第80話 朝霧亭
「うーん・・。 うぅぅん・・。 うん? あれ? あっ、もしかして?」
「おい、なんだよ、何かわかったのか?」
「ねぇ、もしかして、目印って、腕まくりじゃない? それも、右手だけ、とか。」
「え? 腕まくり? それも右手だけ? ウメさんは・・ いや、思い出せないな。で、さっきの黄色シャツの奴? ・・そっちも全然思い出せないぞ? 腕まくりなんかしてたかな?」
「貴方もやっぱり覚えてないか。アタシもそんなこと全然記憶にないのよね。」
「はぁ? キミ、何言ってるんだ? それでなんで腕まくりが目印とか言い出したんだよ?」
「えっ? 貴方こそ何言ってるの。 だから、今貴方の両方の記憶を見直したんじゃないの。 アタシはアタシの記憶で言ってるんじゃないの。 貴方の記憶を見直して言ってるよ。」
「・・あ、いや、それはわかってるよ。うん。で? 続けてくれ。」
「・・・わかってなかったでしょ。 今思いっきり話の腰を折ったわよね?」
「あ、ほら、もう宿だ。 よし、今日はとにかく一旦休んで、明日、もう一度話をしようか。な。」
「・・・まぁ、それでいいわ。アタシも疲れたし。」
部屋に入ると、ネコ娘はまっすぐに窓際のベッドへ転がった。
ま、ネコ娘も寝ちゃうことだし、オレも横になるかな。
とはいえ、折角手に入れた情報なんで、整理しておかないと。
ベッドに横になりながら、もう一度黄色シャツの男のことを思い出そうとする。が、なぜか黄色いシャツの男ではなく、黄色い羊が走り回ってる。
チュン、チュン、チュン。
あ、朝だ・・。 やっぱり即寝落ちしてたみたいだな。
窓際のベッドを見ると、もう既にネコ娘の姿は無かった。
また、市場にでも行ったのか? まぁ、オレも特に予定はないし、行ってみるか。
顔を洗って身支度を整えて、市場へ向かう。
ネコ娘が何処に行ってるのかは分からないが、とりあえず、最近ちょっとお気に入りになってきたミックスジュース屋にでも行くか。
「あーっ。おっはよー。」
「おぉ、キミも来てたのか。」
「毎日ジュースが変わるから、飽きないし、楽しみになっちゃったんだよね。 貴方も実は気に入ってるんじゃない? わざわざ歩いてくるなんて。」
「まぁ、ウォーキングも兼ねてな。朝の果物は健康にも良いしな。 健康管理は探偵の最初の一歩だからな。 特にレジェンドと呼ばれるオ・・」
「まぁ、健康管理は探偵じゃなくても大事だけどね。」
「だから、人が喋ってる時には上から被せるなって、何度も言ってるだろ。まぁいいか。で、今日のおススメはなんだった?」
「これなんだけど、メロアとルミルにローストルートと蜂蜜が入ってるんだって。」
「メロアとルミルは果物だってわかるけど、ローストルートってなんだ?」
「根菜を乾燥させてローストしたものを粉末状にしたものなんだってさ。胃腸を整える効果があるんだって。 でも、結構独特の苦みがあって、それがちょっとツボってるんだよね。」
「へぇ、面白そうじゃないか。じゃ、オレも同じものにしよう。」
早速一口飲んでみる。
「うっわ、これは確かに苦味が凄いな。 うん、でも、なんか癖になる。」
「ねー、根菜って、根魚煮で食べたときには甘味があったのに、ローストすると全然味が変わるんで、ちょっとビックリだよ。」
「あ、そっか。これが根魚煮の根菜か。 確かにそうだな。あ、逆に根魚煮が喰いたくなってきたな。昼は根魚煮にするか?」
「いいねー。いつもの所?」
「あぁ、オレはあそこ、嫌いじゃないぞ。」
「だから、素直に好きって言えば良いのに。」
「意味は同じだろ。」
「まぁ、貴方に何言っても響かないのはわかってるから、もういいわ。 で、ランチは根魚煮で決まったけど、朝ご飯はどうするの?」
「まぁ、なんでも構わんが、できればチーズパイ以外が良いな。」
「チーズパイ以外ね、それじゃ、ミルクハーブ粥にする? これもヴァルトベルクの定番朝食メニューなんだってさ。」
「へぇ、粥ね。キミは食べたことあるのか?」
「アタシもまだ食べたことないんだ。」
「それじゃちょうどいい、それにしようか。」
「了解。それじゃ、八百屋のおじさんに教えてもらった店、行ってみよっか。確か・・こっちだよ。」
ネコ娘に連れられて市場の外に出た。
「あ、ここだ。朝霧亭。」
店内はカウンターだけの小さな店だった。
「粥2つで良いですか? トッピングどうします?」
椅子に座るとすぐ、カウンターの中の店員がいきなりトッピングを聞いてきた。
確かにメニューにもトッピングの種類しか書かれてない。
ってことは、ここのメニューはミルクハーブ粥と、そのトッピングしかないってことなんだな。
「じゃぁね、アタシは焼き柑皮チップとルミベリーお願い。」
「オレはそのまま、プレーンで。」
「はい、すぐ作りますね。」
確かに、本当にすぐに陶器の深いお椀が2つ出てきた。
「プレーンだとミルク色でシンプルなのに、トッピング乗せると急に華やかになるね。 頂きます。」
スプーンに取った粥をフーフー言いながらネコ娘が食べ始める。




