第78話 赤くなった?
「さて、と。 しっかりエンジンもあったまってきたし、そろそろ出番なんで行くけど、本当に聞きに来てくれるのかい?」
「もちろん、行きますよ! ね?」
ネコ娘がオレに同意を求めるように振り向いた。
「あぁ、オレも行くぞ。」
「それはありがたい。今夜は楽しいライブになりそうだ。 じゃ、オヤジ、ごちそうさん。」
「マスター、ご馳走様でした。」
「それじゃまた。」
3人で屋台を出て夜道を歩く。
「確か、この辺だったな、例の『今夜の星は綺麗か』って男が寄ってきたのは。」
「あー、声かけてきたのが、暴力バーの用心棒だったやつだよね。」
「え? 暴力バー? なんじゃそりゃ?」
「あぁ、ウメさんにはまだ話して無かったっけな。ほら、この前この辺でウメさんに『今夜の星は綺麗か』って声かけてきた妙な男が居たろ。 あれ、実はメインストリートの裏道にある暴力バーの用心棒だったんだよ。」
「えぇ? それじゃ、ガチでヤバいじゃないか。」
「あぁ、オレはかなり臭いと思ってる。」
そんな話をしながら歩いているうちに、ライブ・アンド・ルーズって大きな文字の看板が見えてきた。
今日もしっかりバンドの音が店の外に漏れて来てる。
「なんだか入る前からワクワクする店ね。」
何故かネコ娘は鼻を突きだしてヒクヒクさせてる。
ドアを開けると、生バンドの音の圧が押し寄せてくる。
今夜も店内にはかなり客が居た。
席に座るとすぐにウメさんがスタッフを呼んだ。
「ラム酒、ロックで。」
「バーボン、ロック。」
「ラム酒とバーボンかぁ。じゃぁ、アタシはブランデー。ロックで下さい。」
「ラム酒、バーボン、ブランデーですね。少々お待ちくださいね。」
スタッフが小走りにバーカウンターへ向かっていった。
「ウメさんの順番は?」
「このバンドの次、かな、たぶん。」
「そっかー、楽しみだな。」
「お待たせしました、ラム酒ロック、バーボンロック、ブランデーロックです。」
さっきとは違うスタッフが飲み物と、カラカラの実のローストが乗った皿をテーブルにドン、と置いて行った。
「それじゃ、改めて、乾杯だ。」
「かんぱーい。」
「乾杯。」
大きめのロックグラスがカチンっと良い音を響かせる。
バンドの音が止まり、ライトが落ちた。
「あれ? もう終わっちまったか。まだ飲んでないのに。」
そう言ってウメさんはラム酒ロックを一気に半分飲んで、席を立った。
真っすぐにステージに向かうと、軽くジャンプしてステージに上がって、バンドメンバーからマイクを受け取った。
「壊れたままでいい――俺は、まだ鳴っている」
うぉー。
ウメちゃんの声がマイクに乗った瞬間、店内から歓声があがる。
前回と同じように3曲を歌いきって席に戻ってきた。
「うん、ちょうど良い頃合いだ。」
ロックグラスをクルクル回して、歌ってる間に溶けた氷とラム酒を雑に混ぜて、半分残ってたグラスのラム酒を一気に飲み干した。
「くー、喉を使った後の直接アルコール消毒、これが気持ちいいんだ。」
ウメさんは口を半開きにして上の方を見つめてる。
「酒で喉を焼く魂のロックシンガーって感じだな。」
「おぉっ、レジェンド探偵さんよ、なんか凄い良いこと言ったね。 それじゃ、もう少し喉焼いとこうかな。 あ、ラム酒、ロックで。」
ウメさんがニカっと笑いながら、通りかかったスタッフを呼び止めて追加をオーダーする。
「こっちも、バーボンロック。」
「じゃ、アタシもブランデー、ロックで下さい。」
すぐに小さな丸テーブルに大きめのロックグラスが3つ置かれた。
「それじゃ、ウメさんの歌に乾杯しましょ、はい、かんぱーい!」
「おう、ありがとう、乾杯!」
「乾杯。」
その後もなぜか4杯、いや4回ほど乾杯が続いたあと、店を出た。
店の前でウメさんと別れて、ネコ娘と二人で宿へ向かう。
「ここって、『今夜の星は綺麗か』男の現場よね?」
「あぁ、さっきも通ったな。」
「うん、この道って、別に店が多いわけでもないのに、何故か結構人が通る気がしない?」
「・・そう言われてみれば、そんな気もするな。」
「もしかして、ここが取引で有名な場所だったりするんじゃない?」
「あぁ、ここに来ればバイヤーが居る、みたいな場所か。あり得なくはないな。」
「だって、店もないのに、こんなに人が通るって変じゃない?」
「確かに。みんな一人で歩いてるってのも妙だな。」
「ちょっと観察してみようよ。 えーっと、そこ。そこの植込みの所に二人で立ってれば、カップルがじゃれあってるみたいに見えるんじゃない?」
「カップルがじゃれあってるって、オレは孤高のレジェンド探偵だぞ? 人前でいちゃつくとか、あり得ないだろ。 それもキミと?」
「あのね、これは仕事。情報収集でしょ。なに急に顔赤くしてるのよ。」
「はぁ? 赤くなんかなってねーよ。」
「なってるわよ。もしかして緊張してるの?」
「はぁ? なんでキミみたいなネコ娘相手に緊張するんだよ。 赤くなったのは、バーボンロック飲んだからだろ。」
「もしかして、やっぱりデートとかしたことない感じ?」
ネコ娘がニヤっと笑った。




