい」


 そう答えてから苦笑する。


「何だか裁判を受けている気分でした」


 ユリアは肩の力を抜く。


「もう二度とやりたくありません」


「それはお疲れ様……」


 お母様は眉を下げた。


「早く領地へ帰りたいです」


「そうね。明日の朝には出発しましょう。」


 お母様がそう言うと、カロルドが頷く。


 本来の用件は終わった。


 長居する理由はない。


 そのとき。


 扉が叩かれた。


 入ってきたのは王宮の侍従だった。


「失礼いたします。カーハインド領主代理様、ユリア様」


「何だ」


「陛下よりお言葉です」


 侍従は一礼する。


「ぜひしばらく王都へ滞在していただきたいとのことです」


 ユリアが目を瞬かせた。


「……私たちがですか?」


「はい」


 侍従は続ける。


「本日の復元画に多くの学者や貴族の皆様が関心を示しております。ぜひ交流の場を設けたいとの要望が相次いでおりまして」


 カロルドの眉が僅かに寄る。


「断ることは?」


「もちろん強制ではございません」


 そう前置きしてから、


「ただ、陛下としても王国の文化発展にご協力いただければ幸いとのことです」


 と付け加えた。


 断りづらい言い方だった。


 ユリアたちは顔を見合わせる。


 カロルドが口を開きかける。


 だが、その前に侍従が恭しく一礼した。


「すでにお部屋をご用意しております」


「……」


「こちらへどうぞ」


 返事を待つことなく歩き出す。


 まるで断られることなど考えていないかのように。


 ユリアは目を瞬かせた。


 足を止めたユリアたちに、侍従は不思議そうに振り返る。


「お荷物はすでに運ばせていただきました」


「え?」


「こちらへどうぞ」


 つまりーー


 滞在は既に決まっているらしい。


 ーー


 案内された部屋は驚くほど広かった。


 夕食と入浴を終え、ようやく一人になる。


 ベッドへ腰掛けると、どっと疲れが押し寄せた。


 謁見。


 貴族たちの視線。


 次々と飛んできた質問。


 思い出すだけで胃が痛くなる。


 だが同時に、別のことも思い出した。


『失礼ではないですか』


 いつもあまり感情を表に出さないカロルドが、あのとき確かに怒っていた。


 強い言葉を向けられても一歩も引かなかった。


『証拠もなくユリアを疑うのですか』


 そう言って、ユリアを確かに守ってくれていた。


「……あれ?」


『ユリア』


 呼び方。


 いつもと違っていた。


 ユリアは瞬きをした。


 いつもなら、


『ユリア様』


 あるいは、


『あなた』


 だったはずだ。


 謁見の最中だったから気にする余裕がなかった。


 だが確かに聞いた。


『ユリア』


 と。


「聞き間違いでしょうか……」


 首を傾げる。


 けれど何度思い返してもそう聞こえる。


 胸の奥が少しだけくすぐったくなった。



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