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レジェンド探偵 ASAKURA ~俺のハードボイルドに触れると火傷するぜ(俺が)~  作者: Sakamoto9


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第86話 ロマンと美学の結晶

「おまたせしました。普通盛りです。」


乳白色の小さな土鍋が2つ、テーブルに置かれた。


「土鍋で玉子スープ。 なんだかこだわりが凄いな。」


「なんだかおしゃれだよね。 開けてみようっと。」


ネコ娘がパカっと土鍋の蓋を開けた。


「え? あ、こういうことなんだ。」


「は? なんだ? どうした?」


オレも蓋を開ける。


土鍋の中には透き通ったスープと、そこに4つ切りしたゆで卵。


「あ、こういうことなのか・・。」


やべぇ、ネコ娘と同じ反応しちまった・・。


とにかくスープ専門店ってくらいなんだからスープを飲んでみよう。


ズズッ・・。


「・・なんだこれ・・。透明だからあっさりかと思ったら、濃厚な鶏の出汁に、ちょっと香ばしい香り。それに柑橘類の香りも凄いぞ?」


「はい、こちらは焦し塩を使ってます。 それとオレンジの皮を乾燥させたものを煮出して濾したものを加えているんです。」


店員さんが小さな声で説明してくれた。


「なるほど、確かにこれならスープの専門店だな。」


「アタシ、溶き卵のスープだと思ってたよ。こんなの初めて。美味しいね。」


「あぁ、オレも中華スープだと思ってた。これは想像を超えるスープだな。特に、この透明感。 透明ってのはただ色がないことじゃない。それは、余計な情報を削ぎ落とした『純度』のことだ。 そして濁りとは、思考の残滓。つまり、透明なスープとは、それを一度理解した者だけが辿り着く境地ってことだ。 わかるか?」


「うん、何言ってるか全然わからないわ。」


「・・・ ズズズ・・。」


静かにスープを飲む。 良いんだ、凡人にはレジェンドの考えは理解できない物さ。


4つ切りになったゆで卵をすくって食べる。


「なるほど、ゆで卵は鶏出汁スープの邪魔をしないどころか、程よく味変と食感が加わって・・ これが無いと成立しないって位ピッタリだな。うん、これは美味い。」


「へぇ、貴方が褒めるなんて珍しいじゃない?」


「はぁ? オレはいつでも正しい評価をする男だぞ? だいたい、評価できるってのは、オレくらいのレジェン・・」


「はぁ、美味しかったー。 ご馳走様。」


「・・人が話してるときはちゃんと聞く。そして、人が話してる時には上から被せないって何度も言ったよな?」


「ごちそうさまでした。レジェンド探偵さま。」


ネコ娘がもう一度、ゆっくりと言った。


これはもう完璧におちょくられてるよな・・。


「もういい・・ 食べ終わったなら帰るか。」


最後に残ったスープを飲み干して店を出た。


「スープなのに結構お腹にたまるね。」


「あぁ、ゆで卵って意外と腹持ちも良いらしいぞ。」


ネコ娘とたわいもないことを話しながら噴水まで戻ってきた。


「どこで腕時計売ってるか知ってるか?」


「うん、そういうお店が何件か集まってるところと、屋台だけど腕時計がある店があるよ?」


「じゃ、屋台の方を案内してくれ。」


「こっちよ。」


屋台とは言っても、野菜や果物みたいな賑やかな所じゃなく、静かなエリアにある屋台だった。


「へぇ、色んな腕時計があるな。キミはどれが良い?」


「どれにしよっかなー。おじさん、そっちの見せて。」


ネコ娘は腕時計選び真剣モードに入ったようだ。


さて、オレは、まぁ、特に拘りは無いが、せっかく買うなら機械式を買っておくか。


これなんかどうだ? 


「オヤジ、これは機械式だよな?」


「あぁ、これは手巻きだな。」


「やっぱりそうか、腕時計なら機械式、漢のロマンと美学だからな。一目見てわかったさ。 で、幾らだ?」


「それは10万WDだな。」


「はぁ? そりゃちょっと高すぎないか? この古い腕時計がか?」


「それはビンテージモデルだよ。 手ごろなのが良いならこの辺どうだ?」


オヤジが別の一角を指さした。


「ふーん、で、この辺だと幾らなんだ?」


「こっちは3万WD、これは2万WD。」


「一番手ごろなのは?」


「一番安いやつかい? そうだな、それならこれかな。これなら2千WDだ。」


「これって、機械式じゃないよな?」


「あぁ、これはバッテリーだ。機械式じゃ、2万WDが最安値さ。」


「そうか・・。 まぁ、腕時計なんて時間がわかりゃいいからな、うん。」


「お客さん、念のため、それは機械式じゃないけど良いのかい?」


「あぁ、良いんだ。オレはこれが気にいったんだ。そうだ、コイツに決めた。」


「・・・・。はい、毎度あり。」


「キミはどうした? オレはもう買ったぞ?」


「うーん、悩んじゃうよね。おじさん、あっちのも見せて。」


「おいおい、そんなに悩むことか?」


「そりゃそうよ、だって腕時計だよ? ロマンと美学の結晶なんだよ?」


「は? なんで時計にロマンとか美学が必要なんだ? 正確な時間、それこそがレジェンドとしての基本中の基本だぞ?」


「貴方、2分前の自分のセリフも忘れちゃうの? それとも、敢えて忘れるようにしてるのかしら?」


「さぁ? 何言ってるか意味が分からんな。 とにかくオレはオレのお気に入りを見つけた。それだけだ。 キミも早く選ぶと良い。 なんならオレが見繕ってやろうか? オヤジ、お手頃なのはどれだ?」



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