第94話 風織
メインストリートを門の方へ向かって歩く。
「市場の周りと違って、こっちって道幅が広いよね。」
「荷馬車とかが多く通るからだろうな。」
「そっか、それに走ってる馬車も大きいのが多いしね。」
「市場の周りと違って、道路自体に活気があるって感じだな。」
他愛もないことを話しているうちに、門が見えてきた。
「門が見えてきたね。結局この前来た時も展望台登っただけだから、今日はもっといろんなところを見てみたいな。」
「そうだな。街中とは雰囲気違うし、興味深いな。」
「展望台も見えてきたよ? また登る?」
「いや、もういいだろ。 屋上に登ったって、ソフトクリームしか売ってないって、もう知ってるんだし。」
「そうだね、でもあれ、結構おいしかったよね。もう一回食べに行こうか?」
「いや、だから登らないって。他でもソフトクリーム位売ってるところあるんじゃないか?」
「そうだね、じゃ、歩きながら探せば良いか。」
ネコ娘が四つ角で立ち止まった。
「こっち、この先、市場っぽい感じだよ?」
「そうか? じゃ、そっちに行ってみるか?」
四つ角を左に曲がって、少し歩いた。
「市場だな。街のとは規模が違うが、やはり外との境界だから、珍しいものも売られてるな。」
「わぁ、これ奇麗だな。なんだろう?」
「それはね、風織って言うんじゃよ。遠くの国の織物さ。触ってごらん。」
異国の民族衣装のようなものを着た店の老婆がニコっと笑った。
「へぇ、これサラサラでなんだか涼しく感じる。ほら。」
ネコ娘が薄い布を手渡してきた。
「いや、涼しい布って・・・ あれ? ほんとだ、なんかひんやりするな。」
「フフフ、面白いじゃろ? それは繊維と織り方で、体感温度を下げる効果があるんじゃよ。」
「体感温度を下げる? ってことは冷たい布ってこと?」
「いやいや、布自体が冷たい訳じゃないんじゃよ。皮膚の方が冷たく感じるってことじゃよ。まぁ、悪くいってしまえば、気のせいじゃな、フフフ。でも触ると気持ち良いじゃろ?」
「うん。すっごく気持ちいい。それに、 見るたびに色が少しづつ違って見えるわ。」
「これは、こうやって、暑いときにスカーフにして使うと、気持ちも良いし、日焼け止めにもなるんじゃよ。」
店の老婆が自分の首にふわっと布を掛けて見せた。
「これって、暑い国のものってことか? ってことは南の方角の国のものなのか?」
「その通り、南の外れの国の布じゃ。ただ、わしらも、交易人から買い付けてるんで、実際の国がどこかは知らんがの。フフフ。」
ネコ娘の目が輝いてる。これは絶対ヤバい合図だ。
「ねぇ?・・あのね・・」
「買わないぞ。」
「まだ何も言ってないでしょ。」
「どうせ、また、買えっていうんだろ?」
「レジェンド探偵様? 助手がみすぼらしい恰好だと、レジェンド探偵様の品格にも傷がつかないかしら? アタシ、そんなことでレジェンド探偵様の迷惑にはなりたくないな・・。」
「おや、旦那さんはレジェンド探偵さんなのかい? そりゃ凄いお方がいらしたもんだ。」
「まぁ、人はそう呼ぶな。うん。 キミの言い分にも一理ある。わかった、それを貰おう。」
その瞬間、ネコ娘と店の老婆がウィンクしあった。
あ、くそ、またノセられたか・・。
「どうする? 今使うかい? それとも袋に入れようか?」
「今使うわ。気持ち良いもん。」
「そうかい。じゃ、風織スカーフの伝統的な巻き方を教えてあげようね。」
老婆が立ち上がってネコ娘にスカーフを巻いた。
「ほら、こんな感じじゃよ。」
老婆が手鏡をネコ娘に向ける。
「素敵だわ、ありがとう。アタシ、この巻き方練習しなきゃ。」
オレが金を払っていると、ネコ娘は既に隣の屋台でなにやら物色し始めた。
「え? これも可愛い。」
「おい、全部の店で何か買うつもりか? 今日は街の様子を見に来たんだろう。」
「てへ。それもそうね。ここに住めばいつでも買いに来られるもんね。」
「いや、だから、後ででも買わないって。 いいから、とにかく先に全体の雰囲気を見た方が良いんじゃないか?」
ゆっくりと市場を歩く。
「こんな香辛料、今まで見たことないな。こういうのを見ると外との貿易の街だって感じがするな。」
「もしかして、珍しい食べ物とかもあるかもね。」
「そういえば、そろそろ昼飯だな。ついでに飯屋も探すか。」
「賛成! アタシ、汁物が食べたいな。」
「飯屋はどのあたりにあるんだ? こっちは、市場らしいから、メインストリートの反対側へ行ってみるか?」
メインストリートまで戻って、四つ角の反対側へ渡る。
「あるね、食事が出来そうなところ。」
「あぁ、結構色んな店があるじゃないか。これならしばらく飽きなさそうだな。」
「じゃ、今日は何にする?」
「何って言われても、何があるか知らないからな。そういえばキミ、汁物が食べたいって言ってなかったか?」
「うん、なんか、お腹が温まりそうなのが食べたいのよね。そうね、根魚煮とかどう? 定番だけど、こっちは街中とは味違うかもでしょ?」
「根魚煮か。久しぶりだな。よし、オレもそれでいいぞ。」




