第97話 カバン
うっすらと暗くなりかけた街へ出る。
「あらら、もう暗くなり始めちゃったね。 早く市場行かないとカバンが探せなくなっちゃうよ。」
「市場は夜でもやってるだろ?」
「やってるけどさ、夜市になると、ちょっと値段が上がるんだよね。」
「そんなもんなのか?」
「店員さんたちは残業になるし、夜は普段の買い物客じゃなく、観光要素も入ってくるから、ちょっと値段上げるんだって。」
「そんなもんなのか。キミ、なんでそんな話知ってるんだ?」
「うん? あ、雑貨屋のハロルドさんが教えてくれたんだよ。 買い物するなら昼間が良いよって。」
「そりゃ、ガチ情報だな。じゃ、急ごう、走って行くか。」
「そんなに急がなくても良いでしょ。まだ夜市にはならないから。」
結局、走りはしないものの、ちょっと急ぎ足で市場へ来た。
「カバンの店ならあの辺かな。」
ネコ娘が指をさした。
「で、どんな感じのカバン買うんだ?」
「そうね、前に見たんだけど、カバンに小さなタイヤが付いてるのがあったんだよね。あれ、便利そうだなって思ってる。」
「あぁ、スーツケースみたいなやつか。」
「すんずけぇず?」
「なんだよ、その東北弁の親戚みたいなのは・・ スーツケース。そういうカバンがあるんだよ。」
「へぇ、あ、ほらこれ、こんな感じの。 おじさん、それ見せて。」
「はいよ。」
ネコ娘が受け取ったのは、スーツケースというより、大きなバスケットにタイヤが2つついてる、ショッピングカートの大きい版みたいなカバンだった。
まぁ、この世界にポリカーボネートとかのちゃんとしたスーツケースがあるわけないから、タイヤ付きのカバンって言ってもこんなもんなんだろうな。
「これ、荷物運ぶのは楽そうだけど、カバン自体が重いし扱い辛い感じだな。」
「あと、結構これ、フレームとか大きいから、結構置いとくのにも場所とるぞ?」
「だよね。それなら簡単に畳んでしまえる布製の方が良いかな? おじさん、こっちの、ほら、あれ、あ、そうそう、それ見せて。」
「ほー、布って言っても結構丈夫な布なんだな。」
「それは帆船の帆布を使っとるんじゃよ。カバンとしてなら一生もの、いや、孫の代まで使える位丈夫じゃよ。」
「確かに、布もしっかりしてるし、縫製の糸もすごい頑丈そうだよね。 良いな、これいくらなの?」
「それは5万WDじゃよ。」
「はぁ? 布のカバンが5万WD? そりゃ孫の代まで使えたとしても高すぎるだろ。 もっと手ごろな日常使いのカバンはないのか?」
「そうじゃの。軽いものが良ければこっちの布製。中身を守りたいなら、こっちの竹で編んだ籠製のカバンがおすすめじゃな。」
「まぁ、確かに5万WDのカバンはちょっと高すぎるよね。貴方の腕時計より全然高いんだもんね。 その布のやつを見せて。」
「・・オレの腕時計の値段のことは、今は関係ないだろ。」
「そう? だって、その腕時計、ロマンと美学の結晶でしょ? まぁ、アタシのこの腕時計と比べたら、このカバン位じゃ全然釣り合わないけどね。」
「もうその話は良いんだよ。今はカバンだろ。カバン探しに集中しろよ。」
「ハイハイ。 あら、これ、さっきの帆布より全然軽いし、結構丈夫そうだわ。 悪くないわね。 ほら。」
ネコ娘が布のカバンを手渡してきた。
「どれ。 ほぉ、思ったよりしっかり出来てるな。良いんじゃないか、これ。」
「おじさん、これは幾ら?」
「それは2000WDじゃよ。」
「へぇ、お手頃じゃない? これでどう?」
「お手頃って、これでもオレの腕時計と同じなんだぞ? オヤジ、もうすこし勉強してもらえないのか?」
「そうですねぇ。じゃ、1800WDまでなら。」
「1500WDでどうだ? 布製なんだし。」
「いやぁいやぁ、これは最新デザインのカバンなんで、1800WDまでじゃな。これでも、こっちは儲けなんかちっとも出ないでの。」
「良いじゃないの1800WDで。アタシ、これにするわ。気に入っちゃった。 ねぇ、買って良いでしょ? これなら貴方の荷物も一緒に入るわよ。」
「あぁ、わかったよ。それで良いよ。」
「毎度あり。」
小さく折りたたんだカバンを持って市場を出た。
「さて、ブラウンズキッチンに向かいますか。」
「そうだな。キミ、場所覚えてるか?」
「大丈夫だよ、宿の先の路地だったよね?」
「あぁ、そうだ。」
路地に灯りが漏れてる店が見えてきた。
少し剥げかかった看板には「ブラウンズキッチン」と書かれてる。
ガラガラガラ・・
ガラスの引き戸を開ける。
「二名様? 空いてるお好きな席へどうぞ!」
奥からスタッフが声をかけてきた。
相変わらずテキパキしたスタッフの動きが良い感じだな。
窓に面した2人掛けのテーブル席に座った。
「いらっしゃい。なににしましょうか?」
すぐにスタッフがやってくる。
「オレはとりあえずビール。キミは?」
「アタシもビールにする。」
「ビール2つね。今日のお勧めは牛すね肉の黒ビール煮込みと茸と半熟卵の温サラダだよ。」
「いいね、それ両方貰うよ。とりあえずそれで。」
「あいよ、ちょっと待っててね。」




