第88話 日が出てるうちから
そのまま結局いつもの噴水の所まで戻ってきた。
「なんだか、この噴水のところに来ると落ち着くな。」
「だよね、なんだか懐かしい感じもするし。まだこの街に来てそんなに経ってないのにね。 なんだか長く住んでる気がするな。」
「あぁ、ホントだな。なかなか濃い毎日だし、全然飽きないな。」
「ところでそろそろお昼だけど、どうする? いつもの根魚煮?」
「根魚煮はちょっと飽きたな。」
「なに、飽きたの?飽きてないの? どっちなのよ、もう。」
「まぁ、流石にいくら定番料理だって言われても、同じものばかりだとな。オレの居た世界は食べ物の種類はもっと豊富だったんだぞ。」
「貴方、前もそんなこと言ってたわよね。それじゃ、また、食べたことない物シリーズにしてみる?」
「いいな、それ。何かアイデアがあるのか?」
「へへー、実はネタは既に仕入れてあるんですぜ、旦那。」
「おぅ、やるじゃねぇか。一体なんなんだい、そりゃ?」
「これは、古着屋のモレノちゃんからの極秘ネタなんですがね、焼き葉包み飯っていうのがあるって話でさぁ。」
「ほほう? 焼き葉包み飯? 葉っぱで包んだ何かなんだろうな、いいじゃねぇか、それ行ってみようじゃねぇか。」
「ほい来た、合点、承知の助でい。」
「ってか、これ。なにゴッコなんだ?」
「うーん、よくわかんないけど、江戸時代風?」
・・この世界に江戸時代ってのもあったのか・・。なんか設定が適当だな。
少し歩くとネコ娘が通りの先を指さした。
「たぶん、あそこだね。『葉炭亭』って看板が出てるね。」
「あぁ、もう、香ばしい焼けた匂いがしてくるな。」
店の正面に炭焼き台があって、その脇を通って店内に入るようだ。
長年の煙のせいなのか、少し煤けた感じの店内の竹で編んだような椅子に座る。
「いらっしゃい。」
初老の女性店員が1枚っぺらのメニューを持ってきた。
「へぇ、炭焼き葉包み飯は、魚ほぐし包み、塩肉包み、柑皮包み、貝香包み、焦がし茸包みがあるんだね。 あ、炭火つまみもあるよ。炙り干し魚、焼き豆串、葉焼き根菜と炭焼き薄貝だって。 あとは塩漬け菜と焼き白茸。 何にする?」
「オレは貝香包みにする。 それより、なんかつまみ系が気になるな。その炭火つまみ、全部美味そうだぞ。 っていうか、それ、ビール飲みたくなる系のラインナップじゃないか。」
「だよねー。あ、あった。ビールもちゃんとあるよ。」
「そうなのか? 昼からビールか? それはさすがにお天道様からバチが当たらるんじゃないか?」
「軽くちょっと飲むのは問題ないでしょ。 アタシは魚ほぐし包みにしようっと。 じゃ、あと、炙り干し魚と炭焼き薄貝頼む? それとビール。」
「なんだか魚介ばっかりだな。塩漬け菜も頼もうぜ。野菜は大事なんだぞ。」
「オッケー。注文お願いしまーす。」
エプロン姿の初老の女性店員が注文票を持ってやってきた。
「えっと、貝香包みと魚ほぐし包み。あと、炙り干し魚、炭焼き薄貝、塩漬け菜もお願いします。それと、ビールも2つ下さい。」
「はい、少々お待ちくださいね。」
店員が店の表の焼き台へ向かって行った。
トトンッ。
ビールが2本と小皿が2枚テーブルに置かれた。
「はい、ビール2本と、お先に塩漬け菜ね。あと、これはビールの突き出し。」
「お、突き出しはカラカラの実か、やっぱりこれがビールの定番なんだな。」
「これって実は、店によって結構味が違うのよ。ここのはどうだろう。 頂きます。」
ネコ娘が1粒パクっと口に放り込んだ。
「うん、絶妙な塩加減だわ。それにちょっとピリッと辛みもある。 うん、良いわ、ここの。 あ、乾杯しましょ。」
カチン
昼間だからか、軽めにグラスを合わせた。
「かんぱい。」
「乾杯。」
グビっとビールを飲む。 日が出てるうちから飲むビールは、背徳感も加わって美味さ倍増だ。
「ところで何に乾杯なんだ? まだお疲れ様でもないだろ?」
「何言ってるんですかレジェンド探偵さま。もちろん、腕時計に乾杯でしょ。」
ネコ娘が腕時計を軽くグラスと合わせた。
「あ・・それか。しかし、それで11万WDってのはな・・。」
「あらそう? こんな素敵な時計が11万WDならお買い得だったんじゃないかしら?」
「そりゃ、キミは支払ってないんだからお得だろうよ。」
「まぁ、ほら、いつまでもお金の話してると幸運が逃げてくっていうでしょ。もういいじゃないの、綺麗な時計だな、ただそれだけよ。」
「そうか? そんなものか? なんだか納得いかないけど・・。」
「おまちどうさま、炙り干し魚、炭焼き薄貝です。 葉包み飯はもう少しだけ待ってくださいね。」
テーブルの上が一気に華やかになった。
「あ、アタシ、ビールもう一杯お願いします。」
「おいおい、昼間っから全開で行くのかよ。よし、それじゃ、オレももう一杯もらうかな。」
トンッ。
追加のビールが届いた。
「はい、もう一回乾杯しましょ。 素敵な腕時計と、素敵なレジェンド探偵さんに乾杯!」
「お、おう、乾杯。」
なんかオレ、良いように言いくるめられてないか?




