第95話 深鍋
「じゃ、根魚煮探さないとね。 くんくんくん・・」
ネコ娘が少し顔を上げて鼻をヒクヒクさせる。
「根魚煮屋、3つあるみたいね。 この中で一番魚の鮮度が良いのは・・こっちね。」
ネコ娘がスタスタと歩き始める。
「キミの鼻、警察犬みたいだな。」
「瞬殺拳?」
「いや、警察犬って、匂いで犯人を追いかけたりする犬のことだ。 なんだ、その瞬殺拳って、めっちゃ強そうだな。」
「へぇ、貴方の世界では犬が事件の捜査をするんだ。頭良い犬がいるんだね。」
「あ、捜査するわけじゃなくて、匂いで犯人を捜すんだ。 犬の嗅覚は凄いからな。」
「あの嗅覚で生活するの大変そうだよね。」
「キミだって、今みたいに匂い嗅ぎ分けられるじゃないか。」
「アタシのは必要な時に必要な分だけ使えるの。犬みたいに年がら年中クンクンしてないわよ。」
「あれ?やっぱりキミたち、犬は好きじゃない?」
「なによ、その、やっぱりってのは。 アタシはネコ族の末裔。ネコじゃないから。」
ネコ娘が顔をプイッと背ける。それでも鼻はちゃんとヒクヒクしてる。
「わかったわかった。とにかく、キミのその優秀な嗅覚で美味い根魚煮屋を探し出してくれ。」
「貴方の居た世界では犬が嗅覚で犯人探してるのに、アタシは根魚煮屋を探すって、なんだかちょっとアレじゃない?」
「いや・・それは気にしすぎた。 だいたい、今の最重要事項は根魚煮屋だろ?」
「・・まぁいいわ。 こっちよ。」
路地へ入った。
「ここね。深鍋って言うんだ。 入る?」
「あぁ、キミの鼻を信じてるよ。」
「それはどうも、ありがとうございますね。」
嬉しいのか怒ってるのか微妙な表情のままネコ娘が店に入った。
店の入り口には大きな鍋がコトコトと音を立てている。
これが根魚煮なんだろうな。
店内はカウンターしかない小さな店だ。
席に座るとすぐに赤いエプロンをつけた年齢不詳のおばちゃんが水を出してくれた。
「煮卵は入れるかい?」
「煮卵? 根魚煮に煮卵を入れるってことか?」
「煮卵、味が染みてるから美味いよ。」
「そうか。じゃ、入れてくれ。」
「アタシも煮卵入りにする。」
「ハイよ。」
赤エプロンのおばちゃんが入り口脇の大きな鍋から根魚煮をよそう。
ゴトンっ
「煮卵入りね」
丼と土鍋の中間みたいな黒い大き目の器にたっぷりの根魚煮に半分に切った煮卵が入ってる。
「あ、骨付きなんだ。」
ネコ娘が箸で魚を突く。
「骨まで全部食べられるよ。カルシウム満点だよ。」
「骨まで食べられるのか。じゃぁ、早速頂いてみるか。いただきます。」
パクっと。
「あ、骨がホロホロだ。よく煮込んであるな。」
「凄いね、アタシ、骨がこんなになってるの初めてだよ。」
まぁ、監獄の食事でわざわざ骨がホロホロになるまで煮込んでくれるなんて、あるわけないからな。 でも、ネコなんだから、骨そのままでも・・
まぁ、余計なこと言うと、またネコ娘が不貞腐れるからな。
大き目の器にたっぷりの根魚煮をサラッと平らげて店を出た。
「街の市場の根魚煮屋さんのとは違って、すごくパンチがある根魚煮だったけど、これはこれで美味しかったね。」
「あぁ、味が濃いのは旅人とか、荷運びとかで力仕事の人が多いからじゃないのかな。オレ達も歩いて来たところだから、ちょうど、ハマったんだろ。」
「なるほどね、街の目的でも味が変わるんだね。」
「飯も喰ったし、次は宿を探すか。」
「高級ホテルだよね!」
「そんな洒落たもの無かったろ? 今まで歩いてきて、そんなの見かけたか?」
「うーん、確かに無かったな・・」
「街自体、そんなに大きくもないから、一回りして見れば、もう少しわかるだろ。」
一旦メインストリートに戻った。
「宿はあるけど、これは本当に旅人が素泊まりするような感じの宿だな。 ちょっと落ち着かないな。」
「これ、高級ホテルじゃないし・・。」
「いや、だから、高級ホテルは無いって。 ほら、裏道入るぞ。」
「こっちも同じような宿しかないね。」
「そうだな。門の近くだと、滞在するっていうより、移動のための中継地点ってことなのかもな。」
結局、門のところまで来てしまった。
「案外無いもんだな。」
「ねぇ、あれは?」
ネコ娘が指さす先には、展望台と、その少し先に大き目の建物があった。
「ホテルって書いてあるか? 行ってみるか。」
近づいていくと看板が読めるようになってきた。
「ゲートホテル? 本当にホテルだな。」
「やったぁ。ホテルあった。」
建物には小さいながらも、馬車寄せが付いた玄関があった。
「ほう、かなりちゃんとしたホテルじゃないか。」
入口に近づくと、ドアボーイがドアを開けてくれた。
そのままフロントへ向かう。
「いらっしゃいませ。ご宿泊ですか?」
制服姿の女性スタッフが声をかけてくる。
「あぁ、宿を探してるところなんだが、ここの部屋はどんな感じなんだ?」
「お客様は、お二人様ですね? ダブルのお部屋もツインのお部屋も用意できますが、どちらがよろしいですか?」
「ツインで頼む。 部屋を見ることはできるのかな?」
「もちろんで御座います。」
スタッフがベルをチンっと鳴らすと、ボーイがやってきた。




